第3回 「働きがい」を生み出す職場づくりを
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いま、日本企業のなかで、あらためてWell-being(幸福)経営やワーク・エンゲージメントへの注目度が高まっています。
日本は、各種の国際比較調査において、仕事の満足度が低い国の最下位クラス。この間、「働き方改革」には一定取り組んできたものの、肝心の「働きがい」は一向に高まらず、モチベーションの低迷が仕事の生産性向上を阻む主要因の一つと考えられています。その打開のためには、働きやすさへの改革ばかりではなく、仕事の満足度―働きがいの回復をめざす改革が不可欠ではないか。―こうした課題認識が、次第に強まっているのです。
では、どうすれば「働きがい」を生み出し、育む職場を創ることができるのか。まず、働く一人ひとりの立場に立って(経営者も自らを振り返って)考えてみましょう。

働きがいの瞬間を振り返ろう

働くとは人のために動くことです。「傍を楽にすること」とも言い換えられます。そして、働きがいとは「人のために動く喜びを感じられること」です。
現場で働く一人ひとりが働きがいを追求することは、お客様の役に立つことにつながり、会社はその積み重ねで社会貢献でき、社会の公器たり得るのです。

ただ働く皆さんには会社のためにと考える前に、自分の仕事人生を充実させるために、自分自身の働きがいとは何かを見つめ直すことをお勧めします。これまでにあなたが「人のために動く喜び」を感じた仕事はどのようなものか、どんな瞬間だったのか、どういった感情を抱いたかを思い出し、ノートに書き出し振り返ってみてください。

人間には、得たものの喜びより損失の悲しみのほうを大きく感じる損失回避バイアスという心理的傾向があると言われています。そのため、日頃は給料が下がったとか、人事評価が下がったといった不満に意識が向きがちでしょう。
だからこそ働きがいを振り返ってみるのです。自分が得てきた大切なものに気づけるはずです。
あなたの働きが相手に及ぼした善い影響や手応え、仕事の醍醐味を感じ、働いてきて良かったとしみじみ思えるのではないでしょうか。

良かれと思った取り組みがお客様からのクレームを受けたり、上司・先輩に叱られたり、同僚や他部署との軋轢を生んだりと、そこに至る道のりは辛く苦しい場面もあったかもしれません。それでも諦めることなく、自分なりの信念を持って働いた結果が報われて、人に感謝され働きがいを感じた経験は、真面目に働いてきた人なら誰にでもあるのではないでしょうか。
そうした自分自身の働きがい経験を思い起こし、これから1つでも多く同様の瞬間をつくり出せるように意識すれば充実した仕事人生を育めるでしょう。

オキシトシンvsドーパミン

人は喜びを感じた時に、幸せホルモンや愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンが分泌されます。他人に親切にした時にはオキシトシンが現れます。興味深い傾向は、親切を受けた相手が感じる以上に親切を行った本人が幸せを感じるということです。これは、まさに働きがいに通ずる真理です。

これと対比されるのがドーパミンです。これは、競争や試験で結果を出そうとする時や、何らかの目標を達成しようとする時に湧き出るものです。職務遂行のためには、ドーパミンを沸き立たせる場面も必要でしょう。ただ、充実したキャリアを長く歩んでいくには、瞬時瞬時にドーパミンを出す働き方に加えて、オキシトシンを継続して出していけるような働き方も大切です。

オキシトシンは、もともと家族間、親子間などの触れ合いで多く発生するものです。しかし現代は核家族化が進み単身者家庭も増えています。
そこで仕事を通してオキシトシンが出る働き方、つまり働きがいを追求する働き方ができれば、幸せな生き方にもつながると私は考えています。

働きがいのエピソードを共有しよう

個人として働きがいが振り返れたら、次は働きがいのエピソードを言葉にして、職場で共有し合ってみるとよいでしょう。
日頃お客様から感謝や労(ねぎら)いの言葉をかけられる機会は多くないかもしれません。お客様はサービスへの対価として代金を支払っているため、心の中で便利さや謝意を感じたとしても、わざわざ「ありがとう」を伝えには来てくれないからです。

その一方で遅延やミスなど問題が生ずれば必ず通報されますから、職場の話題は叱責やクレーム中心になりがちです。仕事に正確性や迅速性が求められる業種であれば、なおさらです。
こうしたネガティブな情報ばかりが取沙汰され続けると、「私たちの仕事はクレームが多く感謝されることが少ない」といったマイナスの感情が蔓延し始めます。放っておくと、この負の連鎖で職場は不活性になり、さらに働きがいが失われる悪循環に陥りかねません。

そこで、現場で働く一人ひとりがお客様からの感謝の言葉やエピソードを得られたならば、その貴重な経験を意識的に共有し合うのです。朝礼、夕礼、終礼などの場を活用するのもよいでしょう。
現場の管理者やリーダーは働きがいのエピソード共有の場を意識的につくり、また社員の皆さん一人ひとりも同僚や上司に働きがいの体験を積極的に伝えるように心がけてください。放っておくとマイナスの感情に支配されがちな職場を、社員全員の力を合わせてポジティブな感情で押し返していくのです。

これを習慣化できれば職場が活性化し、日々の仕事に喜びや働きがいを感じる好循環が生まれるでしょう。さらには、一人ひとりの仕事への自信やプライド、情熱も増していくはずです。

※本稿は前川孝雄著『人を活かす経営の新常識』(株式会社FeelWorks刊)より一部抜粋・編集したものです。

職場のハラスメントを予防する「本物の上司力」
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。最新刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月発行)

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