本記事は、長田英知氏の著書『「論理的思考だけでは出せない答え」を導く あたらしい問題解決』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています

「センス」によって問題を未然に察知する

マネージャー
(画像=FreedomZ/PIXTA)

●問題を未然に防ぐためにも、問題が起きない状況を作る

「センス」は何か問題が起こったとき、その問題を解決するべく勘どころを探るために活用されるだけでなく、ビジネスがうまくいっているように見えるときに、将来の問題が起きることを未然に防ぐ際にも威力を発揮します。この能力は、とくにマネージャー職に就いている方にとって大事なものとなります。

私は、マネージャーの役割には大きく3つあると考えています。1つ目は、自分の所管する部門の戦略・戦術を提示して、皆がどちらに向かうべきかを明らかにすること。2つ目は、大きな問題が生じたり、部下が困難な状況に陥ったときの最後のよりどころとして問題解決を担うこと。そして3つ目は、問題が起きそうな状況を未然に察知して、問題が起きる前に状況を改善することです。

1つ目と2つ目は、マネージャーの役割として一般的にイメージされるものです。問題が顕在化してのっぴきならぬ状況になったとき、マネージャーが出てきてスパッと問題を解決すると、ある意味、とても目立ちますし評価もされやすいでしょう。

一方、「問題を未然に防ぐ」というマネージャーの3つ目の役割は、意外に軽視されているのが実状です。しかし本当は問題が起きてから解決するより、問題が起きない状況を作り出すことが最善のマネジメントなのです。

孫子の有名な言葉に、「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり(100回戦って100回勝ったとしても、それは最善の策とは言えない。戦わないで敵を屈服させることこそが最善の策である)」(「孫子」諜功編〈第3〉)というものがありますが、ビジネスにおいても同様です。

もちろん多くのマネージャーは、問題が発生しないように日々のマネジメントを行っているでしょう。そのとき問題が発生しないように管理する際に行いがちなのが、部下のマイクロマネジメントです。マイクロマネジメントとは、業務の進捗状況やオペレーションの細かい部分までマネージャーが細かく口を出す管理を意味します。

たとえば工場で大きな事故があったり、天災で被害を受けるといった緊急事態においては、すべての情報をマネージャーに集め、マネージャーの責任において迅速かつ的確な意思決定を行うマイクロマネジメントが必要になるでしょう。しかし、平時にマイクロマネジメントによる監視型のマネジメントを行うと、社員のやる気や自律性を失わせ、会社としてのレジリエンス(困難な状況に応じて柔軟に対応する能力)を奪うことになります。

そこで大切になってくるのが、社員の自主性を担保しつつ、問題を未然に防ぐことを可能にする必要最小限の管理とレポーティングのプロセスとなります。そして、どのようなときに、どれぐらい深く関わるかを見極める際に大事になってくるのが、ビジネスにおける「センス」なのです。

具体的な例で考えてみましょう。あなたが仮に営業部のマネージャーで、部下とともに営業目標を達成しなくてはならない立場であったとします。そのときあなたのやるべきことは、会議の場で営業成績の未達者を皆の前で叱責することでも、メンバー1人ひとりの日々の活動を逐一報告させることでもありません。

それよりも大事なのはメンバーとビジョンを共有し、メンバーがノルマを予定通り達成しているときはなるべく口を出さず、困ったとき、あるいは困ったことが発生しそうなときに一緒に解決していく姿勢をとることで、メンバーができる限り気軽に相談できる雰囲気を作り出すことです。

問題の発生を未然に防げるかどうかは、各営業メンバーのノルマの達成状況と彼らの報告・相談内容を突き合わせたとき、どれだけ的確に現状を把握できるかにかかっています。その際に力を発揮するのが「センス」なのです。

すなわち、仮に見た目の数字はノルマを上回っていたとしても、自分の中の「平準点」との比較で、今後の業績低下につながる兆候を感じ取るようにするのです。

また、部下もキャリアや性格によって、1つひとつ指示を仰ぎにくる人もいれば、必要最小限の報告しかしてこない人がいるなど千差万別です。そうした部下の言動や性格と、客観的なデータを総合して評価して、違和感を感じたときだけ個別の対策をとることができれば、マイクロマネジメントではない、真にビジネスを進めるための効率的・効果的な管理を行うことが可能になります。

●表面的な事象だけでは見えない問題

では、なぜ表面的に現れている数字だけを見て状況を判断してはいけないのでしょうか。それは初期のガンが小さ過ぎてレントゲンに写らないことがあるように、ビジネスでは問題をはらんでから、それが数字として顕在化するまでにはたいていの場合、時間のギャップがあるからです。

たとえばあなたが旅館を経営していて、お客様の評判が上々で日々の稼働も順調だったとしましょう。しかし最近、掃除の不備でお客様からのクレームが短期間のうちに数件続いたとします。

こうしたクレームが、予約の数字や売上に影響を与えるようになるまでは少し時間がかかるかもしれません。しかしそのようなクレームに感づいたときに、徹底的に問題を洗い出して改善策を講じることで、経営のリスクを最小化できるようになるのです。

こうした観点からも、「センス」を磨くことの重要性についてご理解いただけるのではないでしょうか。

「論理的思考だけでは出せない答え」を導く あたらしい問題解決
長田英知(ながた・ひでとも)
Airbnb Japan株式会社 執行役員。1974年生まれ。東京大学法学部卒業後、日本生命を経て、埼玉県本庄市の市議会議員に全国最年少当選(当時)。 その後、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社、PwCアドバイザリー合同会社等で戦略コンサルタントとして、スマートシティやIoT分野における政府・民間企業の戦略立案に携わる。 2016年Airbnb Japan株式会社に入社、2017年より現職。そのほかの外部役職として、2018年よりグッドデザイン賞審査委員、2019年より京都芸術大学クロスデザイン学科の客員教授を務める。 著書に『プロフェッショナル・ミーティング』『いまこそ知りたいシェアリングエコノミー』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『たいていのことは「100日」あれば、うまくいく。』(PHP研究所)がある。

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