ESG投資を行うとき、ダイベストメントという言葉を知っておく必要があります。ESG投資の基準を満たさない株式は保有対象からダイベストメントによって除外される可能性があるからです。ダイベストメントの概念と、機関投資家のポートフォリオから除外される可能性が高い業種について解説します。

ダイベストメントとは何か

要注意!ESG投資で除外される「ダイベストメント」とは何か
(画像=VitaliiVodolazskyi/stock.adobe.com)

ダイベストント(Divestment)とは、投資した金融資産を売却して引き揚げることをいいます。ESG投資の専門用語ではなく、赤字事業を売却して財務体質を改善し、企業価値を高めるケースなどに以前から使われていた言葉です。「選択と集中」という企業戦略のなかで、中核事業ではない事業を売却するときにも使われます。

Webサイト「Energy Shift」の記事によると、ダイベストメントが社会的運動になった始まりは、南アフリカ共和国のアパルトヘイト(人種差別政策)やたばこ産業に抗議したことによるといわれています。2008年に数人の学生と教師で設立された「350Org」という組織が2012年に、世界中の化石燃料産業に対しダイベストメントを行うように求める運動を呼びかけました。

その後もダイベストメントの動きは広がり、2021年1月時点で化石燃料からのダイベストメントを表明している機関は1,308あり、その資産総額は14.5兆ドルに達しています。

ESG投資においてダイベストメントという言葉が注目されはじめたのは、気候変動対策や二酸化炭素排出量削減への関心が世界的に高まるなか、それらの取り組みが企業価値に与える影響が大きくなったためです。

朝日新聞の報道によれば、ニューヨーク(米国)、ベルリン(ドイツ)などの都市や、オックスフォード大学(英国)、英国国教会、ノルウェー政府年金基金などの団体が化石燃料からの投資撤退を決めています。

ダイベストメントを表明した都市や企業の運用資産は6兆ドルを超える規模になっています。ダイベストメントが投資に与える影響の大きさがうかがえます。

ESG投資のネガティブ・スクリーニングと似ている

ダイベストメントと似たような手法に、ESG投資のネガティブ・スクリーニングがあります。ネガティブ・スクリーニングとは、あらかじめ定められた社会や環境の基準を満たさない企業を、投資対象から排除することをいいます。例えば、アルコール、たばこ、ギャンブルなどに関する銘柄を「罪ある株式」と呼んで排除するミューチュアルファンド(米国で最も普及している投資信託の形態)が存在します。

ダイベストメントにおいても罪ある株式は保有資産から外されますが、両者の違いはネガティブ・スクリーニングがあらかじめ投資対象から排除するのに対し、ダイベストメントはすでに保有している資産を売却してポートフォリオから除外する手法であることです。

個人投資家がESG投資に取り組む場合も、ダイベストメントで除外されるような銘柄を保有している場合は売却することが望ましいといえます。

ダイベストメントで除外される業種の具体例

ダイベストメントで除外される業種として代表的なのが「化石燃料ダイベストメント」や「石炭ダイベストメント」などです。石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料は再生可能エネルギーが普及するにつれて次第に活用されなくなり、いずれ資産価値が大きく下がる見込みです。

資産価値が減少すると、保有する企業は財務会計上、資産価値を減損処理しなければならなくなります。このように社会環境や市場環境の変化により価値が大きく毀損する資産を「座礁資産」と呼びます。企業は資産防衛のため、ダイベストメントによって座礁資産を除外しておく必要があるのです。

ESG投資においては、下記のような社会的観点から問題とされる業界や政策は、ダイベストメントの対象になる可能性が高く、注意する必要があります。

【世界でダイベストメントの対象になる主なキーワード】
化石燃料、石炭、原子力発電、武器製造、アルコール、たばこ、ギャンブル、ポルノ

日本経済新聞の報道によると、海外の年金基金がダイベストメントの対象になる日本企業への投資から撤退しています。例えば、キリンホールディングス、宝ホールディングス(アルコール)、日本たばこ産業(たばこ)、東京都競馬、よみうりランド(ギャンブル)、東京電力ホールディングス、日産自動車、東芝(化石燃料、石炭、原子力発電)などです。

社名を見ればわかるものもありますが、一見しただけでは気が付きにくい企業もあります。東芝は火力発電所の建設を行っており、よみうりランドは川崎競馬場や船橋競馬場を運営しています。投資にあたってはホームページに掲載されている事業内容をよく確認する必要があります。

ダイベストメントにはどんな手法がある?

では、ダイベストメントはどのような手法によって行われるのでしょうか。1つは機関投資家などが座礁資産に関連する株式を売却することです。具体的には石炭、石油、天然ガスなどを扱う資源関連株が該当します。

化石燃料を生産するための設備関連株も売却の対象になるかもしれません。したがって、もしこれらの関連株を保有していたら、将来的には値下がりする可能性が高いため、処分を検討する必要があります。

2つめは企業自らがダイベストメントの対象になる事業から撤退することです。例えば、東芝が火力発電所の新規建設から撤退を発表したのが好例です。二酸化炭素を多く発生させる石炭火力の受注は減少しており、採算をとるのが難しいと判断したもので、今後は再生可能エネルギー事業を強化するとしています。

その一環として、米国のGEと共同で洋上風力発電設備の生産に進出することを表明しています。そうなるとダイベストメントの対象銘柄から、逆にESG投資の対象銘柄に立場が変わり、企業としての評価も高まることになります。

3つめは銀行などの金融機関がダイベストメントの対象になる企業への新規融資を停止することです。日本ではまだ一般的ではありませんが、海外の主要銀行は事業採算性が悪化している石炭産業の投資適格性を下げる動きを広げています。

2015年に気候変動問題に関する枠組みである「パリ協定」が締結されて以降、欧米で金融機関の気候変動問題に対する関心が高まっていることが影響しているのかもしれません。日本では原子力政策が頓挫していることもあり、石炭火力にいまも頼らざるを得ない状況です。日本政府のエネルギー政策に対する行方が注目されます。

ESG投資の基準を満たす企業に投資しよう

さて、これからESG投資を始めようと考える場合は、ESG投資の基準になる項目を理解する必要があります。ESG投資とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)に配慮して活動を行っている企業に投資することです。

環境では地球温暖化対策、生物多様性の保護、社会では人権配慮や地域貢献活動、企業統治では法令順守、社外取締役の独立性などが評価の内容になります。これらの3要素は非財務情報と呼ばれ、定量的な財務情報に加え、非財務情報を考慮して投資することをESG投資と呼んでいます。

日本では2020年10月26日の「第203回臨時国会」で菅首相が所信表明演説を行い、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しています。再生可能エネルギーや電気自動車の普及など、企業や団体もESG活動の取組を強化しています。

ダイベストメントは化石燃料関連企業から資金を引き揚げることで、再生可能エネルギーへの転換を促すという役割があります。個人もESG投資の基準を満たす企業に投資することで、間接的にESG活動に参加することが可能です。2050年の温室効果ガス排出ゼロの目標達成に向け、官民一体となったESG活動への取り組みが求められます。

(提供:Renergy Online



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