次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社ショーケース代表取締役社長の永田豊志氏。テクノロジーを通じて「おもてなし」をクライアントとその先のエンドユーザーにまで届けるサービスを展開する同社の現在地と今後について伺った。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

株式会社ショーケース
(画像=株式会社ショーケース)
永田 豊志(ながた・とよし)
株式会社ショーケース代表取締役社長
1966年生まれ。88年九州大学経済学部卒業後、リクルート入社。退社後、複数のスタートアップ経営に参画し、2003年、ショーケース・ティービー(現・ショーケース)を共同設立、取締役COO就任。15年に東証上場。17年に子会社Showcase Capitalの社長に就任。19年ショーケースの社長に就任。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

原点に立ち返ってビジネスを刷新。金融機関の顧客手続きでかけがえのない存在へ

冨田:まず創業から上場、そして現在に至るまでどのように事業を広げてきたのかお聞かせください。

永田:創業より弊社はWebマーケティングの領域でクラウドツールを提供しています。サービスはいくつもありますが、基本的にはWebマーケティングのクラウドツールです。

一時的にM&Aなどで企業規模を大きくしたこともありますが、2019年に私が代表に変わるタイミングで第二創業と位置づけ、体制や制度を刷新しました。M&Aで取り込んだ会社やスケールする見込みがないサービスを8つぐらい閉じ、取締役を入れ替えるなど原点に戻ってベンチャー精神を見直しました。

ただサービスを閉じるだけでは縮小最適なので、新たな事業として動画サービスをやったり、Webマーケティングの追加的なサービスを作ったりと、とにかく模索をしました。その中で、自分たちが展開してきたSaaSのクライアント半数以上が金融機関だということ。また、そのうち95%が直取引なので、その顧客基盤に対して価値提供をするべきだということに焦点を置いてみたんです。

また、当時「オープンイノベーション本部」という部署を作って、事業と関わりがなくても研究開発をする部門で顔認証の研究を進めていたんです。金融機関のクライアントが多い中で、顔認証の技術はとても相性が良いので、eKYC(オンライン本人確認)を新しいサービスとして注力しています。

冨田:閉じるべき事業を閉じ、新しい事業を模索する中、今後注力していきたいのはeKYCがメインなのでしょうか。

永田:当社が推し進めたいのは、企業と顧客をつなぐオンライン手続きの素晴らしい顧客体験です。eKYCも、そこに必要な要素の1つです。
もともとは、入力フォームの最適化サービス(EFO)でクライアントから大きな信頼を得たことが始まりです。
“入力フォームの最適化”と聞くとニッチなようですが、金融機関などにとって口座開設や申し込みは顧客を取り込むキモとなります。入力された情報を情報システム部が管轄し、基幹システムとどうつながっているかなどは非常に複雑で、レベルの高い管理体制が求められます。
企業だけでは管理体制や改善のPDCAが回せない中、弊社が代わってPDCAやテストをやって改善することを繰り返していたら、クライアントから評価をいただくことができました。そこから金融機関向けのSaaSサービスが広がっていったんです。

資本業務提携と自社サービスで、金融機関の煩雑なデータ処理を一手に担う

冨田:エンドユーザーにとって口座開設が快適になるということは、貴社のサービスが金融機関にとって非常に重要だと感じました。これからのサービスで注力されたいポイントを教えてください。

株式会社ショーケース

永田:直近で注力していくことは主に2点あります。1つ目は、昨年資本業務提携したAI inside株式会社とのアライアンスによる共同事業です。

AI insideはAI-OCR(OCR:光学文字認識×AI:人工知能))分野を得意としていて、紙などのアナログをデジタルにする機能が強みです。当社は、デジタル入力(オンライン手続き)をいかに効率的で安全なものにするかに取り組んできました。これから両社の2系統を統合させるサービスを提供し、新領域のサービスとして伸ばそうと考えています。

2つ目は、 独自のオンライン手続きプラットフォーム事業です。

企業や行政がオンライン手続きを準備する際、例えばワクチン接種予約手続きであれば、成人であるか、本人確認のプロセスがあるか、予約がダブってはいないか、接種番号を持っているかなど、単純な入力作業だけで済まないことがあります。それら複雑な要件を1つのプラットフォームで、ノンコードで誰でも作れるプラットフォームを準備しています。
「おもてなしSuite」というサービス名で年内にリリースする予定です。

