つみたてNISAを使えば非課税で長期の積立投資ができる。気になるのが手数料だ。つみたてNISAにかかる主な費用は運用手数料(信託報酬)なので、商品タイプごとの信託報酬の相場をおさえておくことが銘柄選びのポイントになる。
1,つみたてNISA(積立NISA)にかかる手数料
つみたてNISAとは?
年間40万円を上限として配当・譲渡所得を20年間非課税とする制度。運用商品は金融庁が認めた長期分散投資に適した投資信託とETFのみ。
つみたてNISAで投資する際にかかる手数料にはどのようなものがあるのだろうか。
つみたてNISA(積立NISA)はどの金融機関でも手数料は同じ
つみたてNISAでは、iDeCo(個人型確定拠出年金)のような「加入手数料」や「口座管理手数料」が存在しない。したがって、金融機関ごとの手数料の違いはない。そのため金融機関を選ぶ際は手数料以外の要素、たとえば商品ラインアップやポイントプログラムなどを比較検討するのが良いだろう。
つみたてNISA(積立NISA)でかかる手数料は「信託報酬」だけ
では運用時や売却時などには、どのような費用がかかるのだろうか。
つみたてNISAの場合、取引にかかる費用も購入時手数料のかからない「ノーロード投信」に限られる。売却時に発生する「信託財産留保額」については一部の商品では求められることがあるが1回限りなので、商品ごとに差が出るのは運用手数料である「信託報酬」だ。
つみたてNISA(積立NISA)対象商品の信託報酬率とは?
つみたてNISA対象商品の信託報酬率には以下のように上限が設けられている。
インデックス型投信の場合
・国内資産に投資するファン……0.5%(税抜)
・海外および国内外……0.75%(税抜)
アクティブ型投信の場合
・国内……1.0%(税抜)
・海外および国内外……1.5%(税抜)
バランス型投信は複数の資産に分散してインデックス投資をするものなので、信託報酬の基準はインデックス型に該当する(※平成29年6月の金融庁「つみたてNISAについて」より)。
金融庁の規定のおかげでつみたてNISAには極端な高コスト商品は存在しないが、193銘柄(※金融庁「つみたてNISA対象商品届出一覧」2021年12月23日時点)もあるので手数料には多少違いが表れる。
また、商品の種類によって信託報酬の相場が異なるので、実際の商品の例をもとに適正な手数料はどの程度かを知っておくと良いだろう。
ここでは、商品の種類を以下の6つとする。(※海外は「国内外」を意味する)
・インデックス型投信(国内)
・インデックス型投信(海外)
・ バランス型投信(国内)
・バランス型投信(海外)
・アクティブ型投信(国内)
・アクティブ型投信(海外)
2,つみたてNISA(積立NISA)で購入できる「国内インデックス型投信」の手数料比較
つみたてNISAで国内の指標に連動するインデックス型投信は全35銘柄だ。信託報酬は0.15%~0.55%(税込)である。そのうち代表的な5銘柄の信託報酬を比較してみよう。なお、以下に紹介する銘柄は売買を推奨するものでも将来の値上がりを保証するものでもない。
連動指数 | ファンド名 | 信託報酬 (税込) |
純資産総額 |
---|---|---|---|
日経平均株価 | ニッセイ日経225 インデックスファンド |
0.275% | 1,863.29億 |
野村インデックスファンド・ 日経225 (愛称:Funds-i日経225) |
0.44% | 417.09億 | |
たわらノーロード 日経225 |
0.187% 以内 |
402.71億 | |
TOPIX | 三井住友・DCつみたてNISA・ 日本株インデックスファンド |
0.176% | 510.50億 |
<購入・換金手数料なし> ニッセイTOPIXインデックスファンド |
0.154% 以内 |
385,09億 |
※2021年4月20日時点、筆者作成
日経平均株価に連動するインデックスファンドでは「ニッセイ日経225インデックスファンド」の存在感が大きい。2004年設定ということで運用期間が長いということもある。ただ新しい国内型インデックスファンドの中には信託報酬を0.1%におさえたものも多く、規模以外の視点で比較することも必要だ。
3,つみたてNISA(積立NISA)で購入できる「海外インデックス型投信」の手数料比較
つみたてNISAで海外の指標に連動するインデックス型投信は全49銘柄だ。信託報酬は「野村 スリーゼロ先進国株式投信」を除けば0.09%~0.66%(税込)で、ベンチマークとする指標ごとにやや違いがある。そのうち代表的な10銘柄の信託報酬を比較してみよう。
連動指数 | ファンド名 | 信託報酬 (税込) |
純資産総額 (百万円) |
---|---|---|---|
S&P500 (北米) |
eMAXIS Slim米国株式 (S&P500) |
0.0968% 以内 |
3,792.38億 |
SBI・バンガード・S&P500 インデックス・ファンド (愛称:SBI・バンガード・S&P500) |
0.0938% 程度 |
1,800.52億 | |
CRSP U.S. (北米) |
楽天・全米株式インデックス・ファンド (愛称:楽天・バンガード・ファンド(全米株式)) |
0.162% 程度 |
2,506.38億 |
