新型コロナウイルス向けワクチンの接種が順調に進み、国内の経済再開や景気回復に対する期待が強まっています。

そこで、次に注目されるテーマとして、活性化が期待される不動産市場を深堀しました。

タイミング的にも投資妙味が強まってきたJ-REIT(国内不動産投資信託)市場が堅調に推移する中、今後の見通しと気になる銘柄について、ご紹介します。

今回の内容につきましては、動画にてSBI証券 企業調査部 シニアアナリスト 並木による詳しい解説も行っております。ぜひ、ご視聴ください。

日本株投資戦略
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■執筆者のプロフィール

鈴木英之
鈴木 英之
SBI証券 投資情報部長 
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的寄稿も多数。
・出身 東京(下町)生まれ埼玉育ち
・趣味 ハロプロの応援と旅行(乗り鉄)
・特技 どこでもいつでも寝れます
・好きな食べ物 サイゼリヤのごはん

堅調な上昇が期待されるJ-REIT市場

日本株投資戦略,上方修正期待銘柄
(画像=PIXTA)

J-REIT(国内不動産投資信託)市場が堅調です。

日本の不動産の指標として、代表的な東証REIT指数は、短期的な安値となった2020/10/30(金)の1,635.35から、6/24(木)終値2,141.25まで30.9%上昇しました。これは、同期間での日経平均株価の上昇率(25.7%)を上回っています。

月足では昨年11月以降、5月まで7連勝。6月も6/24(木)時点で前月末比3.3%上昇し、同期間に0.1%上昇の日経平均株価を大幅に上回っています。

投資口価格の上昇を受け、J-REITの予想分配金利回り(東証REIT加重平均・日経計算)は、昨年末の4.084%から6/24(木)には3.36%まで低下しました。それでも、3%を超える高い水準の分配金利回りは、国内地方金融機関や外国人投資家などの投資家から魅力的とされ、再びJ-REITへの注目度が高まっています。

世界的に低金利が続き、国内では長期金利が引き続きゼロ%近い超低金利にとどまる中、“高めの利回りを享受できる円資産”としてのJ-REITの魅力は失われていないようです。

なお、J-REITについては、配当可能利益の90%超を分配するなどの条件を満たすことで、実質的に法人税が免除され、二重課税が排除されているという恩恵があり、構造的に分配金利回りが高くなりやすい面があるようです。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、オフィス需要の減少や商業施設の業績悪化等が懸念されていましたが、国土交通省が5/31(月)に発表した不動産価格指数は「住宅」(2021/2末)が前月比+0.4%、「商業用不動産」(2020/第4四半期)が前四半期比+3.2%と堅調です。

これを受け、物件入替えが容易となり、物件売却益の一部を分配金の原資とし、分配金下限リスクの限定化を図るREITが増えているようで、それもプラス材料になりそうです。

国内では引き続き、超低金利継続が見込まれることもあり、J-REIT市場は堅調に推移しそうです。

SBI証券 企業調査部 シニアアナリスト 並木のレポートでは、東証REIT指数の2021年末の想定を2,200ポイントの着地としています。

また、J-REITのサブセクター(中心となる投資先物件での区分)の選好順位については、(1)オフィス→(2)商業施設→(3)ホテル→(4)物流施設→(5)住宅施設の順であると評価しています。

各サブセクターに対する評価のポイントとしては、以下のように考え、オフィス、商業施設の順に高い評価をしています。

(1)オフィス・・・・利回りが高水準。ワクチン接種の進捗で景気回復期待が高まり、オフィスの需要回復を予想。

(2)商業施設・・・巣ごもり需要が追い風の時期も。経済活動再開で、買い物やコト消費に対する需要が回復する見込み。 (3)ホテル・・・ワクチン接種の進捗を経て、旅行需要の回復、旅行需要の盛り上がりに期待。

