会社と役員の間の利益相反行為
ここで、上述した1つ目の例に戻ってみよう。この例では、会社と同社役員の2者間取引だったが、役員B氏はA社の役員だから個人の利益だけでなくA社の利益も追求することが求められる。このことは、会社法第348条に「役員は会社を代表する者として意思決定を行う役割を担う」と規定されている。いわば役員は、会社の代理人に相当するといえる。
会社の役員がどんな取引でもできてしまうとしたら、自己の利益を図るために、会社に損害を与えるような取引が可能となってしまう。これを防ぐため、利益相反行為に対して制限が設けられている。
どのような場合に利益相反行為に該当するか
では、具体的にどのような場合に利益相反行為となるのだろうか。会社法356条に以下の規定がある。
会社法356条 (競業及び利益相反取引の制限)
1.取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために、株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
第1項の一を競業避止義務、二と三が利益相反取引に該当し、二を直接取引の禁止、三を間接取引の禁止という。
役員が利益相反行為をする際には取締会の承認が必要
先に紹介した会社法356条の条文にあるとおり、取締役が競業および利益相反行為をしようとする場合は、株主総会においてその承認を受ける必要がある。ただし取締役会が設置されている会社においては、株主総会に替えて取締役会の承認を受けることになる。
会社法365条 (競業および取締役会設置会社との取引等の制限)
1.取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
2.取締役会設置会社においては、第356条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
ここで、それぞれの行為についてあらためて確認しておこう。
1.競業避止義務
これは、取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引を行ってはならないという義務をいう。
取締役は、事業に関する技術やノウハウ、顧客情報等を把握して意思決定する立場にあるため、取締役が会社の事業と同じ業種の事業をしようとすると、会社の情報を利用する可能性が大きい。会社の情報はその会社に帰属しており、取締役がそれを自身や第三者のために利用することはあってはならないことだ。
そこで、取締役が競業取引を行うことに規制をかけ、競業取引を行う場合には、遅滞なく取締役会に報告し、取締役会に承認されなければならないとしている。なお、競業の範囲となるのは、会社が行っているビジネスと実際に競合する取引をいうが、これは、会社が取り扱っている事業を同じ地域で行うことにとどまらず、判例ではその商品の原材料を購入する取引であっても競業になるとされている。
ちなみに取締役が同種の別会社の取締役等に就任することは、「取引」ではないため、それ自体は規制されない。しかし、競合会社の取締役等に就任した後に、当該競合会社のために競業取引を行う場合には、規制の対象になる。
2.直接取引
直接取引とは、取締役が自身や第三者(多くの場合、当該取締役の親族等)の利益を図るため、会社との間で契約を締結して取引を行うことをいう。直接取引の最も典型的な例は、会社と取締役との間において、売買契約や賃貸借契約などを締結するケースである。
このような取引を行う場合において、取締役には自己に有利なように(会社を害するように)取引を行ってしまうというインセンティブが生まれる。これは、取締役自身が契約の当事者になる場合だけではなく、取締役が支配する会社や取締役の家族を用いた場合も同様である。
3.間接取引
間接取引とは、会社が取締役の利益を図るために、取締役以外の者との間で契約を締結して取引を行うことをいう。取締役自身や第三者である代表者・代理人が契約を行なわなくても、取締役と会社の利益が相反することは起こりうるため、間接取引とみなして規制の対象としている。
例えば、取締役が第三者から個人的な借金をする際に会社資産を担保にしたり、会社が取締役の債務を保証したり、債務引受を行ったりする場合などが該当する。