MSCIコクサイ (先進国) |
<購入・換金手数料なし> ニッセイ外国株式インデックスファンド |
0.1023% 以内 |
2,704.92億 |
eMAXIS Slim 先進国株式 インデックス |
0.1023% 以内 |
1,939.63億 | |
たわらノーロード 先進国株式 |
0.10989% 以内 |
1,077.82億 | |
SMT グローバル株式 インデックス・オープン |
0.55% | 986.65億 | |
MSCI ACWI (グローバル) |
eMAXIS Slim 全世界株式 (オール・カントリー) |
0.1144% 以内 |
1,523.34億 |
FTSE Global (グローバル) |
全世界株式インデックス・ファンド (愛称:楽天・バンガード・ファンド (全世界株式)) |
0.212% 程度 |
882.75億 |
MSCI Emerging (新興国) |
eMAXIS Slim 新興国株式インデックス |
0.187% 以内 |
603.39億 |
※2021年4月20日時点、筆者作成
海外資産に投資する投資信託には、北米・先進国・全世界(グローバル)・新興国を対象とするものがある。特に人気なのは米国市場の大型優良株のみを対象とするS&P500に連動する投資信託だ。米国株式市場の好調が続いていることに加え、信託報酬が0.1%を切る水準まで値下がりしていることが大きい。
次に人気なのが日本を除く主要先進国の株式に投資する銘柄である。「MSCIコクサイインデックス」という指標に連動する投資信託は本数も多い。
1本で全世界に投資できるグローバルタイプの投資信託は初心者でも購入しやすく、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は“投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year 2020”で2年連続の1位受賞している。「楽天・バンガード・ファンド(全世界株式)」も2017年設定から猛スピードで純資産総額を伸ばしている。
4,つみたてNISA(積立NISA)で購入できる「国内バランス型投信」の手数料比較
つみたてNISAで国内の2つ以上の指標に連動するバランス型投信は4銘柄に限られる。信託報酬の範囲は0.21%~0.42%(税込)と狭い。
連動指数 | ファンド名 | 信託報酬 (税込) |
純資産総額 (百万円) |
---|---|---|---|
日経平均株価 東証REIT指数 |
日本株式・ Jリートバランスファンド |
0.209% | 5.93億 |
NZAM・ベータ 日本2資産 (株式+REIT) |
0.242% | 0.24億 | |
TOPIX
東証REIT指数 債券NOMURA-BPI(総合) |
東京海上・ 円資産インデックスバランスファンド (愛称:つみたて円奏会) |
0.418% | 0.9億 |
ニッセイ・インデックスパッケージ (国内・株式/リート/債券) (愛称:ファンドパック日本) |
0.3102% | 0.72億 |
※2021年4月22日現在、筆者作成
複数の国内指標に連動するバランス型投資信託は数が少なく、対象銘柄の純資産総額も限られている。つみたてNISAではあまり存在感がない。
連動する指標は日経平均株価と東証REIT指数、債券の総合指数であるNOMURA-BPI(総合)と組み合わせたものもある。つみたてNISAで国内REITに投資したいと考えているなら一考に値する。
5,つみたてNISA(積立NISA)で購入できる「海外バランス型投信)の手数料比較
つみたてNISAで海外の2つ以上の指数に連動するバランス型投信は全部で79銘柄あり、最も種類が多い。信託報酬は0.15%~0.66%(税込)とさまざまだ。経年とともに資産配分が安全志向に変化していく「ターゲットイヤー型」と呼ばれるファンドはやや高めになっている。代表的な10銘柄の信託報酬を比較する。
連動指数 | ファンド名 | 信託報酬 (税込) |
純資産総額 |
---|---|---|---|
国内外株式 国内外債券 |
三井住友TAM-世界経済 インデックスファンド |
0.55% | 919.29億 |
DCニッセイワールド セレクトファンド(標準型) |
0.154% | 432.06億 | |
三井住友・DC年金バランス50 (標準型) (愛称:マイパッケージ) |
0.253% | 389.20億 | |
DCニッセイワールド セレクトファンド(株式重視型) |
0.154% | 228.30億 | |
国内外株式 国内外債券 国内外REIT |
eMAXIS Slimバランス (8資産均等型) |
0.154% 以内 |
883.12億 |
のむラップ・ファンド (積極型) |
1.518% | 436.95億 | |
つみたて8資産均等バランス | 0.242% | 407.70億 | |
eMAXISバランス (8資産均等型) |
0.55% 以内 |
346.58億 | |
iFree8資産バランス | 0.242% | 293.87億 | |
野村6資産均等バランス | 0.242% | 223.59億 |
※2021年4月23日時点、筆者作成