(4)物流施設・・・各REITは開発・計画中物件が豊富で成長性への期待は大きいが、現状では割高感も。

(5)住宅施設・・・・都心部から郊外に移る動きが増え、物件の稼働率低下を懸念。季節的に稼働率の繁忙期も経過か。

図表1 コロナ禍や米インフレ懸念等の逆風の中、上昇基調をたどる東証REIT指数

コロナ禍や米インフレ懸念等の逆風の中、上昇基調をたどる東証REIT指数

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
期間:2020/12/30~2021/6/24

図表2 主要REIT銘柄の投資口価格と投資指標

SBI証券 企業調査部 シニアアナリスト 並木が6/10付レポートで、最も高い評価を付けた「オフィス」については、時価総額の大きい順に7 銘柄を掲載しました。

他のセクターについては、原則として当該セクターでもっとも時価総額の大きい銘柄を掲載しています。

なお、欄が色付きの銘柄は、SBI証券 企業調査部発行のレポートがある銘柄であり、次項で詳細を解説しています。

主要REIT銘柄の投資口価格と投資指標
(画像=SBI証券)

コード / 銘柄 / サブセクター / 投資口価格2021/6/24 / 予想分配金利回り / NAV倍率
<8951> / 日本ビルファンド投資法人 / オフィス / 700,000 / 3.20% / 1.25
<8952> / ジャパンリアルエステイト投資法人 / オフィス / 680,000 / 3.30% / 1.20
<8954> / オリックス不動産投資法人 / オフィス / 211,300 / 3.22% / 1.14
<8955> / 日本プライムリアルティ投資法人 / オフィス / 448,000 / 3.37% / 1.21
<8976> / 大和証券オフィス投資法人 / オフィス / 771,000 / 3.61% / 1.02
<8972> / ケネディクス・オフィス投資法人 / オフィス / 781,000 / 3.54% / 1.07
<3298> / インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人 / オフィス / 22,670 / 3.30% / 1.27
<8953> / 日本都市ファンド投資法人 / 商業 / 118,600 / 3.82% / 1.44
<8968> / 福岡リート投資法人 / 商業 / 186,700 / 3.75% / 1.09
<8985> / ジャパン・ホテル・リート投資法人 / ホテル / 67,800 / 0.40% / 0.90
<8984> / 大和ハウスリート投資法人 / 住宅 / 338,000 / 3.42% / 1.21
<3283> / 日本プロロジスリート投資法人 / 物流 / 355,000 / 2.73% / 1.51
<3462> / 野村不動産マスターファンド投資法人 / 総合 / 178,900 / 3.62% / 1.10
<8960> / ユナイテッド・アーバン投資法人 / 総合 / 162,700 / 3.83% / 1.03
<8966> / 平和不動産リート投資法人 / 総合 / 171,100 / 3.33% / 1.34

※Bloomberg、SBI証券WebサイトのデータをもとにSBI証券が作成。
※予想分配金利回りは、1年間の会社予想分配金をベースに計算した数値です。
※NAVは投資信託の純資産を示しますが、REITの場合は投資不動産物件の時価評価額(帳簿価格と含み損益の合計)を示します。時価総額をNAVで割った数値がNAV倍率で、SBI証券WEBサイトで用いられているNAVデータより計算しています。

気になる個別銘柄の動向

ここでは、図表2の主要REIT銘柄のうち、数銘柄について企業調査部発行のレポートを引用し、詳細を解説します。

日本ビルファンド投資法人(8951)

