東京株式市場は一進一退の値動きとなっています。
米国時間6/16(水)に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)は、政策金利を据えおいたものの、2023年末からの政策金利の引き上げが示唆され、米国株は主要3指標が大幅に下落。米株安を受けて、6/17(木)の東京株式市場は朝方から売りが先行する展開となりました。ただし、東京株式市場のこうした反応は、短期的には過剰反応のように思われます。
米国の金融政策が、引き締め方向へと舵を切り始めたことは確かです。それを反映して米長期金利は次第に上昇基調となることが予想されます。
そこで今回は、“米長期金利の上昇が追い風”となり、上昇が期待される日本株をピックアップ。過去のデータだけでなく、現在の投資環境も加味し、厳選しましたのでご覧ください。
当ページの内容につきましては、SBI証券 投資情報部長 鈴木による動画での詳しい解説も行っております。ぜひ、ご視聴ください。
日本株投資戦略
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■執筆者のプロフィール
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的寄稿も多数。
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“米長期金利上昇”を追い風に上昇期待の日本株20選
それではさっそく、銘柄を選びます。
≪スクリーニング条件≫
(1)東証1部上場銘柄であること。
(2)時価総額1千億円以上の銘柄であること。
(3)証券・商品先物業を除く業種であること。
(4)5/13(木)~6/17(木)の期間に株価が上昇していること。
上記のすべての条件を満たす銘柄を米10年国債利回りとの相関係数が高い順に並べたのが図表1となります。
相関係数とは、2種類のデータの関係性の強さを-1から+1までの数字で表した指標です。この数字が正の値(0より上の値)を取る時、2種類のデータは同じ方向に動きやすい傾向にあり、逆に負の値(0より下の値)を取る時、2種類のデータは逆の方向に動きやすい傾向にあります。
図表1でT&Dホールディングス(8795)の騰落率(週足)を過去10年、米10年国債利回りの騰落率(同)と比べた場合、米10年国債利回りが上昇した時、同社の株価は上昇しやすい傾向であることが分かります。
足元の日経平均株価は5/13(木)の安値後、6/17(木)までに5.7%上昇しました。この間は、新型コロナウイルス向けワクチンの接種が進み、景気回復期待が高まった時期と言えます。
なお、今後さらにワクチンの接種が加速し、“アフター・コロナ”がキーワードの投資環境となった場合、株価が上昇しなければ今後も当面は、株価の上昇は望みにくいと考え、スクリーニング条件(4)を加えました。
ちなみに、米10年国債利回りとの相関性が高いにも関わらず、スクリーニング条件(4)によって除外された銘柄は、「鉄鋼・非鉄金属」の一角が中心となっていました。その理由はインフレ期待を背景とした物色買いの流れが一巡したことが要因とみられます。そのため、再びインフレ期待が強まることにより、近い将来「鉄鋼・非鉄金属」が見直される可能性があるでしょう。
図表1 米長期金利との相関係数が高い主力銘柄
コード / 銘柄 / 株価2021/6/17 / 騰落率(前日比) / 騰落率(5/13~) / 相関係数(10年・週)
<8795> / T&Dホールディングス / 1,523 / 3.1% / 10.4% / 0.473
<8750> / 第一生命ホールディングス / 2,243 / 2.5% / 10.0% / 0.444
<7267> / 本田技研工業 / 3,610 / -0.4% / 9.6% / 0.416
<7261> / マツダ / 1,014 / 1.2% / 19.4% / 0.380
<7201> / 日産自動車 / 562.1 / 0.5% / 7.4% / 0.375
<6902> / デンソー / 7,804 / -0.5% / 9.9% / 0.372
<8306> / 三菱UFJフィナンシャル・グループ / 618 / 1.2% / 3.1% / 0.348
<5802> / 住友電気工業 / 1,689.5 / -1.3% / 5.7% / 0.343
<6474> / 不二越 / 4,275 / -1.7% / 4.3% / 0.341>
<6135> / 牧野フライス製作所 / 4,555 / -1.0% / 9.0% / 0.338
<5991> / ニッパツ / 936 / -1.6% / 17.1% / 0.334
<7220> / 武蔵精密工業 / 2,478 / -0.1% / 18.6% / 0.332
<6473> / ジェイテクト / 1,206 / -1.5% / 15.6% / 0.329
<4005> / 住友化学 / 609 / -1.0% / 5.2% / 0.323
<8031> / 三井物産 / 2,605.5 / -0.7% / 9.1% / 0.322
<7282> / 豊田合成 / 2,777 / 1.1% / 3.7% / 0.320
<6201> / 豊田自動織機 / 9,810 / -0.3% / 9.2% / 0.318
<7762> / シチズン時計 / 427 / -0.7% / 17.3% / 0.318
<7259> / アイシン / 4,845 / -1.0% / 13.6% / 0.318
<5201> / AGC / 4,900 / -2.0% / 0.4% / 0.317
※Bloomberg、各種報道等をもとにSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
※相関係数の計測対象は2011/6/17(金)~2021/6/11(金)の週終値の変動率(前週末比)です。 期間:2011/6/17~2021/6/11
掲載銘柄の投資ポイント
ここでは図表1に掲載した銘柄から数銘柄を選び、簡単に解説します。 今回は、業種と米10年国債利回りとの関係を中心にご紹介します。
図表2 T&Dホールディングス(8795)・第一生命ホールディングス(8750)と米10年国債利回り
※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
※2011/6/17(金)終値を1として、株価や利回りを指数化。
期間:2011/6/17~2021/6/11
