コロナの影響から、デジタルトランスフォーメーション(DX)が一気に加速したといわれる2020年。営業活動のDX化においても、オンライン商談が定着する等、大きく様変わりしたといえるでしょう。
ただ、まだまだDXが難しい領域も多く、BtoB企業とBtoC企業では、課題感もまったく異なります。では、企業にとってDX成功のキーとは何なのか。ジャフコグループは、コンサル選定支援サービス「Proffit」を運営するCo-nnect Inc.とともにアンケートを実施し、どんな営業プロセスでDXの課題を感じているのか、企業の声を集めました。同社代表取締役社長の関根有氏と、ジャフコ グループキャピタリストの坂祐太郎が、営業活動のDXを進める上でのネックを考えていきます。
※アンケートの詳しい内容や資料が必要な方はこちらよりお問い合わせください。
【登壇者プロフィール】(敬称略)
Co-nnect Inc. 代表取締役社長 関根 有 (せきね・ゆう)
2008年、東京大学大学院工学系研究科修了後、戦略コンサルファームA.T. Kearneyに入社。デロイト トーマツ コンサルティングに転職後、2015年に執行役員として大企業の新事業創出、中長期成長戦略検討を中心とした戦略部門をリード。2017年、「社会の知恵を未来につなぐ」をビジョンにCo-nnect Inc.を創業。企業の課題解決のプロフェッショナル選定を支援する、業界初のコンサル選定支援サービス「Proffit」をリリース。現在200社のコンサルファームをネットワークし、企業の課題に合ったコンサルのマッチングを推進している。
ジャフコ グループ株式会社 プリンシパル 坂 祐太郎(さか・ゆうたろう)
上智大学法学部卒。2012年、ジャフコに入社。主な投資先はマネーフォワード、Chatwork、WACUL、カラクリ、GIFMAGAZINE等。ForbesJapan主催「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」2017年第2位。現在は投資先支援業務に従事。
営業活動におけるDXは今後どう進むのか? ―BtoB企業の場合-
関根 営業活動におけるDXは、BtoB、BtoCそれぞれで、見えてきた課題が大きく異なりました。そもそも、BtoBの営業活動における課題には何があるのでしょうか。ターゲット選定から営業資料準備、アポ設定、受注、顧客データ管理等、各プロセスでの課題を聞いたところ(回答企業33社)、課題があるのは、顧客データ管理や営業ノウハウのデータ利活用、営業スキル向上の領域だと分かりました。
営業活動におけるデジタル化はどれくらい進んでいるのか。推進度合いを聞いたところ、商談のオンライン化、社内情報共有の効率化ではDXが進んでいるものの、受注率向上や営業スキル強化等、提案力を上げて業績に直結する部分では、デジタル化が進んでいないという実態が見えてきました。
では、DXを進めてどれくらい成果が出ているのでしょう。アンケート結果からは、アポ獲得率向上や、商談のオンライン化、営業コスト削減では成果を実感している一方、提案力や受注率の向上、社内情報共有の効率化、営業活動の見える化においては成長を実感できていないという傾向が読み取れます。
これらの結果から、今後のDXが進むべき方向をチャート図に落とし込むと、次のようになります。
成長実感が高く、導入企業が多い「オンライン商談化」は、定着が予想されるでしょう。「成長実感が高いがまだまだ浸透が進んでいない領域」は、伸びしろがあり、DXを進めることで定着する可能性があります。また、「導入が進んでいるが成長実感がない」という社内の情報共有効率化は、成長実感を改善しなければその反動でDXから離脱してしまうことが考えられます。
坂 こうして数字や図で見ると興味深いですね。私はキャピタリストとして、マネーフォワードさんやChatworkさん、今年2月に上場したWACULさん等、多くのSaaS系スタートアップに投資してきました。