投資判断:中立 目標投資口価格:785,000円

・三井不動産をメインスポンサー企業とする、オフィスビル特化型J-REIT。
・東京23区を中心に優良な大型ビルに重点的に投資。
政令指定都市を中心として地方都市へもバランス良く分散投資を行う。
・資産規模:75物件、13,675億円。稼働率:97.3%。
・資産規模は1兆円超となり、国内最大のJ-REITとしての位置付け。
・2020年10月にJ-REITで過去最大規模の公募増資を行い、「新宿三井ビルディング」、「グラントウキョウサウスタワー」の一部を取得。
・「NBF新川ビルディング」の一部や「NBF南青山ビル」を譲渡し、外部成 長や資産入替に積極的な姿勢を示す。譲渡益は投資主還元に活用。
・大型移転の動きから稼働率が低下。空室部分の収益化には時間を要し、内部成長は限定的。既存物件の減収を外部成長や譲渡益で補う。

■日本ビルファンド投資法人(NBF)の投資口価格と分配金利回りの推移

日本ビルファンド投資法人(NBF)の投資口価格と分配金利回りの推移

■入退去率の推移

入退去率の推移

※資産規模は2021年3月25日時点、稼働率は2021年5月末時点。出所:SBI証券作成

ユナイテッド・アーバン投資法人(8960)

投資判断:中立 目標投資口価格:164,000円

・丸紅をスポンサー企業とする総合型J-REIT。
・オフィスビル、商業施設、住宅、物流施設、ホテルなど特定の用途や地域に限定せず、多様な不動産に分散投資し、投資リスクを軽減。
・資産規模:132物件、6,657億円。稼働率:97.3%。
・2010年に日本コマーシャル投資法人を合併。合併に伴う負ののれん発生益や物件譲渡益の一部を内部留保、将来の分配金原資に活用。
・20/11期の内部留保額は125億円。UURは、コロナ禍の影響による既存物件への収益の影響が22/11期まで続くと考えている。潤沢な内部留保を取り崩し、1口当たり分配金は3,100円を下限値とする。
・UURのポートフォリオの1/4を占めるホテルは、オペレーターを変更するなど テコ入れを図る。この他、「府中ビル」等のリーシングに時間を要している。

■ユナイテッド・アーバン投資法人(UUR)の投資口価格と分配金利回りの推移

ユナイテッド・アーバン投資法人(UUR)の投資口価格と分配金利回りの推移

■UURの用途比率及び地域別比率(2021年6月1日時点)

UURの用途比率及び地域別比率(2021年6月1日時点)

※資産規模は2021年6月1日時点、稼働率は2021年4月末時点。出所:SBI証券作成

平和不動産リート投資法人(8966)

投資判断:中立 目標投資口価格:171,000円

・東証など証券取引所の大家である平和不動産をスポンサー企業とする、中規模オフィスビル・マンションを投資対象とする複合型J-REIT。
・2010年にジャパン・シングルレジデンス投資法人を合併。合併に伴う負ののれん発生益から毎期一定額を取り崩し、分配金に上乗せ。
・資産規模:113物件、1,929億円。稼働率:97.5%。
・資産入替を積極的に推進し、ポートフォリオクオリティや収益性の改善を図る。物件売却益はその一部を内部留保し、将来の分配金原資に。
・2021年5月に5年半振りに公募増資を実施、スポンサーより4物件・88億円を取得。スポンサーによる強固なサポートと情報提供があった模様。
・2021年7月の決算発表時に、分配金の新たな中期目標を公表見込み。

■平和不動産リート投資法人(HFR)の投資口価格と分配金利回りの推移

平和不動産リート投資法人(HFR)の投資口価格と分配金利回りの推移

■平和不動産リート投資法人(HFR)の収益性の改善

平和不動産リート投資法人(HFR)の収益性の改善

※資産規模は2021年6月4日時点、稼働率は2021年5月末時点。出所:SBI証券作成

福岡リート投資法人(8968)