過去10年間の米10年国債利回りとの相関係数は、業種単位(東証33業種)で調べると第4位「保険」、第5位「証券・商品先物取引」、第6位「銀行」となっています。金融関連株は、米10年国債利回りが上昇する際、連動する傾向にあります。金利が上昇すると、利ザヤが拡大し、業績が上がりやすいため株式市場もそれを期待して、上昇する傾向にあります。
図表1にあるように、東証1部の主要銘柄の個別動向でも第1位T&Dホールディングス(8795)、第2位第一生命ホールディングス(8750)と金融関連が上位を占めています。
期間10年でみた場合、米10年国債利回りは低下し、保険は上昇しています。(図表2)
2013年のバーナンキショック以降、市場の関心が金利から量的緩和の縮小(テーパリング)に移りました。実質的な引き締め傾向から保険は上昇しましたが、10年国債利回りは低下しました。この時の保険と米10年国債利回りの逆相関が、長期的には影響した可能性があります。
ただ、現在も米10年国債利回りの関心は量的緩和の縮小(テーパリング)にあり、この当時と投資環境は似ているようにも思われます。
本田技研(7267)、日産(7201)、マツダ(7261)と米10年国債利回り
※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
※2011/6/17(金)終値を1として、株価や利回り、為替データを指数化。
※ドル円は右軸、その他は左軸。
期間:2011/6/17~2021/6/11
過去10年間の米10年国債利回りとの相関係数は、業種単位(東証33業種)で調べると第2位が「輸送用機器」となっています。
輸送用機器の中でも特に自動車はグローバルに事業を展開し、輸出や海外生産が多くなっています。米10年国債利回りが上昇している局面は、その多くが米国景気が好調な時である上、外為市場で円安・ドル高が進んでいる時が多く、いずれにせよ自動車メーカーの業績には追い風となる傾向があります。
個別銘柄で相関係数を確認してみると、本田技研(7267)が0.416、マツダ(7261)が0.380、日産自動車(7201)が0.375でした。(図表1)
なお、図表1に記載はありませんが、トヨタ自動車(7203)は0.316でした。
北米での売上構成比(前期)は本田技研が54%、マツダが36%、日産自動車が47%で、トヨタ自動車の34%よりも各社大きいことが分かります。こうした背景も、米10年国債利回りとの相関係数が高いひとつの理由かもしれません。
ただし、期間10年では、トヨタ自動車の値上がり率が他社を大きく引き離しています。
トヨタ自動車が米10年国債利回りの動きに、相対的に左右されにくい傾向がある背景には、日本の株式市場で最大の時価総額を有する銘柄であり、代表的なバリュー銘柄としての存在感も大きく、脱炭素の動きで先行していること等、他の自動車メーカーにはない多くの強みがあげられます。
デンソー(6902) 米金利上昇のみならず、複数の投資テーマに関連か
※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。期間2年(週足)で表示。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
■国内最大の自動車部品メーカー
トヨタ自動車が23.9%、豊田自動織機が8.8%の株式を保有するトヨタ系の自動車部品最大手。グループ外への販売も拡大傾向にあります。
地域別売上高(前期)は国内46%に続き、北米も27%と2番目に大きく、米国景気の影響を強く受けやすそうです。同社の株価と米10年国債利回りの相関係数(図表1)は0.372で、上位に位置しています。
■「環境」や「半導体」等でも注目される可能性
バイデン米大統領が環境政策重視へ舵を切ったこともあり、世界で自動車のEV化や電動化への流れが加速。同社の電動化システムや、ADAS(先進運転支援システム)への注目度も高まりつつあります。
昨年、同社が51%、トヨタ自動車が49%を出資し、次世代車載半導体の研究を行う合弁会社が始動。EVやHVなどの燃費性能を左右する「パワー半導体」関連を得意分野とします。
市場予想営業利益は2021/3期1,551億円(実績)に対し、2022/3期は4,428億円、2023/3期は5,296億円、2024/3期は5,956億円となっています。
特に今期は予想営業増益率が大きい銘柄としても、注目されそうです。
住友電気工業(5802) 自動車のEV化で成長余地
※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。期間2年(週足)で表示。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
■自動車部品メーカーとして時価総額上位
売上高(前期)の内、自動車関連事業が55%、環境関連事業が21.1%を占めています。光ファイバーや電線の大手企業として知られる同社ですが、自動車部品メーカーとして時価総額上位に属しています。
新型コロナウイルスの感染拡大による自動車生産等の落ち込みを背景に、2021/3期は自動車関連事業の上期営業損益が275億円の赤字となりましたが、同部門が下期に757億円の黒字に転換し、持ち直しました。それでも、通期では全社で10.4%の営業減益にとどまりました。v 2022/3期は主力の自動車関連事業が持ち直す見込みで、通期では53.6%増の営業増益を予想しています。市場コンセンサスでは、2023/期に14.9%増、2024/3期に11.5%増の営業増益を見込みます。
■ワイヤーハーネスで世界首位
自動車用事業では特に“自動車の血管”といわれるワイヤーハーネスが主力。この部品は自動車内に電力のみならず、様々なデータや信号を送り届けています。世界での市場シェアは第1位を誇ります。
このワイヤーハーネスを中心に自動車関連製品のメガサプライヤーになるというのが同社の主要目標とみられます。ワイヤーハーネスについては、テスラ社がこれをあまり用いらない設計を採用している模様で、EV化が進む中で市場縮小の可能性も指摘されています。同社は逆に、アルミ合金を使った新製品等を育て、自動車関連事業の売上高をさらに拡大したい意向です。
この他に、通信分野では5G基地局やデータセンター向けの繁忙が想定されます。
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部
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