職場のハラスメントを予防する「本物の上司力」
(画像=ivanko80/stock.adobe.com)

➤パワハラやセクハラなどハラスメント防止の法整備が進んでいますが、企業では貴重な人材の採用・定着・育成のためにこそ、ハラスメントが起きにくい組織風土創りが求められます。
➤多くの上司層は悪気がないにも関わらずハラスメント・リスクを冒しがちです。またハラスメント・リスクを恐れて部下とのコミュニケーションが希薄になる職場も増えつつあります。
➤こうした背景を踏まえて、本連載では管理職や経営者など上司層に向けてハラスメントを予防する上司力について解説します。

目次

  1. 部下の思いを正しく捉える(価値観を知る)
  2. ハラスメント予防の心構え(あり方を定める)
  3. 日常的な予防を図る(やり方を変える)

部下の思いを正しく捉える(価値観を知る)

前回掲載したCASE「お茶出しは女性、力仕事は男性⁈」をもとに、上司の部下に対する対応のあり方を考えてみましょう。

ポイントは、上司が部下の思いを正しく捉え、価値観を知ること。その上で、ハラスメント予防のあり方を定め、日常的に予防することです。

(1)性差による偏見ではなく、正当な機会や評価を得たい

部下は「女らしさ、男らしさ」という単純構造で区別されるのではなく、自分の持ち味や強みに応じた仕事をしたいと考えています。女性だからこの仕事は任せられない、女性はこの仕事をすべき、と頭から決めつけられてしまうと、不条理に感じてしまうのです。

自分の強みや仕事への希望を上司がきちんと理解してくれた上で、公平に仕事を任せてほしいと考えているのです。本来、このスタートラインに男女差はありません。

(2)性差による特性やハンディは正しく理解し共有してほしい

一方で、性差による心身の特性や環境的制約など、組織や上司が配慮すべき要素もあります。男女の生理面や体力面の違い、異性と閉じた空間に居ることのリスク、また社内やチーム内で実際に少数(マイノリティ)である場合の遠慮や発言のし難さとなど、なかなか言いにくい場合があります。

こうした困難やハンディについて、上司には本人の状況を理解し、必要な調整を図ったり周囲の理解を促すなどの支援が求められます。

ハラスメント予防の心構え(あり方を定める)

(1)性差に依らない個性と持ち味を見極める

まず上司自らが、性別役割分担意識を克服し、払拭することが第一です。すなわち、性差のメガネで部下を見るのではなく、部下一人ひとりの関心や意欲や強みなどを、偏見なく見ることです。

ただ長年培ってきた仕事観がある人ほど、一朝一夕に自己改革することは難しいかもしれません。だから日常的に面談などで、部下の考えや気持ちを本人に寄り添って聴き取り理解する習慣をつくり、感性を磨くことです。部下を支援する力の基礎となる、傾聴と共感の力の鍛錬が求められるのです。

(2)多様なメンバーが互いに尊重し合える風土をつくる

経営者や管理職には自らの言動を律することはもちろん、セクハラのない職場環境づくりに取り組む責務があります。セクハラ予防の基本方針の策定や、相談体制の整備も必要ですが、それにも増して大切なのは、メンバーどうしが男女の別なく互いに尊重し合える職場風土づくりです。

上司は、チーム会議などで全員の発言を促し、一人ひとりの疑問や意見や提案を尊重し、意見交換や連携・協力を促進しましょう。会議の進行役をメンバーに交代で任せてもいいでしょう。チームの一体感や互いを尊重する雰囲気を上司が率先してつくり出す、ダイバーシティ(多様性)マネジメントを推進するのです。

日常的な予防を図る(やり方を変える)

(1)偏りがちな仕事を等しく分かち合う

具体的な取り組みとして、女性に役割が偏りがちな仕事の分担見直しをお勧めします。例えば、CASEにもあったお客様へのお茶出しや、手土産の配布、あるいはオフィスの共用スペースの整理整頓や清掃、ごみ出し、事務用品の注文など、従来の慣行で女性に偏っていた仕事があれば業務分担表に書き出し、チームメンバー全員で分担しましょう。

こうした公平な手続きを経て担当分けされた仕事であれば、CASEのような部下の厳しい反応は抑えられるはずです。些細な改善と思うかもしれませんが、性別役割分担意識を払拭する象徴的な効果があります。庶務や雑用は女性の仕事といった固定観念を、目に見える形で壊すのです。

(2)ポジティブ・アクションを実行する

また、女性活躍のためのポジティブ・アクションにも積極的に取り組みましょう。女性管理職比率の向上など大きな目標だけにこだわりすぎず、上司がチーム運営で実行可能なものから始めます。女性の発言や提案を積極的に採用したり、責任の重い仕事や重要プロジェクトに女性を抜擢したり、女性リーダーを後輩のロールモデルとして意識して育てることなどが考えられます。

上司が先頭に立ち、性差によるネガティブな慣行や潜在意識を組織全体で乗り越えようとすることで、職場の風土は徐々に好転し始めるでしょう。

※ 職場のハラスメント予防についてさらに詳しく学びたい方、また職場での研修導入を検討される方は、弊社FeelWorksが開発した「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」をご参照ください。

職場のハラスメントを予防する「本物の上司力」
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。最新刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月発行)

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