投資信託の保有期間中に得た分配金や譲渡益が20年間非課税になる国の制度「つみたてNISA」。マイボイスコム株式会社が2020年4月に行った「NISAに関するインターネット」調査では、「NISAの内容を詳しく知っている」と答えた人の比率は、調査対象者全体の23.3%にとどまった。

この記事では、NISAの中でもつみたてNISAの基本を解説していく。

つみたてNISAとは?

つみたてNISA,基本
(画像=artswai/PIXTA)

つみたてNISAは、2018年1月からスタートした少額の長期的な積立分散投資を支援するための国の制度だ。年間40万円を上限に保有期間中に得た分配金や譲渡益が20年間非課税になる。ただし手数料が低水準で、頻繁に分配金が支払われないといった要件を満たした「公募株式投資信託」と「上場投資信託(ETF)」に投資先が限定されていて一般NISAのように株式や債券などに直接投資ができない。

つみたてNISA対象商品は金融庁が公表しており、2021年6月18日時点の資料では以下のようになっている。

・指定インデックス投資信託168本
・アクティブ運用投資信託等19本
・上場株式投資信託(ETF)7本
・合計194本

つみたてNISAの利用者は、194本の投資信託の中から投資先を選ばなければならない。そして非課税期間の20年間が終了すると証券会社の総合口座などの課税口座へ払い出しされ、一般NISAのように翌年にロールオーバーはできない。

またつみたてNISAは2037年までの制度で、その先は未定。今のところ投資信託などの購入ができるのは2037年までであり、2037年中に購入した投資信託などについては2056年まで非課税で保有することが可能。

さらにつみたてNISAは、一般NISAとの併用ができないため、どちらかを選ばなければならない。

つみたてNISAと一般NISAの違い

では、ここでつみたてNISAと一般NISAの違いについておさらいをしておこう。まずは、両者の違いを表にまとめてみた。

  つみたてNISA NISA
非課税投資枠 40万円/年 120万円/年
非課税期間 最長20年間 最長5年間
口座開設期間 2042年まで 2023年まで
非課税投資総額 最大800万円 最大600万円
対象商品 一定の要件を備えた投資信託など 上場株式、債券、投資信託など
ロールオーバー ×
対象者 日本在住の20歳以上の者
必要書類 口座開設届出、マイナンバー
金融機関変更
払出期限 なし

※2021年8月時点

第一の違いは、非課税投資枠の額だ。つみたてNISAが年間40万円までなのに対し、NISAは年間120万円までだ。また非課税期間は、つみたてNISAが最大20年間なのに対しNISAは最長5年となっている。つみたてNISAが比較的小規模の長期投資を促す制度であることが分かるだろう。さらに口座開設期間は、つみたてNISAが2042年までなのに対し、NISAは2023年までとなっている。

対象商品も異なるため、注意しておきたい。つみたてNISAの対象が一定の要件を備えた投資信託等に限定されているのに対し、NISAは投資信託以外にも株式や債券への投資が認められている。NISAは、特に米国株などの外国株にも投資できるが、つみたてNISAでは投資できない。そのため外国株のインデックス投資や外国株ETF投資などを行う場合、注意する必要がある。

さらにつみたてNISAは、NISAのようにロールオーバーができない。ロールオーバーとは、NISAで購入した株式や投資信託に対する配当金や譲渡益が非課税となる5年間が終了する際に、終了年の翌月に繰越す(ロールオーバーする)制度だ。ロールオーバーすることで非課税期間をさらに5年間延長することができる。

しかしつみたてNISAには、ロールオーバーの仕組みそのものがない。またNISAからつみたてNISAへのロールオーバーもできないことも押さえておこう。

つみたてNISAの口座を複数所有できない理由

つみたてNISAを始めるには、金融機関でNISA口座を開設することが必要だ。しかしNISAの口座はすべての金融機関で1人1口座しか開設できない。つまり複数の金融機関を使って複数のNISA口座を保有することは不可である。なぜならつみたてNISAは、申告不要で非課税となる制度だからだ。

もし金融機関ごとに複数の口座を保有できてしまうと、税務上ほかの納税者との不公平が生じてしまう。NISAの口座開設申込があると、金融機関は所管の税務署へ「非課税適用確認書」を提出する。提出を受けると税務署は、申込人がすでに他の金融機関でNISAの口座を開設済みでないかをチェックする仕組みとなっているのだ。

同一世帯の中でNISA口座を複数保有する方法

同一世帯の中で世帯構成員がNISA口座を複数保有する方法はあるのだろうか。先述したように同一人物が複数のNISA口座を開設することはできない。しかし同一世帯の中で異なる世帯構成員がそれぞれにNISA口座を保有することは可能だ。例えば以下のような口座開設はできる。

・夫:一般NISA口座
・妻:つみたてNISA口座
・子ども:ジュニアNISA口座

また子どもが20歳以上である場合、夫、妻、子どもがそれぞれに自分のつみたてNISA口座を開設したり一般NISA口座を開設したりすることも可能だ。その場合、3人そろって同じ金融機関で開設する必要はなく、それぞれが好きな金融機関で開設できる。つまり1人1つのNISA口座の原則が守られている限り、同一世帯でNISA口座を複数保有できる。