もともと変化の激しい業界で、時代ニーズに応じて様々なプロダクトが生まれてきましたが、とくに2020年の1年間での動きは目まぐるしいです。商談のオンライン化は、まさにこの1年で一気に定着したものでしょう。社内情報共有の効率化は、コロナ前からチャットツール活用等でかなり進んでいた印象はあり、プロダクトとしてもスタートアップ界隈でもっとも盛り上がっている領域の一つです。
ここが離脱セグメントにある仮説として、リモートワークの浸透でそもそも社内コミュニケーションのあり方が変わっている点はあるかもしれません。出社・対面をベースにしたツール活用では効果が出なくなる等、新たな課題が顕在化し始めているとも言えそうです。
関根 そうですね。この1年の変化を通して、SaaS系スタートアップのプロダクト開発における課題感はあるのでしょうか。また、営業活動におけるDXはこれからどうなっていくと考えますか。
坂 多くのプロダクトは、コミュニケーションの変化を見越して開発しています。DXが加速した2020年以降も追い風になってくるのではないでしょうか。伸びしろセグメントにある「アポ獲得率の向上」においても、多くのプレーヤーが出ており、アポ獲得の効率化ソリューションは直近3年で急増した印象です。受注率が下がったのは、オンライン化で時間や場所の融通が利き、アポを取りやすくなった背景があるのではないかと捉えています。
受注に繋がる有効なアポを増やすためのプロダクト開発としては、例えば、営業先企業がどのSaaSを導入しているかデータベース化するサービスもあります。それが分かれば、「某SaaSサービスを入れているなら、こちらのサービスを合わせて導入して連携した方がいい」等の提案も可能になるでしょう。データ化でユーザーのターゲティングが明確になり、「アポ獲得率」「受注率の向上」は定着セグメントに移行していくと思います。
関根 アンケートによると、オンライン商談は今後も6割以上の企業が継続を検討しています。「一日当たりの商談件数が増えた」「アポを取りやすくなった」「決裁者・上席の同席率が高まった」等、スケジュール調整がしやすいメリットが多く上げられた一方、「顧客の反応がつかみづらい」「顧客との距離感を縮めづらい」との声も。
オンライン商談での営業力強化を、スタートアップの皆さんはどう取り組んでいますか。
坂 手探りな部分は多いですが、例えば、営業のハイパフォーマー分析をタブレットのデータを使って分析したスタートアップがありました。商談時にどのスライドをどれくらい使ったかを分析すると、ハイパフォーマーほど使っている資料が少ないことが明確になりました。ハイパフォーマーの営業活動を追うことで営業スキル向上、成約率の向上に繋げることができると考えられます。
さらに、今は音声を自動で文字に起こす技術が上がっているので、オンライン上での会話をテキスト化し、使う言葉の傾向を分析できるかもしれません。必要な情報を抽出して共有できるようになれば、情報共有のあり方が変わってくる可能性があります。
関根 一方で、DXを進める上での障壁が「企業文化」という現実もアンケート結果から見えてきました。
いざ導入しようと社内議論を進めても、決裁を通しにくい。そこには、「営業とはお客様と会って関係構築するものだ」という上層部の成功体験からの反対や、DXがどんな成果を出せるのか説明しにくいこと、今までのやり方を変える実務的なコストがネックになる等、様々なハードルがあるといいます。
変えてまで得られるものが何なのか。導入前にどれだけカスタマーサクセスを示せるかが大きなポイントになることが分かりました。
営業活動におけるDXは今後どう進むのか? ―BtoC企業の場合-
関根 では、BtoC企業にはどのような課題があるのでしょう。14社へアンケートを実施したところ、「接客担当の採用・育成」から「効果的な接客実施」「接客スキルの高度化」まで課題感が全領域に満遍なくあることが分かりました。
実際のDX推進度合いでは、「接客のオンライン化」「接客時の顧客データの活用」に取り組んでいる企業が比較的多い傾向です。ただ、成果実感としては、一部の接客・情報共有が効率化したという部分に限定しており、「接客をオンライン化しても省力化につながっていると実感しにくい」「店頭でお客様と話した方がスムーズだ」という声が聞かれます。
