衆院選を終えた岸田文雄首相の次の試練は来年夏の参院選。それまでは手を付けたくない3つの難題がある。「年金問題」「消費増税」「金融課税強化」だ。いずれも有権者に「痛み」を強いるもので、低支持率でスタートしたばかりの岸田内閣にとって、参院選を乗り切るまでは封印しておく以外に選択肢はない。ただ、投資家は景気重視を唱える岸田氏の衣の下に、財政再建論者としての鎧を見ている。一方、財界の後押しもあって岸田氏は四半期開示制度の見直しに強い意欲を示しているが、扱いを誤ると株価下落を招いて自ら墓穴を掘りかねない。(経済ジャーナリスト・植草まさし)

制度改正に切り込めない年金問題

検証!岸田政権で日本株は上がるのか⁉
(画像=Satoshi KOHNO/PIXTA、ZUU online)

年金問題は最終的に負担と給付のバランスに行き着く。少子高齢化で年金を支払う現役世代が加速度的に減る一方、年金を受け取る人口は多い。出生数は1949年(2022年に満73歳)に269万人だったのが、2002年(2022年に満20歳)に115万人まで激減しているので、どの政党のどんな有能な政治家であっても、年金制度を今のまま維持するのは不可能だ。

現役世代から毎月徴収する掛け金だけで年金の支払いが足りなくなれば、増税して穴を埋めるしかない。政治家にできることと言えば、現役世代には負担増加を、リタイア世代には受け取り減額を、それぞれ受け入れてもらうことだけだ。

岸田氏と自民党総裁選を争った河野太郎自民党広報本部長は果敢にも年金問題を争点として持ち出した。現在の掛け金方式を廃止し、全額を税金で賄うとするプランを披露したが、岸田氏や高市早苗政調会長、野田聖子女性活躍・こども政策担当大臣から総攻撃され、敗因の1つとなった。国民の評判も悪かった。それだけに、岸田氏は年金問題の怖さを熟知しており、場合によっては自らの在任中には抜本的な制度改正に手を付けない可能性さえある。

マーケットが警戒する金融課税の強化

一方、「岸田増税」に対する警戒感は特に株式市場で根強い。

岸田氏は総裁選出馬直後から、金融課税強化に言及。株式による収入の多い年間所得1億円超の富裕層で実効税率が低下する「1億円の壁」問題を取り上げ、高額所得者の株式売却益や配当の税率を現行の20%から引き上げるべきだとしてきた。税率アップによる歳入増は格差縮小に充てるという。

ただ、株式への課税強化は投資家にとって実質的な減配につながり、株式の投資価値を目減りさせる。自民党総裁選(9月29日)をはさむ9月17日から10月6日までの1ヵ月足らずで日経平均が3,000円安と急落したのは、岸田氏による金融課税強化を懸念したものとみられる。

岸田氏はその後、「誤解が広がった」として金融課税強化は当面行わないと強調し、火消しに回った。市場の猛反発に驚いて慌てて撤回した格好だが、首相任期中の課税強化は「あり得る」として含みを残した。「成長と分配」の言葉通り、まず経済を成長させて賃金を上げ、その後に税制を通じて富を再分配するとの考えである。

これより先の9月18日、岸田氏は消費税率引き上げについても「10年程度は考えていない」と発言している。岸田氏は増税論者とみられ、少なくとも安倍政権下では財政再建論者とみられていた。総裁選のさなか、岸田氏にはSNSを通じて「財務省の犬、財務省のポチと呼ばれていますがご存知ですか?」との質問が寄せられ、動画の岸田氏が苦笑いしながら否定する一幕もあった。