つみたてNISAの口座を「移動」「変更」するのは可能

一度開設してしまったつみたてNISAの口座を他の金融機関へ「移動」するのは可能だろうか。結論からいえば可能である。しかしつみたてNISAの口座を別の金融機関へ移すのは、非常に面倒なので注意が必要だ。つみたてNISAの口座を別の金融機関へ移すには、まずは現在利用している金融機関から「金融商品取引業者等変更届出書」を入手し、必要事項を記入して提出する。

「勘定廃止通知書(非課税口座廃止通知書)」が発行されるため、次につみたてNISAの口座を移したい金融機関にあらたにつみたてNISAの口座開設を申し込む。その後、金融機関から必要書類が送られてくるので、必要事項を記入して「勘定廃止通知書(非課税口座廃止通知書)」とともに送付する。

上述したプロセスで所管税務署による審査が行われ、口座重複などの問題がなければ改めてつみたてNISAの口座開設完了だ。なおつみたてNISA口座を別の金融機関へ移す際、つみたてNISA口座ではなく一般NISA口座に「変更」することもできる。ただし変更前のつみたてNISA口座で購入した投資信託を、変更後の金融機関で開設される一般NISA口座へ移動させることはできない。

証券口座は複数保有できる?

NISA口座は、1人1口座が原則だが証券総合口座はどうだろうか。証券口座を複数持つことは可能だ。あまりデメリットを考慮しないのであれば、1人で複数の証券会社を使っていくらでも証券口座を開設することができる。ただし「同名義人の特定口座や一般口座を同証券会社内で2つ開設する」といったことはできないため注意しておこう。

つみたてNISA口座を開設する場合、NISA口座と同時もしくはNISA口座開設前に普通の証券口座をつくっているのが一般的だ。証券総合口座(特定口座もしくは一般口座)なしでNISA口座だけを開設することはできない。なおつみたてNISAにはロールオーバーの制度はないが、非課税期間の20年間が終了しても保有を希望すると、同じ証券会社の総合口座へ移管される。

証券口座を複数保有するメリットは?

では、実際に証券口座を複数保有するメリットはあるのだろうか。主なメリットは、以下の3つだ。

各証券会社の強みが活用できる

証券会社には、それぞれに以下のような強みがある。

・手数料が安い
・取扱銘柄が豊富
・IPOに強い
・購入できる投資信託の本数が多い
・ポイント還元の仕組みがある   など

複数の証券会社で口座を保有することで、各証券会社の強みをいいとこどりすることができる。例えば手数料の安いD証券で国内株へ投資し、米国株に強いE証券で米国株へ投資をするといった具合だ。

収集できる情報の量と幅が広がる

証券会社は、総じて投資に関する何らかの情報を発信している。例えばアナリストによる分析や銘柄分析のためのツール、各種のサーチ機能などを使って情報を集めることも可能だ。複数の証券会社に口座を持ち、発信される情報を着実にキャッチすることで、収集できる情報の量と幅が確実に広がる。

各種のポイントが獲得できる

ネット証券会社は、利用に応じたポイント付与サービスを提供していることも多い。それぞれの証券会社で証券口座を開設し、実際に使用することでそうしたポイントを獲得することができる。例えば「楽天証券では楽天ポイント」「SBI証券ではTポイント」といった具合だ。両社に証券口座を持ち適宜に利用することでポイントをもれなく獲得できる。

証券口座を複数保有するデメリットは?

では、証券口座を複数保有するデメリットは何だろうか。

管理が複雑になる

デメリットの第一は、管理が複雑になることだろう。特に株式の譲渡損などを別の株式の譲渡益などと損益通算する必要がある場合、証券口座が異なると確定申告での手続きなどが煩雑になる。また一つの証券口座で保有資産を管理するのに比べ、複数の証券口座で保有資産を管理するのは手間がかかる。それぞれの証券口座へログインして状況を確認し全体を俯瞰する必要が生じるなど、管理上のデメリットも生じる。

さらにそれぞれの証券口座へログインするIDやパスワードの管理も面倒だ。パスワードを忘れてしまった場合など、再発行などの手続きが必要になる。パスワードの管理が苦手な人にとっては、あまり好ましくない状況だ。

非課税のNISAに加えて一般投資にも手を広げていこう

以上、つみたてNISAの概要や複数の証券口座を持つメリットやデメリットなどについて紹介した。つみたてNISAは、年間最大40万円の非課税投資を20年間続けられるありがたい制度だ。つみたてNISAで投資の基礎を学び、それから証券総合口座での株式や投資信託などへの一般投資にも手を広げていくのが初心者にとっての安定したステップとなるだろう。

最後に繰り返すがつみたてNISAの口座は、1人1口座を一つの金融機関でしか開設できない。金融機関、とりわけ証券会社においては、それぞれに提供している商品やサービスに違いがある。つみたてNISAの口座を開設する前には、それぞれの証券会社について十分なリサーチをすべきだろう。