会社と取締役の間の利益相反行為回避のポイント
会社と取締役の間で行われる利益相反行為は、会社に損害を与える可能性があるばかりか、優位な立場を利用して自己の利益を得ることができる悪質な行為である。そのため、そのまま放置しておくことはできない。特に小規模・中規模企業で見られがちだが、個人と会社の利益が入り交じった取引が行われるケースも一定数存在する。
利益相反行為を回避するためには、まず利益相反行為に該当するかどうかの正しい理解が求められる。また不安な場合は、承認を得ることが必要だ。承認の方法は、取締役会設置会社とそうでない会社とで異なる。
取締役会設置会社の場合
取締役会設置会社では、利益相反取引を行おうとする取締役は、事前に当該取引について重要な事実を取締役会に開示し、承認を得なければならない。通常、締結する予定の契約書の案はもとより、その契約をするに至った経緯や、他に代替措置がないことなどを説明することになろう。
また当該取締役は、その取締役会の決議においては議決権を行使せず、利益相反取引を行った取締役は、当該取引の後遅滞なく、その重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
取締役会を設置していない会社の場合
取締役会設置会社でない場合には、株主総会に対して、事前に重要事実を開示し、株主総会の承認を受けることが必要だ。この場合において、取締役会決議の場合と異なる点が2つある。当該利益相反行為を行おうとする取締役が株主であった場合に、議決権を行使できる点と事後報告が不要な点である。
承認が不要の場合
取締役と会社との間で行うすべての取引が利益相反行為に該当するわけではないことは知っておこう。利益相反行為に該当しないのであれば、承認を必要としない。例えば以下のような取引が考えられる。
- 取締役による会社への無利息・無担保での金銭貸し付け
- 負担のない贈与
- 会社が不要となった資産を取締役に対して公正な価格で行う売買取引など
このように会社に損害を与えるおそれがないものについては、会社の承認を受ける必要がない。
利益相反行為による罰則
取締役の利益相反行為により会社が不利益を受けた場合、その取締役は会社に対して損害賠償責任を負う。ただ、これまで説明してきたように取締役が利益相反行為を行う際は会社法の規定に基づき、取締役会の承認を得ることが必要だ。つまり基本的に取締役会は、当該取締役の利益相反行為を承認したということだ。
それによって会社が不利益を受けた場合は、取締役会での承認決議に賛成票を出したほかの取締役も取締役としての任務を行ったとして損害賠償を負うことになる。では、仮に取締役会の承認を得ずに行った利益相反行為で会社に不利益を与えた場合はどうだろうか。この場合、本来であれば当該取引は無効であるが、そもそも会社法の規定違反であり当該取締役は任務を行ったとして損害賠償を負う。
なお仮にその不利益が第三者にも及んだ場合、会社と該当取締役の間では取引が無効であっても外形的には取引が成立していることになる。そのため、会社が第三者に対してその取引が無効であると主張するためには以下の立証が必要だ。
- 利益相反取引としての承認を受けていないことを契約相手が知っていた
- または同様の過失があった
それは、取締役会や株主総会の承認については、あくまで会社の内部的な手続きであるため、その承認が得られていないことの不利益を相手方に求めることは、取引の信頼を害するからである。