株式会社ショーケース

エンドユーザーまで考えぬくサービスこそが強み

冨田:SaaSの中でさまざまなサービスラインナップを持たれていますが、貴社の競争優位性、コアコンピタンスはどこにあるのでしょうか。

永田:弊社は「企業と顧客をつなぐ」ことをビジネスコンセプトとしています。企業や行政にとっても、そしてエンドユーザーにとってもハッピーで使いやすく、コストパフォーマンスの高いDXサービスを提供することに、社員一丸となって取り組んでいます。営業から開発まで、当事者意識を持ち、顧客の「不」を解消することを重視しています。 特に金融機関向けサービスでは、セキュリティからユーザビリティに至るまで非常に高いレベルが求められます。そうしたことを専門的に担ってきた経験やノウハウは私たちの強みの一つではないでしょうか。

冨田:toBよりの領域だけでなく、toCの領域にまでサービスを広げているんですね。

永田:まさにそのとおりで、AI insideと資本業務提携した理由の一つも、エンドユーザーから企業、企業から企業内と、両社の得意なデータ活用を組み合わせることで、一気通貫のパイプラインが作れると思ったからです。

他社に負けないスピード感と、全社員でのビジョン共有

冨田:冒頭で触れられたように、第二創業にあたってさまざまな変革をされたそうですが、ご自身がトップになって、経営にどのような変化がありましたか。

永田:私が経営判断するうえで最も重視していることはスピードです。もちろん伸びる市場を狙う、ゴールを決めるということが大切ですが、時間をかけてしまうと、特にこのIT領域においては勝てるものも勝てなくなってしまいます。

多少ざっくりしたままでも良いので、ライバルよりも早くプロダクトをローンチさせるスピード感を持つこと。また、体制を変えるときもスピードを上げられるようにすることを重視しています。

株式会社ショーケース

永田:また、ビジョンの共有にも力を入れるようになりました。社内では「フライトプラン」というものを作っています。A3ほどの紙に会社としてのビジョンやコアバリュー、中期計画、今年度の計画、そこから各事業部がどうなっているのか、コーポレート本部のどこがどのような役割を担うのかを樹形図で描いたものです。それをアップデートしながら全社員に配り、メンバー一人一人まで、会社として何をしたいのかの共有を徹底しています。

テクノロジーを通じて「おもてなし」を届ける企業へ

冨田:最後に、思い描く未来構想について教えてください。

永田:まずは、オンライン手続きのナンバーワンプラットフォーマーになることを掲げています。エンドユーザーが「おもてなし」を感じるのはバックエンドではなくフロントエンドの仕組みです。世の中には優れたデータベースの仕組みがたくさんありますが、実際に使うユーザーやユーザーインタフェースを考えると、圧倒的なナンバーワンはまだありません。

「おもてなし」テクノロジーを担うプラットフォームサービスとして、さまざまな既存のシステムをまとめ、ユーザーにとってとても心地いい手続きのプラットフォームにすることが中期的な構想です。

いわゆる老舗旅館の「おもてなし」ではありませんが、単純にDXと言ってデジタルに置き換えるのではなく、利用する人間がどう感じるかがとても重要です。業種に限らず、企業と顧客が「おもてなし」だと感じるのは、期待を上回るパフォーマンスや感動的な対応があったときです。

それをテクノロジーで実現するなら、今はまだ実現はしていませんが、もっとパーソナルなサービスになると思います。例えば、その人の関心事やリテラシーに合わせて表示や案内が変わるように、ストレスがない以上に「おもてなし」を感じるサービスにアップデートしていきたいです。

プロフィール

氏名
永田 豊志(ながた・とよし)
会社名
株式会社ショーケース
役職
代表取締役社長
ブランド名
カンタンeKYC「ProTech ID Checker」シェアNo.1EFOツール「Form Assist」
受賞歴
東京都主催:第1回TOKYOテレワークアワード大賞受賞
出身校
九州大学