国内外を対象とするバランスファンドの中では、運用実績10年超の「三井住友TAM-世界経済インデックスファンド」と、三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slimバランス(8資産均等型)」の存在感が光る。
eMAXIS Slimは単一インデックス投資でもバランス型でも純資産総額を順調に伸ばしているインデックスファンドシリーズだ。
バランスファンドの名称に含まれる「6資産」は先進国の株式・債券・REIT、「8資産」は先進国に加え新興国の株式・債券も投資対象とすることを指す。
6,つみたてNISA(積立NISA)で購入できる「国内アクティブ型投信」の手数料比較
つみたてNISAで特定の指数に連動せず、個別に対象商品を選別して運用するアクティブ型投信のうち、国内資産を対象とする投資信託は全7銘柄だ。信託報酬は1%前後でまとまっている。
1%を下回るファンドには、実質的にはインデックスファンドであるものの指定指標がつみたてNISAの対象ではないため、便宜上アクティブ型に分類されている銘柄がある。そのような投資信託の信託報酬は比較的低めだが、信託報酬を比較する上で混乱のもとになるため、下の表からは除外した。
投資対象 | ファンド名 | 信託報酬 (税込) | 純資産総額 (百万円) |
---|---|---|---|
国内株式 | ひふみプラス | 1.08% | 4,626.51億 |
ひふみ投信 | 1.08% | 1,474.09億 | |
ニッセイ 日本株ファンド | 0.88% | 9597.9億 | |
大和住銀 DC国内株式ファンド | 1.05% | 208.94億 | |
年金積立Jグロース | 0.90% | 414.45億 | |
国内株式 国内公社債 |
結い2101 | 1.10% | 486.71億 |
※2021年4月23日時点、筆者作成
国内株式のアクティブ型投信と言えば、有名どころは「ひふみプラス」「ひふみ投信」である。どちらも投資方針や組み入れ銘柄は同じだが、証券会社等のNISA口座を使いたいなら「ひふみプラス」が購入可能だ。
国内の株式と債券を対象とするアクティブファンドは「結い2101」の1択である。国内資産のみを対象とするバランス型投信とアクティブ型投信は商品が少ないので、利用している金融機関で取り扱いがあるか確認しよう。
7,つみたてNISA(積立NISA)で購入できる「海外アクティブ型投信」の手数料比較
アクティブ型投信のうち、海外資産を対象とする投資信託は全12銘柄だ。こちらも信託報酬は1%を超える銘柄が多く、日本型よりも高水準だが投資対象が幅広いのが特徴だ。代表的なものは以下の6銘柄である。国内型と同じく実質的にはインデックス型投信でありながら便宜上アクティブ型に分類されている銘柄は除外した。
投資対象 | ファンド名 | 信託報酬 (税込) |
純資産総額 (百万円) |
---|---|---|---|
国内外株式 | セゾン 資産形成の達人ファンド | 1.35% | 1,444.67億 |
海外株式 | フィデリティ・欧州株・ファンド | 1.65% | 259.55億 |
海外株式 | フィデリティ・米国優良株・ファンド | 1.64% | 366.58億 |
国内外株式 国内外債券 |
セゾン バンガード・ グローバルバランスF |
0.57% | 2,533.48億 |
ハッピーエイジング40 | 1.32% | 196.11億 | |
国内外株式 国内外債券 国内外REIT |
のむラップ・ファンド(積極型) | 1.52% | 429.07億 |
※2021年4月23日時点、筆者作成
信託報酬は高めだが高い収益も望めるのがアクティブ型投信だ。純資産総額において「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」の桁数が群を抜いているが、残念ながらセゾン投信からの直販か金融商品仲介業者(高島屋ファイナンシャル・パートナーズ)経由のみの取り扱いとなっている。
「セゾン資産形成の達人ファンド」は1年で54%のトータルリターンをあげている。しかしこちらも同じく直販系投信なので手持ちのつみたてNISA口座からは購入できない。
実際に購入するかはともかく、長期分散投資にも適格とされているアクティブ型投信にはどのようなものがあるか調べてみるだけでも参考になる。
8,つみたてNISA(積立NISA)の手数料は単純比較しない
つみたてNISAの運用にかかる手数料は安いにこしたことはないが、単純に低ければ良いとは言い切れない。機械的に指標と連動するインデックス投信がお手頃なのは間違いないが、プロが資産配分やタイミングを常にチェックしているアクティブ型投信は資産形成において心強い存在となる。
自身の価値観やライフステージに照らし合わせ、関心のあるカテゴリの中でできるだけ信託報酬の負担が少ない銘柄を選ぶようにしたい。
執筆・篠田わかな(ファイナンシャルプランナー)
外資系経営コンサルティング会社にて製造・物流・小売部門のコンサルタントとして業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。
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