会社法上の利益供与の問題点

会社法では、何人に対しても株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならないと定められている。

たとえば、「◯◯をくれたら、議決権を言うとおり行使する」「◯◯をしてくれたら、株式買取請求権を行使しない」などと株主が会社に要求したとしよう。要求にしたがって、会社が株主に金銭等を支払うと、利益供与に該当する。

供与する対象物は財産上の利益でなければならない。金銭を支払うことはもちろん、会社の財産を無償、あるいは低額で売却するなどの行為も含まれる。

株主の権利行使に関する利益供与が禁止された背景

株主の権利行使に関する利益供与が禁止された時期は、昭和57年にさかのぼる。高度成長期、反社会的な行為をする者(いわゆる「総会屋」)による議事進行の妨害を抑制するため、あるいは、議事進行を円滑に進めるために、会社からその者らに利益供与をすることによって議事進行に協力してもらうという悪習が問題視されていた。

そこで、株主総会の本来の姿である会社経営の意思決定機関としての役割を守るために、株主の権利行使に関する利益供与が禁止される法改正が行われた。この改正によって、会社から総会屋に対する利益供与や、会社が利益供与を条件として会社にとって都合のよい議決権の行使を株主に依頼する行為が禁じられるようになった。

会社法における利益供与の事例

近年も利益供与における事件は発生している。参考までにいくつか事例を紹介する。

・男性に観劇券を供与したケース
劇場経営などを行う会社が、2019年に元・総会屋とみられる男性に、株主総会における円滑な議事進行に協力した見返りとして観劇券2枚を供与した事例。

・低額で土地を売却したケース
鉄道会社が、2016年に土地の売却を総会屋に低額で行い、その差益分を供与した事例。

利益供与が禁止されている対象者

会社法の条文に「何人に対しても」とあるように、利益供与は誰に対して行った場合でも、ほかの構成要件を満たせば成立する。よって、株主でない者に対する利益供与も対象になりえる。(例:株主の家族など)

「株主の権利の行使に関し」とあるように、株主の権利を行使する(させる)ことを目的とした利益供与に限られる。株主優待は、社会通念上許容される範囲内なら対象外と考えられている。

ただし、会社が特定の株主に対して無償で利益供与をしたとき、株主の権利行使に関する利益供与であると推定されてしまう。

また、会社が特定の株主に対して有償で何らかの財産上の利益供与をしたとき、会社側が受け取る利益が供与した利益に比べて著しく少なければ、利益供与であると推定される。

参考:会社法第120条第1~2項(e-Govポータル)

「株主の権利の行使」における「株主」の範囲

利益供与となる株主の権利は、その会社の現在の株主のみではない。以下に挙げる株主に関しても対象になる。

【適格旧株主】

株式交換や株式移転などによって会社の完全親会社の株主となっている者のうち、株式交換等の日の原則6ヶ月前から株式交換等の日まで、会社の株式を引き続き保有していた元株主をさす。

株式交換等までの日の役員等の行為(任務懈怠など)に対し、責任追及の訴えの提起を請求できる。

【最終完全親会社】

最上位にあたる親会社である。完全親会社や、その会社の100%の株式を完全子会社とで保有する会社などだ。

最終完全親会社等の発行する株式について、6ヶ月前から引き続き原則1%以上保有するか、同率の議決権を保有する株主は、特定責任追及の訴えの提起を請求できる。

参考:会社法第847条の3第2項(e-Govポータル)

利益供与によって発生する役員の責任と罰則

利益供与を受けた者には返還義務が発生し、利益供与に関与した役員には連帯して利益供与の額を会社に支払う義務が発生する。役員個人にも責任が及ぶということだ。

ただし、職務に対して注意を怠らなかったことを証明できれば、役員にこの義務は生じない。総株主の同意で責任を免除できる。

利益供与を行った役員には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が定められている。

参考:
会社法第120条第3~5項(e-Govポータル)
会社法第970条第1~2項(e-Govポータル)

役員以外で罰則の対象になる者

利益供与における罰則の対象になる者は、役員に限られない。利益供与をした支配人や使用人についても、役員と同じく3年以下の懲役または300万円以下の罰金の対象になる。

また、第三者に利益供与をさせた者、利益を受け取った者、利益供与を要求した者についても罰則の対象である。

罰則の内容は、いずれも3年以下の懲役または300万円以下の罰金(情状によってはその併科)と定められており、行為に威迫を伴う場合は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が適用される。

参考:会社法第970条第1~5項、同法第960条第1項(e-Gov法令検索)