災害用電源を都市や地域に実装するスマートレジリエンス(エネルギーレジリエンス)が日本でも広がりはじめています。
本稿では、都市型、自治体型、コミュニティ型の3つのスマートレジリエンスの成功事例を紹介。そこから見えてくる「プロジェクトを成功させるために担当者が強く意識すべきこと」を考察します。
レジリエンスとは「ダメージを受けても元の状態に戻れる力」のこと
レジリエンスというキーワードは、用途によっていくつかの定義があります。用途が教育・企業活動・地域再生・都市開発などのときは「外部からダメージを受けても、しなやかに元の状態に戻れる力」を表します。
このうち、地域再生・都市開発におけるレジリエンスは、下記に挙げるような外部のダメージに対する回復力アップに取り組むものです。
- 気候変動による温暖化や豪雨
- 地震
- サイバー攻撃
- テロ
- 環境汚染 など
スマートレジリエンスでエリア単位の「省エネ、脱炭素化、防災対応」を実現
さらに最近では、地域や都市のエネルギーにフォーカスしたスマートレジリエンス(エネルギーレジリエンス)というキーワードも広がっています。これは平常時に効率的なエネルギー供給ができ、災害時でもエネルギー供給を維持するシステムを都市や地域に実装するものです。
スマートレジリエンスの実現により、地域単位・都市単位で「省エネ、脱炭素化、防災対応」を実現できます。東京電力エナジーパートナーが作成した下記の導入イメージを見ると、スマートレジリエンス を具体的にイメージしやすいでしょう。
エネルギーマネージメントシステム、エネルギー源、蓄電池などを統合して、平常時・災害時のエネルギー供給を実現します。
エネルギー源は、エリア特性やライフライン環境によって異なり、太陽光・バイオマス・風力・水力などの再生可能エネルギー、既存のガスや電気などがあります。これらをベストミックスさせてその都市や地域に適合するエネルギーシステムを構築していきます。
スマートレジリエンスの成功事例:都市型、自治体型、コミュニティ型
実際に国内でもスマートレジリエンス(エネルギーレジリエンス)の事例は少しずつ増えています。ここでは、都市型、自治体型、コミュニティ型の3つの成功事例を紹介します。
事例1(都市型):歴史的建造物のある日本橋の災害時のエネルギー源を確保
「首都直下型地震や南海トラフ地震が発生したら、日本経済へのショックは計り知れない……」そんな不安を打開するきっかけとなる施策が2019年4月から始動している「日本橋スマートエネルギープロジェクト」(対象面積:約15万平方メートル)です。
本プロジェクトは、三井不動産と東京ガスがタッグを組んで実現したものです。その概要は、日本橋室町三井タワー内のプラントで都市ガスを用いて生み出したエネルギーを周辺のビルや商業施設に供給するものです(下記参照)。
「日本橋スマートエネルギープロジェクト」が注目される理由は、新規のビルだけでなく、元からある既存ビル(歴史的建造物の三井本館、三越日本橋本店本館を含む)にもエネルギー供給を実現させた点です。
本プロジェクトを参考にすれば、既存のビルや歴史的建造物の集中するエリアでもスマートレジリエンスが進められます。そして、このようなプロジェクトが増えていけば、大地震によるエネルギー停止の不安が高まっている日本の大都市の防災機能を強化できます。
このプロジェクトに対しては「既存のガス供給をエネルギー源にしているので災害に弱いのでは」との指摘もありそうですが、阪神・淡路大震災や東日本大震災にも耐える強度を持つガス導管を採用しているため、大地震が起きても「ガス供給が止まることはない」と三井不動産と東京ガスは解説しています。
事例2(自治体型): EVの「動く蓄電池」を小田原市の災害用電源に活用
スマートレジリエンスでは、EV(電気自動車)を「動く蓄電池」と捉えてプロジェクトを立案・推進するケースもあります。その好例は小田原市が主体になった取り組みです。
小田原市とその周辺エリアの箱根町、湯河原町など(神奈川県県西エリア)にカーシェア・スポットを設け、そこに配置されたEVの蓄電池の電力を災害時の非常用電源としています。
カーシェア・スポットの運営は、スタートアップ企業のレクシヴが担当。配置するEVは順次、増やしていく計画です。EVに充電する電力は再生可能エネルギーを紐付けているため、脱炭素化にも貢献するものです。
なお、最近では定置型の蓄電池が普及していますが、それにも関わらずEVの蓄電池を利用する理由は、現時点ではEVのほうが低コストで済むからです。
本プロジェクトでは、都市型のスマートレジリエンスと同様、全体の電気の発電量や使用量を管理するエネルギーマネジメントシステムが採用されているのも特徴的です。レクシヴ独自のシステムにより、地域内で使われている電力量、カーシェアの予約状況などの情報をもとに、ベストな充電・売電のタイミングを計っています。
事例3(コミュニティ型):太陽光とバイオマスをベストミックス
都市や自治体よりもミニマムな「コミュニティ単位」でスマートレジリエンスを実装することも可能です。その好例が金沢工業大学・地方創生研究所の白山麓キャンパスのプロジェクトです。
複数の再生可能エネルギー(太陽光発電とバイオマス)をベストミックスさせることで、キャンパス内の実証実験用コテージに電気と熱を平常時・災害時に安定供給するものです。
上記の図のように、バイオマス発電の部分では木材チップを燃焼させて発電を行っていますが、そのとき発生した熱をそのままコテージの温水暖房機に使うことで効率的なエネルギー供給が実現できているのもポイントです。
これで足りない熱は太陽光発電とバイオマスで発電した電気を利用した暖房器具(アシスト暖房)で補っています。
スマートレジリエンスのゴールは災害用電源の設置ではない
ここで紹介した3つのスマートレジリエンス事例に共通するのは、プロジェクトを進めることで「そのエリアの価値向上に大きく貢献した」という点です。
日本橋の都市型の事例では、首都圏直下型地震が発生してもエネルギー供給が麻痺しない仕組みを実現したことでビジネス拠点・商業エリアとしての日本橋の価値がさらに高まりました。
小田原市の「自治体型」事例では、カーシェアと動くEVの蓄電池を組み合わせて地域資源をつなぐことで、地域内のビジネス・観光・生活面の活性化につながります。また、「コミュニティ型」では、金沢工業大学が再エネを利用した分散型電源の先進的な研究を進めていることが認知されました。
スマートレジデンスや分散型電源のプロジェクトを進めるときには、効率的かつ安定的なエネルギーシステムを実装することをゴールにしてしまいがちです。しかし、スマートレジリエンス実現の先にある相乗効果をゴールにすることで、そのプロジェクトのエリアへの貢献度が大きく変わってきます。
災害用電源の設置を行うことで何が大きく変わるのか。その成果を明確にした上で、メディアやステークホルダーに適切な情報発信をすることで、企業や地域の無形の価値を大きく高めることができるのです。
(提供:Renergy Online )
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