岸田政権は、安倍晋三前首相ら「3A」と呼ばれる自民党重鎮の影響が色濃いだけでなく、経産省と開成高校閥という2つの切り口がある。自民党幹部と閣僚の顔ぶれからは岸田首相の描く長期政権構想が浮かび上がる。ただ、連立与党の公明党とは政治姿勢が大きく異なり、自民党総裁選決選投票で借りを作った高市早苗政調会長との路線の違いも気になるところだ。新内閣の顔ぶれからマーケットの期待値を探っていく。(経済ジャーナリスト・植草まさし)

重鎮を操りながら味方を増やす岸田氏の戦略

検証!岸田政権で日本株は上がるのか⁉
(画像=さとし/PIXTA、ZUU online)

岸田文雄首相の就任当初、野党は一斉に安倍晋三元首相らによる「長老支配」を指摘し、批判を強めた。しかし、岸田内閣発足から日が経つにつれて、野党も自民党議員も岸田流の人事の妙味に気づいてきた。党の重鎮を上手に操りながら味方を増やしていく、岸田氏の戦略が明らかになってきたためだ。

岸田氏はまず、党役員の任期制を打ち出し、高齢の二階俊博幹事長(当時)の追い落としに成功。総裁選では安倍氏や麻生太郎元首相の後ろ盾を得たほか、総裁選決戦投票では3位の高市早苗氏(現政調会長)陣営の票も吸収して河野太郎行政改革担当相(当時)に圧勝し、事実上格下とされる自民党広報本部長に押しやった。

自民党総裁選を勝ち抜いて岸田氏が首相に選出された10月4日、新閣僚人事でいくつかの誤報が流れた。実際には経産相に収まった萩生田光一氏の官房長官起用などだ。一説には、安倍元首相が岸田氏に萩生田氏の官房長官登用を働きかけたが、岸田氏が安倍氏の影響力増大を嫌って、これを退けたという。この時に岸田氏が頼ったのが甘利明幹事長と言われる。

河野氏を安倍、麻生コンビの力を借りて封じ込めて首相になり、その後は麻生氏を権限の定かでない党副総裁に祭り上げ、安倍氏の圧力は甘利氏を使ってやんわりかわす。総選挙で自民党が議席を減らせば幹事長の責任が問われ、甘利氏の発言力は低下する。気がつけば岸田氏が圧倒的な権力を握っている構図だ。「人の話をよく聞くことが特技」だとする岸田文雄首相。この言葉の裏側には、「話を聞いて判断するのは自分だ」という強い信念があるようだ。

政策のキーマンは、政調会長に就任した高市早苗氏

岸田内閣の政策決定に大きな影響を与えそうなのが高市早苗政調会長。党総裁選の決戦投票で応援を得た「借り」もある。

高市氏は自民党の保守派の論客として知られ、思想的に安倍氏よりも保守色が強いようだ。高市氏は総裁選でも防衛問題の議論では他候補をリード。政調会長就任後も中国や北朝鮮の脅威への備えを急ぐよう訴えている。

このため、高市氏の政調会長就任で防衛予算の増額が通りやすくなると予想され、軍需企業トップの三菱重工業(7011)や潜水艦建造技術を持つ川崎重工業(7012)、自衛隊にレーダーを納入する三菱電機(6503)やNEC(6701)といった防衛関連の主力企業が市場の注目を集めそうだ。

高市氏は経済安全保障についても蓄積が厚い。この分野は経産省の肝いりの政策でもある。経産省は甘利幹事長、萩生田光一という元職と現職の経産大臣を通じて岸田内閣に影響力を及ぼすほか、総理首席秘書官として元経産事務次官の嶋田隆氏を送り込んでいる。