東京株式市場は、受け渡しベースで5/28(金)から6月相場に入りました。5月相場はインフレ・金利上昇懸念から一時波乱の展開となりましたが、後半はやや落ち着きを取り戻しました。

6月相場は上昇基調を取り戻すのでしょうか。

6月といえば、株主総会が注目されます。

東京証券取引所の調べでは、6/29(火)が株主総会の開催日のピークとなる予定です。株式市場ではこの時期、“自社株買い”が話題になりやすい傾向にあります。そこで今回は、「ROE」に注目し、自社株買いの実施に踏み切りやすい企業をピックアップしてみました。

当ページの内容につきましては、SBI証券 投資情報部長 鈴木による動画での詳しい解説も行っております。ぜひ、ご視聴ください。

日本株投資戦略
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■執筆者のプロフィール

鈴木英之
鈴木 英之
SBI証券 投資情報部長 
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的寄稿も多数。
・出身 東京(下町)生まれ埼玉育ち
・趣味 ハロプロの応援と旅行(乗り鉄)
・特技 どこでもいつでも寝れます
・好きな食べ物 サイゼリヤのごはん

“自社株買い”が期待される銘柄を探る!

日本株投資戦略,上方修正期待銘柄
(画像=PIXTA)

“自社株買い”候補銘柄のスクリーニング条件は以下です。

(1)東証1部上場銘柄であること。
(2)時価総額が500億円以上の銘柄であること。
(3)銀行、証券・商品先物、保険を除く業種の銘柄であること。
(4)市場予想PER(株価収益率)が15倍未満の銘柄であること。
(5)PBR(株価純資産倍率)が0.9倍未満の銘柄であること。
(6)純現金総資産比率※1が0%以上の銘柄であること。
(7)純資産比率が50%超の銘柄であること。
(8)市場予想ROE(株主資本利益率)が5%超8%未満の銘柄であること。
(9)今期の市場予想純利益が前期比で増益または黒字転換の銘柄であること。

これらの条件を全て満たす銘柄が、図表1です。

スクリー二ング条件(4)から(7)までの条件を満たしていることで、現金等の資産が豊富で、財務体質は堅固であるものの、投資指標的には割安感の強い銘柄であると考えられます。

そして、ここで注目したい点がスクリーニング条件(8)の「市場予想ROE」です。

ROEは株主から出資された資金をいかに効率的に運用して、利益に結びつけているかを示します。特に外国人投資家や機関投資家の多くはROEを重要な投資指標の1つとし、8%を上回る水準が外国人投資家らの投資判断の目安とも言われています。

上記の抽出条件はROEが5%超8%未満の銘柄であることを前提としているため、ROEはあまり高くありません。そのため、一部の投資家からは堅固な財務体質を事業に生かし切れていないと評価される可能性があり、企業はROEを高めるため、一層努力して純利益を稼ぎ出すことが重要です。

ご参考までに東証1部のROEは8.1%※2です。

 予想ROE=予想EPS(1株利益)/BPS(1株純資産)
      =[株価/BPS(1株純資産)]×[予想EPS(1株利益)/株価]
      =PBR/予想PER
      =1.3/16.04
      =8.1%

※注1. 「純現金総資産比率」は、前期の「現金等価物」から「短期借入金」、「1年以内の長期借入金」、「長期借入金」、「社債」を差し引いた金額(純現金=ネットキャッシュ)を総資産で割った比率です。
※注2. 5/27(木)現在、東証1部銘柄の予想PERは16.04倍で、PBRは1.3倍(いずれも日経新聞社による計算)となっています。これらの数字をもとに、東証1部上場銘柄のROEは8.1%(※注2)と計算されます。

“自社株買い”が期待されるキャッシュリッチ・好財務・バリュー銘柄
(画像=SBI証券)

図表1 “自社株買い”が期待されるキャッシュリッチ・好財務・バリュー銘柄
コード / 銘柄(決算月) / 株価(5/27) / 市場予想PER(倍) / PBR(倍) / 純資産比率 / 純現金総資産比率 / 市場予想ROE
<7313> / テイ・エス テック / 1,517 / 9.9 / 0.68 / 77.2% / 39.2% / 6.92%
<5988> / パイオラックス / 1,439 / 11.3 / 0.60 / 88.4% / 29.7% / 5.33%
<5192> / 三ツ星ベルト / 1,730 / 13.4 / 0.72 / 72.4% / 26.6% / 5.37%
<5943> / ノーリツ(12) / 1,941 / 14.1 / 0.89 / 56.6% / 21.6% / 6.31%
<1762> / 高松コンストラクショングループ / 2,047 / 9.9 / 0.69 / 52.4% / 19.2% / 6.94%
<7296> / エフ・シー・シー / 1,709 / 9.1 / 0.68 / 75.1% / 18.4% / 7.53%
<6995> / 東海理化電機製作所 / 1,770 / 9.9 / 0.62 / 64.5% / 15.3% / 6.23%
<4099> / 四国化成工業 / 1,228 / 11.6 / 0.90 / 71.3% / 11.5% / 7.71%
<1942> / 関電工 / 907 / 8.5 / 0.67 / 61.2% / 9.6% / 7.82%
<4401> / ADEKA / 1,908 / 11.7 / 0.73 / 62.0% / 6.2% / 6.24%
<6770> / アルプスアルパイン / 1,196 / 12.8 / 0.69 / 54.5% / 5.1% / 5.41%
<6737> / EIZO / 4,690 / 14.5 / 0.93 / 76.3% / 4.2% / 6.41%

※Bloomberg、会社公表データをもとにSBI証券が作成。
※純現金総資産比率の大きい順に掲載。 ※色付き銘柄は2016年以降に自社株買い(公開買い付けを含む)を実施した実績のある銘柄。
※「市場予想ROE」は市場予想純利益を前期純資産で割った数字です。なお、「市場予想」はBloombergが集計した今期予想の市場コンセンサスです。
※財務に関連する数値はすべて会社データ(2021/3期末)です。時価総額はBloombergによる計算です。
※銘柄名右横に(12)と表記したノーリツ(5943)のみが12月決算で、他は3月決算銘柄です。 ※「純資産比率」は純資産(少数株主持分を含む)を総資産で割っています。

“自社株買い”のメリット・デメリット

前項で触れたように企業がROEを高めるためには、一層努力して純利益を稼ぎ出すことが重要ですが、“自社株買い”を活用することも有効な方法の1つです。

自社株を購入した分、純資産は減少したと認識されるので、利益が同じでもROEは上昇するためです。発行済み株式が減った分、1株利益や1株純資産が増えるので、1株配当を増やしやすくなるという面もあります。

また、買い付けた自社株を金庫株として保有し、M&Aやストックオプション、株主政策へ活用するケースも多くみられます。5/28(金)のエイベックス(7860)による、“第3者(割当先はサイバーエージェント)処分”も、その一例です。

無論、企業が買い付け期間を指定し、市場から自社株を買い入れる時は、その間の株式需給が引き締まり、株価が上昇しやすくなります。そもそも、“自社株買い”を宣言することは、当該会社の経営が“当社株は割安である”と主張しているとも捉えられます。

図表1の色付き銘柄は2016年以降に自社株買い(公開買い付けを含む)を実施した実績のある銘柄です。自社株買いを有効と考えるか否かは、企業により異なる面もありますが、実施実績は投資判断を行う上で重要な判断材料の1つとなります。

なお、デメリットとしては、現金等を使う分、財務体質が悪化する可能性が出てきます。また、自社株を公開買付けで買う場合、需給面のメリットが縮小する面もありそうです。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部

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