投資判断:買い 目標投資口価格:210,000円

・福岡地所や九州電力など九州経済界をリードする有力企業がスポンサーとなった、商業施設を中心に運用する総合型J-REIT。
・投資対象は成長性が期待される福岡を中心とする九州経済圏に特化。
・資産規模:32物件、2,020億円。稼働率:99.5%。
・商業施設は、コロナ禍の影響を受けたが、巣籠り消費による日用品・食料品の売上が好調。広域からの集客による需要を取り込む。
・博多駅周辺、天神エリア周辺で大型開発が進行中。
・「キャナルシティ博多・B」のホテル部分を譲渡した一方、福岡地所から 「天神西通りビジネスセンター(底地)」を取得。商業比率を低下させた 一方でオフィス比率が上昇し、収益の安定性確保を図った。

福岡リート投資法人(8968)の投資口価格と分配金利回りの推移

福岡リート投資法人(8968)の投資口価格と分配金利回りの推移

資産入替前後におけるポートフォリオ比率の変化

資産入替前後におけるポートフォリオ比率の変化

※資産規模は2021年6月1日時点、稼働率は2021年4月末時点。出所:SBI証券作成

日本プロロジスリート投資法人(3283)

投資判断:中立 目標投資口価格:376,000円

・世界最大規模の物流不動産の開発・所有・運営を行うプロロジス・グループをスポンサー企業とする、物流施設特化型J-REIT。
・好立地で大規模なAクラス物流施設に重点投資。
・資産規模:52物件、7,583億円。稼働率:99.0%。
・テナントとは長期契約のため、安定した収益の確保が期待できる。
・火災で全焼した「プロロジスパーク岩沼1」は、20/11期に保険金を特別利益に計上。21/5期はこの特別利益が剥落するため、減配となる見込み。火災焼失跡地に、新築の物流施設を建築予定。
・NPRは年間500~600億円の物流施設を継続的に取得。14物件・2,600億円の物件パイプラインを有しており、今後の成長性に期待。

■日本プロロジスリート投資法人(NPR)の投資口価格と分配金利回りの推移

日本プロロジスリート投資法人(NPR)の投資口価格と分配金利回りの推移

■日本プロロジスリート投資法人(NPR)の物流施設の取得状況

日本プロロジスリート投資法人(NPR)の物流施設の取得状況

※資産規模、稼働率は2021年5月末時点。出所:SBI証券作成

インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(3298)

投資判断:NR

・米国の独立系資産運用会社であるインベスコグループがスポンサー企業となった、大都市圏の大規模オフィスビルに重点投資するJ-REIT。
・資産規模:18物件、2,258億円。稼働率:97.0%。
・2021年4月2日(金)に米国不動産ファンドのスターウッド・キャピタルグループが、1口20,000円で投資口公開買付け(TOB)を行うことを公表。公開買付け期間は2021年4月7日(水)から開始され、当初予定では同年5月24日(月)に終了予定だったが、同日に6月15日(火)までの延長を発表。
・IOJはスターウッドによるTOBに反対。スターウッドは買付け価格を21,750円、その後、さらに22,500円に引き上げ。
・スターウッドによるTOBは、買付け目標としていた投資口の10%にも満たず、不成立に終わる。
・スターウッドによるTOBの終了日の前営業日である5月20日(木)に、IOJのスポンサーであるインベスコのグループ会社から、公開買付け価格22,500円でIOJの全投資口を対象とするTOBの提案を受けたことを公表。スターウッド・キャピタルグループによるTOBが不成立となったことに伴い、IOJはインベスコグループによるTOBに対して賛同する旨を決議。
・インベスコグループによるIOJへのTOB期間は2021年6月17日(木)~7月27日(火)までの26営業日。公開買付け価格は1口当たり22,750円。
・スターウッドによるTOBも、インベスコグループによるTOBも投資口の取得によりスクイーズアウト(少数株主から大株主が強制的に株式を取得する手法)を行い、非上場化を進めることは同様。IOJの行動には矛盾か?

■インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(IOJ)の投資口価格と分配金利回りの推移

インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(IOJ)の投資口価格と分配金利回りの推移

※資産規模、稼働率は2021年4月末時点。出所:SBI証券作成

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部

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