次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
家電量販店のFC(フランチャイズ)を経て、北海道でリユース事業を展開する、株式会社エコノス。現在は、「ブックオフ(17店舗)」「ハードオフ(15店舗)」「オフハウス(17店舗)」「ホビーオフ(16店舗)」「ガレージオフ(1店舗)」の計66店舗を運営している(2021年9月時点)。
北海道におけるFC展開の礎を築いたエコノスは、どのようにビジネスを成長させ、今後は何に注力していくのか。同社代表取締役社長の長谷川勝也氏に聞いた。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
大学卒業後、実家の家業である家電量販店FC加盟店を経営する北見シグナス商事(北海道北見市)に2 代目として入社。2 代目として社長業に目覚め社員と共に会社を再興し過去最高の売上 28 億円を達成した時、電量販店FC本部である「そうご電器(札証上場企業)」が破綻。家電事業から撤退、全ての店舗をハードオフ業態に転換。ハードオフ本部の仲介で札幌のハードオフ&ブックオフ加盟会社と合併をし、エコノスを誕生させる。そしてエコノスが誕生してから 10 年目の 2015 年 6 月 24 日に札幌証券取引所アンビシャス市場に上場。今に至る。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
環境意識の高まりを受け、ブルーオーシャンに事業転換
冨田:長谷川社長、本日はよろしくお願いいたします。エコノスは家電量販店のFCが祖業だと聞いています。どういった経緯でリユース事業に転換したのでしょうか。
長谷川:私の父が1964年に北見市で創業した北見シグナス商事が当社の前身です。もともとは松下電器製品の販売を目的に設立しました。78年に道内で家電量販店チェーンを展開していた「そうご電器(現:ゲオイエス)」とFC契約を交わし、北見市や隣接する網走市、美幌町、さらには札幌市に出店していました。
私自身は大学を卒業して東京で働いていましたが、バブルが崩壊したこともあり北海道に戻って92年に北見シグナス商事に入社しました。監査役や取締役営業本部長を経て、98年に31歳の若さで社長に就任しました。当時は全国的な家電戦争が始まっていて、世代交代で息子にバトンタッチするタイミングで、戦局で不利な地場系から全国チェーンに鞍替えするという狙いが先代にあったようです。
結果的に、それはとん挫したのですが、事業存続への危機感から私も社長業に目覚めました。まず考えたのは、業界を取り巻く不穏な状況下では家電一本ではリスクが高く、新たな事業を模索しました。そこで知ったのが、新潟発の中古品の買取・販売である「ハードオフ」が伸びているというニュースでした。98年と言えば、家電リサイクル法が制定された年で(施行は2001年4月)、大量生産大量消費から資源を大切にするという時代の変わり目のころです。「まさにこれだ」と思い、99年6月にハードオフコーポレーションとFC契約を締結し、2ヵ月後に道内1号店を北見市にオープンしました。
冨田:当初は家電量販店とリユース事業を並行していたのですね。
長谷川:はい。ところが、父には先見の明があったようで、そうご電器は02年に業績不振から民事再生法を申請し、FC本部は事実上経営破綻を迎えます。これが当社にとっての大きな転機でした。というのも、他の家電加盟店に移ることはできましたが、将来を考えると家電量販ビジネスは資本の戦いになり、FC加盟店といえども多額のキャッシュが必要で、経営環境は厳しさをますばかりでした。ならば、時代の流れに乗るべきだと経営判断を下し、家電から撤退して店舗をハードオフ・オフハウスへ業態転換し、リユース事業に集中することにしました。
冨田:紆余曲折を経て当時伸びていたリユース事業に遷移し、それが飛躍の原動力になったということですね。リユース自体はすっかり暮らしに定着し、いまはESGやSDGsのトレンドにもつながっています。2000年代初頭はベンチャー・リンクがFC支援業務を拡大し、全国的に本部や加盟店が増えていた時期です。FCビジネス自体が激戦期を迎えましたが、御社が伸びた要因はどこにありますか。
長谷川:ベンチャー・リンクが手がけていたのは主に飲食のFC業務支援でした。我々も同じ業界に飛び込んでいたら、飽和的な業界で過当競争にさらされたでしょう。対してリユースビジネスは始まったばかりで、競争相手があまりいなブルーオーシャンでした。かつ全国的に拡大するハードオフコーポレーションというFC本部に出会うことができたのは、幸運だったと言えます。
時代の追い風を受けた業種であったことも、成長を後押ししました。冨田さんがおっしゃるように、いまでこそESGやSDGsというワードが定着しましたが、当時はそれに先駆け、08年に開催された「北海道洞爺湖サミット」に向かい、環境やモノを大切にしようという機運が高まっていたころです。時代の要請を受けたビジネスに資本を投下するという判断が功を奏しました。
冨田:未来志向の考えが、今日につながったと言えそうです。業態転換はスムーズに進んだのでしょうか。
長谷川:そうご電器の経営破綻時は連鎖倒産寸前にまで陥りました。資金繰りは大変で経営は厳しかったのですが、新たなビジネスに対する夢は膨らむばかりで、第二の創業という気概で再出発したことを覚えています。
ブックオフのFC加盟会社との合併によりエコノスが誕生
冨田:さらに大きな転機となったのは、05年の企業合併ですよね。その経緯からその後の変化などをお聞きしたいです。
