週刊投資金融情報紙「日経ヴェリタス」と連動し、有名コメンテーターを迎えて投資情報分析を展開する日経CNBCの番組『日経ヴェリタストーク』。ニュースのキーワードをピックアップし、コメンテーター独自の「解釈」を加えて解説する。

今回はゲストに経済アナリストの伊藤 洋一氏が登場。

伊藤 洋一(いとう・よういち)
1950年長野県生まれ。現在、住信基礎研究所主席研究員。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。

※ 以下、『日経ヴェリタストーク』8月30日放送の収録内容を書き起こしてお届けします。

司会:マーケットを通して世界の動きを先読み・深堀していく日経ヴェリタストーク。日経ヴェリタスの藤田剛副編集長とお届けしていきます。

そして、ゲストは経済アナリストの伊藤洋一さんです。よろしくお願いします。

日経ヴェリタス
(画像=日経CNBCより)

今回の特集はこちらになります。 「パワー半導体 緑の底力 脱炭素を支える日本勢、勝ち残る銘柄は」。

パワー半導体は高い電圧や大きな電流を扱うことができる半導体で、EV自動車用などを中心に需要を高めています。また、電圧や電流を制御して機器の省エネ性能を高められることも特徴で、脱炭素へのシフトが加速する中でのキーデバイスとして期待されています。

日経ヴェリタスの紙面では、パワー半導体を巡る世界の勢力図や日本メーカーの動向に触れながら今後の見通しを深堀しています。

藤田さん、今回このパワー半導体に注目されたわけはなんでしょうか。

藤田副編集長:半導体といえばCPUやメモリといったものが一般的なものなんですが、パワー半導体はEVにかなり使われているということで、今のEVの普及台数は年3割くらいのペースで伸びています。それに伴ってパワー半導体の需要も急拡大しているということで、2018年に320億ドルくらいだった市場規模が2030年には556億ドルにまで拡大すると見られています。

プレイヤーとしては、パワー半導体は産業機器向けなどのカスタム需要が中心であるため、国内の電機メーカーも大きな存在感を持ちます。世界シェアでいいますと、上位10社のうち4社を三菱電機・富士電機・東芝などの日本勢が占めています。

日経CNBC
(画像=日経CNBCより)

司会:伊藤さん、このパワー半導体については、どのような期待感を持ちますでしょうか。

伊藤さん:日本は半導体戦争に敗れて、韓国や台湾にいいようにやられていると思っていたんですけど、この特集は面白いなと思っていてですね、まず、新聞の一面の写真が良いですよね。

半導体から自動車と電車が飛び出しているようなところが、なかなか良いなと思いました。

また、中も面白いことが書いてあって、東芝さんはほとんど半導体を売却しちゃったのかと思ったらパワー半導体が残っていると、つまり、パワー半導体は電気自動車に乗っていたこともあるんですが、需要が増えるに決まっているんですよ。

膨大な需要のベースがあるので、そこに10社のうち日本の4社が絡んでいる、その下にも友軍の企業がいるということはですね、日本のマーケットにとっても希望の種になるんじゃないかと思っています。

日経CNBC
(画像=日経CMBCより)

司会:期待していきたいですね。では、藤田さん。この関連銘柄としては最近、どんな値動きを見せているんでしょう。

藤田副編集長:半導体全体で言いますとこれまで続いていたブームが調整されて、一進一退の動きを見せているんですが、パワー半導体関連は底固く推移しています。

例えば、世界シェアトップのドイツのインフィニオンテクノロジーズ、それから2位のアメリカのオン・セミコンダクターなどは2019年末比で、株価は7割から8割ほど上がっています。国内勢でも、富士電機は4割近く、ルネサスエレクトロニクスは5割以上株価を上げています。

日経CNBC
(画像=日経CNBCより)

司会:こちらの方に資金が向かっているということですが、伊藤さんは、今後の値動きについてはどのように予想しますでしょうか。

伊藤さん:例えば、EUや中国の動きを見ても、日本よりはるかに自動車のEV化は進んでいますよね。自動車だけでなく電車もなるべく電動化しよう、という話の中で電流や電圧を上手く制御し省エネに繋がるパワー半導体は、需要は伸びこそすれ、減らないと思っているんですね。

ということは、相場なので折り込み推移で一時的に高値になるかもしれないけど、「落ちたら買える」そのような銘柄群になるのではないかと思います。

先頭を走っていた台湾や韓国勢の株価が少し頭打ちになったという話が今あったんですけど、同じようなことがパワー半導体メーカーに起きても、それはそれで投資のしどころを探る、そういう動きをしても良いんじゃないかと思います。

司会:シェア争いも熾烈になっていますけど、関連各社ですが、藤田さん、どんな戦略を各社打っているのでしょうか。

藤田副編集長:各社とも設備投資にかなり積極的になっています。

例えば、シェアトップのドイツのインフィニオンテクノロジーズは、生産効率が高い大口径ウエハーを扱う工場に一早くシフトしてEV向けなどで拡大する需要を取り込もうとしています。この8月には、約2,000億円を投じてオーストリアの新工場を稼働しました。

それから、世界シェア2位のアメリカのオン・セミコンダクターも、300mmウエハー対応の向上を買収、生産能力を増強しています。

国内勢では、富士電機が2023年には売上高1兆円を目指していまして、もともと2020年3月期から24年の3月期の5年間に1,200億円を投じる予定だったんですが、マレーシアの工場などに約400億円を追加投資することを決めました。

それから三菱電機、2026年3月期までの5年間にパワー半導体向けに1,000億円の設備投資を実施する計画で、これとは別に研究開発にも400億円を投資する予定です。東芝は、パワー半導体が牽引役となって21年4月期は営業損益145億円の黒字となりました。こちらも設備投資、2024年3月期までの3年間で600億円を投じて生産能力を2割増強する計画です。