今後のDXトレンド分析をしても、定着セグメントに固まっているものは現時点ではなく、オンライン接客化や、接客時の顧客データ活用は、離脱リスクがあると考えられます。
坂 オンライン接客化による接客コストの削減は、多くのBtoC企業で導入を検討されていると思います。ジャフコの投資先企業でも、量販店やホテル、カラオケ等の定型的なフローマニュアルがある接客業務においては、遠隔に置き換えようというニーズが高いです。人材不足による採用難からも、オンライン接客化ニーズは今後ますます求められますよね。オンライン接客の成果実感が得られていない背景には、何があるのでしょう。
関根 定型的な接客で対応できる業務と、購入意欲を高める営業に近い接客業務ではかなり違うのだと思います。アパレルの接客のオンライン化なんて、なかなか難易度が高そうです。省力化に加え、デジタルならではの付加価値をつけた接客フレームワークが作れたら、今後のDXは進んでいくかもしれません。
坂 そうですね。日本は世界的に見ても、接客のクオリティが非常に高い。これをオンラインに置き換えるのは、サービスレベルの高さゆえにハードルがあるともいえます。店頭で購入するという商習慣が、今後どこまで変容するかも関連しますね。店頭体験をどう変えていくか、考える余地はいかようにもあります。
関根 アンケートによると、現状の店頭接客業務は9割が対面です。約6割以上の会社が業務のデジタル化を前向きに検討すると回答しており、現状とのギャップが大きいからこそ、チャンスがあるとも考えられます。
ただ、BtoC企業にとって、DXの最大のネックは人材育成、社内浸透です。人材の流動化が激しい業界も多く、使ってもらうための教育コストが重いのでは、という懸念があるのです。まだやったことがないから成果予測ができないし、ツールを導入しても使いこなせないのでは...という声は大きい。ここがBtoB企業との大きな違いです。
坂 そうですね。ジャフコの投資先で、飲食店向けの研修動画サービスを提供している企業は、UI/UXに非常にこだわっています。コンシューマー向けアプリのように、いかに使い勝手が良いか、わかりやすく直感的に操作できるかを意識してプロダクト開発しています。
関根 なるほど。接客現場においては、パート・アルバイト人員の育成という面からの、UI/UXが重要ということですね。BtoC企業は、企業文化による障壁という声はなく、「接客の人件費でコストがかかっていて経営を圧迫している」という危機感や焦りが強いことが分かります。ただ、どこからどうDXを進めていいのか分からない...というのが現状なのでしょう。
「この領域は、この個別ツールを活用して、〇%の経費削減を目指しましょう」等とステップを分けながら進めるのが現実的だと考えています。
企業にとってDX成功の要件とは?
関根 改めてDXとは、
企業の成長を阻む課題に対して、データ・デジタル技術を活用し、サービス・ビジネスモデル・プロセス・組織を変革することで、環境変化の中で勝ち残るための優位性を確立すること
と定義づけられます(※経済産業省 DXガイドラインを参照)。
データ活用のイメージが強いですが、「そもそもどんな課題解決のために活用し、それによって企業がどう変わることを目指しているのか」が具体的に議論されていないことが多いと感じています。そのため、現状に則さないハイスペックなツール導入に走り、社内浸透や育成がついていかずに離脱してしまう...ということも少なくありません。
DXの先に何があるのかをイメージするためには「トランスフォーメーションwithデジタル」という順番で、課題をとらえ、それが解決したらどんな状態になるのかを描くことが大切です。
坂 個別ツールの導入はもちろん、基幹システムの新たにするといったドラスティックな変更では、変化適応コストを懸念する声が上がりがちです。ジャフコ社内においても、まさにその課題に直面しており、「トランスフォーメーションwithデジタル」の視点での議論と、目指すゴールの社内共有が大事だと改めて感じました。本日は、とても貴重はお話をありがとうございました。