長谷川:ハードオフコーポレーションの創業者で、現在の山本善政会長から「札幌の会社と合併しませんか」とご紹介いただいたことが、きっかけでした。それが、札幌市や江別市でブックオフやオフハウスを展開していた「有限会社システム九六」です。経営者の方は今後を見据えて事業売却を山本会長に打診したところ、「北見にいる若手経営者と一緒になり、札幌証券取引所(札証)を目指せばいい。そのほうが夢があり、社員も希望を持つことができる」とアドバイスを受け、当社とのご縁につながりました。
我々としても上場を次なる目標に据えようということでトントン拍子に話は進み、05年3月に両社は合併し、エコノスが誕生しました。その時点でブックオフ、ハードオフ、ホビーオフで計23店舗ありましたが、翌年にはベンチャーキャピタル(VC)から資金を調達して本格的に全道への店舗展開に着手し、14年には60店舗を突破。翌15年6月にアンビシャス市場へ上場を果たしました。
冨田:札幌の会社で、かつFCのビジネスモデルでVCから資金調達するケースは珍しいですね。
長谷川:リユースという新たな業界で将来性や成長性があり、ビジネスモデルモデルの優位性が評価されました。
冨田:当社が起業した13年以降はVCの資金が入りやすくなりましたが、それ以前に調達して上場を遂げたのは、素晴らしいことだと思います。しかも、東京は資金が集めやすい一方で、地方都市はファンドの投資が少ないことで知られていますから、なおさらです。
長谷川:札証があり、札幌の企業がアンビシャスに上場する可能性があることも関係しました。だからこそVCから資金が入り、主幹事証券と監査法人、当社で三者面談を行い上場に向けてキックオフできる体制を構築できたことも大きかったと思います。
エコロジー&エコノミーを共生したビジネスモデルを世界に発信
冨田:現在は店舗を通じたリユース各事業、リユース商品のEC販売、さらには北海道のリユース店舗で販売できなかった玩具・雑貨・衣類を物流拠点に集めて他国へ出荷する「3R推進事業」と、多岐にわたる事業を展開するまでに至りました。一方で、世の中は脱炭素やSDGsを意識するようになり、御社のビジネスはこれらのトレンドにフィットしています。未来に向けてどのような事業を構想していますか。
長谷川:社名に込めているとおり、私たちの思いは「エコロジーとエコノミーの共生」です。これまでは、経済を追い求めると地球環境に負担をかけ、逆であれば経済に我慢を強いていたのが、いまはESGやSDGsの文脈のもと、ようやく両立できる時代になってきました。エコノスという社名に、やっと世の中が追いついたと実感しています。
もう一つ、エコノスの社名は「エコ」と北の大地・ノースランド北海道の「ノース」を合わせたもので、北海道から新しい価値を発信したいという決意を表しています。北海道は可能性のある大地で、まさにこれから環境と経済をテーマにしたときは、世界の中心になるくらいのエネルギーがあるはずです。こうした点を踏まえ、北海道をベースにしながら、新たなエコロジーとエコノミーを共生したビジネスモデルを創造し、上場企業のメリットを生かしながら道外はもちろん、世界に発信できる企業体になることを目指しています。
昨今は再生可能エネルギーに対する議論が活発ですが、大きなトピックのその手前でリユースや、無駄な資源の削減など、できることはたくさんあります。リユースの「Re」は「再び」を意味しますが、これを接頭語にしたリフォームやリペア、リノベーションなど、リユースをベースに「Re」をテーマにしたビジネスを横展開したい考えです。
冨田:北海道には成長著しい企業がたくさんあります。地元企業でパートナーシップを結び、金融機関も巻き込んで世界へ飛び出すというプランも思い浮かびます。
長谷川:いま北海道では、サツドラ(サッポロドラッグストアー)が中心となり展開する、道内独自の共通ポイントカード「EZOCA(エゾカ)」の提携店が拡大しています。こういった仕組みや札証や地場の金融機関、企業、NPOなどが中心となり、北海道を盛り上げたいと思います。
FCビジネスのゲートウェイとして事業展開を支援
冨田:北海道に対する長谷川社長の思いやこだわりが伝わりました。御社は北海道でFCの成功モデルを確立した企業です。今後、同じビジネスモデルを展開したい企業がエコノスに相談するという、道内におけるゲートウェイ的な存在になることができると思いました。
長谷川:その立ち位置も目指したいところです。我々はFC加盟店として、高度なオペレーションのノウハウを持っています。多店舗展開の支援ができるとなれば、FC本部や加盟店にとって魅力的に違いありません。いまはコロナ禍のなかで収益力を上げることに集中し、今後はこれらのビジネスを皮切りに、リスタートを切りたい次第です。
手本としているのは、札幌に本社を構え、健康食品や化粧品のオリジナルブランド「北の快適工房」を手掛ける「北の達人コーポレーション」です。同社の時価総額はアンビシャスに上場した時点で6億円でしたが、東証一部上場に市場変更してからは、一時は1000億円まで成長しました。北海道の企業が札証を経て東証へ行くというストーリーを実現していて、我々もそこを目指すべく、新たな成長戦略を描いていきます。
冨田:北海道は土地を含めて広大な資源があり、大きな経済圏としてのポテンシャルを秘めています。札幌や周辺では再開発プロジェクが進行中で、発展の勢いは止まりそうにありません。そういった成長エリアでいち早くリユース事業を展開し、成功を収めたエコノスのビジネスモデルは、さまざまな場面で応用が利きそうです。御社の存在が北海道経済圏を拡大する、明るい未来の灯りになると信じています。本日はありがとうございました。
プロフィール
- 氏名
- 長谷川 勝也(はせがわ・かつや)
- 会社名
- 株式会社エコノス
- 役職
- 代表取締役社長