司会:各社設備投資が相次いでいるようですけど、伊藤さん、この積極的な姿勢の背景をどのように分析したら良いですか。

伊藤さん:よく「半導体は産業の米」と言われるじゃないですか。でも、日本人は米を食わなくなっていますよね。だから、「米以上の存在」だというのが半導体に対する基本的な私の考え方であって、つまり、今トヨタさんも含めて日本の自動車メーカーは半導体がないが故に、もちろん東南アジアのコロナもありますが、生産を抑制しないといけないというメーカーも出てきていますよね。半導体というのはもの凄いキーデバイスになるんです。

そのような位置づけにあるので、今のパワー半導体に占める日本のキーを各メーカーさんが努力して広げてくれればいいなと思っています。特に、三菱電機と東芝さんは、色々不祥事があって「あれらの企業は大丈夫か」と言われている中で、これをテコに、改革を進めてくれないと日本の株式市場全体にとってパワーが漲ってこないというわけですね。「パワー半導体でパワーをつける」という半分冗談みたいな話ですが。

でも、冗談ではなくて本当にそうなんですよ。だから、失敗を繰り返してほしくないと思いますね。

司会:今後、M&Aなどは活性化していくんでしょうか、この業界。

伊藤さん:最先端よりはカスタム化されている面があるとはいえ、やはり各社設備投資の方向性が若干違いますよね。だから、そこにディファランスが出てくると思うんですよ。なので、M&Aも当然テーブルに乗ってくるでしょうし、そこを上手くやったところが伸びられる、と。

半導体で分かったことは、企業の枠の中で作っていたらやはり遅れていく。枠を超えて、例えば、韓国なんかは日本の技術者を週末に呼んで発展してきたわけじゃないですか。そういうことも日本の企業はやらないとダメなのかなと思います。

司会:貴重な人材というところも大事にしたいところですよね。そして、先のことをここから考えていこうと思うんですが、このパワー半導体ですね、今後の市場動向を占う上でどのようなことがポイントになるのか、藤田さんお願いします。

藤田副編集長:半導体のウエハーはシリコンバレーと言うぐらいなので、普通はシリコンを使うんですけど、シリコンの代わりに「炭化ケイ素」を使うんですね。炭化ケイ素を使うことで、高電圧・高効率を実現する次世代のパワー半導体の開発が1つの焦点になります。

三菱電機は、炭化ケイ素を全面的に使ったパワー半導体を世界で初めて組み込んで評価を上げています。それから、パワー半導体全体では上位に入っていないんですが、ロームは炭化ケイ素を使ったパワー半導体では世界で2割弱のシェアを持っていまして、2025年の3月期までに、炭化ケイ素デバイスの生産能力を現状の5割超にする計画を掲げています。

司会:中国勢は脅威になるんですか。

藤田副編集長:そうですね。パワー半導体はウエハーに炭化ケイ素を使うなどの特徴はありますが、最先端の加工技術が必要というわけではありません。よって、中国企業でも装置を買って導入すればパワー半導体を作ることは可能で、試作の動きは始まっています。

それから、中国勢だけでなく欧米勢も最大手のドイツのインフィニオンテクノロジーズ、それからアメリカのオン・セミコンダクター、この辺は日本勢よりも生産効率が高い300mmウエハーでの増産に乗り出していまして、中国勢のみならず世界的な競争が激しくなっているといえます。

司会:大事な局面を迎えていると考えられますけど、先ほどもありましたが、失敗を繰り返さないということが必要ですが、半導体の歴史を振り返るとアメリカの保護政策にアジアへの技術流出というものがあって、日本企業のシェアを落としてきたということがあるんですけど、そうならないためにですね、どんなことが必要になると思いますか。

伊藤さん:半導体は現状だと台湾がかなりの部分を生産していますが、パワー半導体は日本が強いということもあって戦略的にアメリカは半導体を手放せないという面からも台湾を守るわけなんですよ。

半導体はそれほど戦略的な製品なんですよね。ここに日本の10社の中に入っていないロームという会社が非常に潜在力がある会社だということが、記事として取り上げられているのがもの凄く面白いなと思います。

シリコンに比べて炭化ケイ素は素材として少し高価ですが、高性能なものを生み出せるということで、ロームさんなんかがシェアの2割を占めているということなので、どのようなシェア展開になるのか、注目して見てみたいと思います。

競争は厳しくなるんですけど、結局は最新技術をどれくらい組み入れて新しい製品を作れる能力を維持できるかどうかなんですよね。日本はもう1回失敗しているので、失敗しないようにしてもらいたいですね。

司会:チャンスを最大限活かして欲しいなと思いますけど、ガラパゴス化にならないように視野を広く持つことも大切ですよね。

伊藤さん:標準化なんかでも先頭を切っていくことが、日本のシェアを落とさない、最後は勝ち残れる1つのポイントなのかなと思います。

司会:あとは、アピール力ももちろん大事になってきますよね。

伊藤さん:パワー半導体ってそもそも知っている人が少ないんですよね。そういうものを日本はしっかりやってますよ、ということを宣伝していく。それによって日本人が持っている「日本は半導体で負けてしまった」というイメージを覆していくという努力が必要です。それがきっちりできれば日本の産業界に対する信頼感も戻るわけだし、マーケットの自信も戻ってくると思います。

今、日本のマーケットは自信不足に見えるので、そんなことを考えながらこの記事を読みました。

司会:ピンチをチャンスに変えていって欲しいですね。ここまでは伊藤さんにお話を伺いました。ありがとうございました。