本記事は、長田英知氏の著書『「論理的思考だけでは出せない答え」を導く あたらしい問題解決』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています
正解を導き出す唯一の「フレームワーク」もない
●フレームワークは万能ではない
ここまで本書を読まれてきて、世の中に唯一不変の正解も、単一の正解もないのは分かったから、移り変わるビジネス環境のなかでより正しく、素早く意思決定するための有効な手段がほしいと考える読者も多いのではないでしょうか。
実際、コンサルティングのプロジェクトの現場においても、課題解決を仕事とするコンサルタントならば解決策をさくっと導き出す「伝家の宝刀」のようなものを持っているだろうと期待される顧客も多くいらっしゃいます。この伝家の宝刀としての期待をとくにかけられやすいのが、コンサルタントが活用する「フレームワーク」です。
フレームワークは正しく使えばとても有効なツールとなりますが、学校の試験勉強で使われる公式や方程式のように、あらゆる問題に簡単に当てはめられ、問題をスパッと解決させられる単純かつ便利なツールではありません。むしろ既存のフレームワークがカバーする問題解決の範囲はかなり狭く、自分なりにカスタマイズしたり、新たに作り出すことが必要となります。
また既存のフレームワークは、現状を明らかにしたり、すでに成功か失敗かの結果が明らかな過去の事例について、後づけの分析を行うことは得意です。しかし、未知の課題や新規事業の推進など、今まで経験したことのない新しいことに取り組もうとするときには、フレームワークに当てはめるのが困難なケースが多くなります。
●ホンダによるアメリカのバイク市場進出の正解は誰が見つけたのか?
このような事例として有名なのが、ホンダがアメリカのバイク市場に進出した際に行われた分析です。
1959年当時、アメリカの輸入市場の49%を英国のオートバイが占めていました。しかしホンダが1960年代にアメリカ市場に進出すると、1966年にはホンダだけで市場の63%のシェアを獲得することになります。
この状況を受けて、英国政府はボストンコンサルティンググループ(BCG)に、「ホンダが、アメリカのオートバイ市場でイギリスの競合企業を劇的に凌駕したのはなぜなのか」について分析することを依頼しました。
BCGはセグメンテーションのフレームワークに基づき分析を行った結果、次のような示唆をレポートとしてまとめ上げました。すなわち、ホンダがアメリカ市場を綿密に調査したところ、中流階級に向けた低コスト製品という新たなセグメントの市場ニーズを見出すことができ、そこに彼らの日本国内における主力商品であったスーパーカブを投入するという戦略的なマーケティングを行った結果、新しい市場創出に成功したと結論づけたのです。
では、アメリカ市場に進出する際、ホンダの社内で実際にそのような戦略的な分析に基づく意思決定は行われたのでしょうか。
じつはホンダはアメリカ市場の参入時点では、250ccと305ccの大型バイクで挑戦することしか考えていませんでした。しかし、まったくうまくいかないまま8ヵ月間が過ぎ、50ccのスーパーカブに切り替えたら、たまたま売れたというのが真相だったのです。
さて、ここでもし1959年当時、アメリカ市場に進出する際にホンダがBCGにコンサルを依頼していたら、BCGはどのような分析を行ったでしょうか。予測は難しいですが、スーパーカブではなく250ccと305ccの大型バイクを主軸に、いかに売るかという戦略を提案した可能性が高かったのではないでしょうか。
なぜそう思うかというと、その当時、小さなオートバイの市場そのものがアメリカにはなかったからです。BCGのセグメンテーションのフレームワークの基本的な考え方は、「既存市場の既存ニーズ」をどう切り分けるかにあります。しかし、どれだけ既存市場や既存ニーズをセグメントしたとしても、「新規市場のニーズ」はターゲットとして出てくることはありません。
ビジネスの現場は、ますます先例が通用しない時代になってきています。そのなかで私たちが、日々生じる問題を解決するための「最適解」を導き出し、ビジネスの成果を上げ続けるためには、既存のフレームワークをその本質を理解しないまま、過去の知識や経験を頼りに漫然と活用するのではなく、必要に応じて新しいフレームワーク、すなわち新しい思考の枠組みを自ら作り出す力を養わなくてはなりません。
本書で紹介する「セグメント」は、自力で問題解決のフレームワークを作り出すための考え方と技術となります。「セグメント」を習得することができれば、多様な場面で問題解決を行う強力な武器となってくれるのです。
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