三井物産と富士通の事例から学ぶ! 「withコロナ」時代における新規事業の意思決定
(画像=三井物産と富士通の事例から学ぶ! 「withコロナ」時代における新規事業の意思決定)

日本のスタートアップ界隈で起きているトレンド、現象、データ等のトピックスをジャフコなりの視点でリサーチする連載「JAFCO総研」。第2回は「with コロナ時代における新規事業の意思決定」というテーマです。

まずはジャフコのビジネスディベロップメント部でスタートアップ支援に従事する坂 祐太郎が、2020年に起きたコロナ禍におけるビジネスの変化について語ります。

不確実な未来×不確実な事業、「withコロナ」時代の新規事業の難しさ
―2020年はスタートアップにとってどのようなビジネス環境だったのでしょうか。

 2020年の4月頃はコロナ禍の影響で、世の中が混乱し、先が見えにくい状況でした。今、冬の時代が来ることにも備え始める企業が多かったと思います。夏頃には世の中が少しずつ落ち着きを戻り始めましたが、一方で多くの企業が業務効率化やオペレーションの見直しを求められ、在宅ワークが主流になっていきました。急速に世の中のライフスタイルが変わっていったと感じています。

この時期から「今だからこそ攻めよう」と舵を切るスタートアップも出てきました。例えば、業務効率化ツールをB to Bで扱っている企業は、コロナ禍でも成長できたのではないでしょうか。

―コロナ禍でも成長できた企業の要因は何でしょうか。

 新型コロナウイルスによる社会の変化は誰にも予測ができなかったため、このタイミングを狙って成長できた企業はありません。しかし、それ以前から未来志向でサービスを展開していたスタートアップには、追い風が吹いたのではないでしょうか。本来は5年程かけて普及するサービスが、1年で急速に広がる等、数年先を見ていたサービスが加速度的に伸びた印象です。我々が今では当たり前のようにオンライン会議を利用しているのも、コロナ禍でなかったらもう少し時間がかかったはずです。

―一方で、逆境に直面したスタートアップはどうやって乗り越えていったのでしょうか。

 飲食関連、広告関連、インバウンド系の事業は、少なからず影響を受けたのではないでしょうか。一方で色々な事を再度見直す機会だったかなと思っていまして、費用の見直し、組織の見直しなど "筋肉質"な企業として体質改善し、乗り越えていったスタートアップ企業も多くありました。

このようなスタートアップは、ある程度先行きが見えてきたものの、まだ不確実なコロナ禍でのビジネス環境を迎える2021年に、事業の意思決定をどう行っていくかがポジティブな変化を得る鍵になると考えています。特にその中でも「新規事業」にチャレンジした起業家や担当者は、「不確実な未来×不確実な事業」という二重の困難の中でどう意思決定をしていくかが非常に難題です。

ジャフコ ではそんなスタートアップや新規事業担当者の支援となるべく、2020年12月に「不確実な未来における新規事業の意思決定」というテーマでジャフコ主催のウェビナーを実施いたしました。私自身も参加させていただき、このウェビナーも価値ある内容だったと考えておりますので今回の記事でもご紹介させていただきます。

意思決定に正解はない、社内外を巻き込みながら挑戦することが重要
【登壇者プロフィール】(敬称略)
<ゲスト>
三井物産株式会社
モビリティ第一本部 次世代ソリューション事業部 新価値創造室
坂本 優(さかもと・まさる)
設計・開発サービスの立ち上げ、日経OEMの海外事業、事業会社経営を経て、現在はMaaSなどの次世代モビリティサービスの開発に従事している。

富士通株式会社
Strategic Growth & Investment FUJITSU ACCELERATOR 事業開発担当
松尾 圭祐(まつお・けいすけ)
サーバ拡販担当、中期計画の策定を経て、2015年FUJITSU ACCELERATORを立ち上げ、協業実績100社以上。2020年AI翻訳「Zinrai Translation Service」をリリース。

ジャフコ グループ株式会社
ビジネスディベロップメント部
坂 祐太郎(さか・ゆうたろう)
様々なベンチャー投資に従事。2017年に日本で最も影響力のあるベンチャー投資家第2位になる。現在は投資先の営業支援などに従事。

<ファシリテーター>
Co-nnect Inc.
コンサル選定プラットフォームPROFFIT 代表
関根 有(せきね・ゆう)
A.T.カーニーにて中長期戦略立案等に従事し、デロイトトーマツコンサルティングの最年少執行役員に就任。2017年Co-nnect Inc.を創業。

関根 2020年は、大企業からスタートアップまで、企業として多くの難易度の高い意思決定を求められた年だったのではないかと思います。ここでは「不確実な未来における新規事業の意思決定」と題して、最前線で新規事業にチャレンジしている皆さまに次の3つのテーマでお話を伺っていきます。

① 新規事業創りの「はじめの一歩」とは?
② 一番難しかった意思決定は?
③ 意思決定を乗り越えるための秘訣は?

まず始めに、新規事業に取り組む際の「はじめの一歩」をどこから踏み出すべきかという点についてお伺いします。ビジョンから描いたり、アイデアを出す事から始めたり、チーム作りや売り上げの規模に着目したり。皆様はいかがでしょうか?

新規事業創りの「はじめの一歩」とは?

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坂本 私は自分たちのチームがどの段階にいるのか、何が会社や市場からの要求事項なのかを整理することから始めます。例えば、ビジョンベースで創るゼロスクラッチなのか、既存事業をベースに付加価値を付けていくタイプなのか等、与条件を整理するのです。

既存事業に新しいブランドや店舗を追加するような場合は、オーナーからの要望を腹落ちするまで理解することが大事です。そこから提供できる価値や、ストラテジー等を整理するのが一つのパターンです。

ゼロスクラッチの場合は、まずは自身が価値を感じるビジョンを整理し、社内外の方々とディスカッションします。例えば「日本のもの作り産業のために」という漠然としたビジョンから始めたこともありました。

関根 まずは「与件の整理」からということですね。松尾さんはいかがでしょうか?

松尾 現場の課題を解決するアイデアを練ることから始まるケースが多いです。例えば、私が立ち上げた「AI翻訳サービス」もそうでした。富士通はグローバルな会社ですが、社内公用語は日本語中心です。この言葉の壁が意思決定を遅くしていたため、それを解決する方法としてAI翻訳の事業化を検討し始めました。「言葉の壁」という現場の課題を事業アイデアにしたのです。

関根 なるほど、「現場の課題」を見つけてそれを解決するサービスというのは、取り組みやすく、社内外の共感も得やすい印象です。投資家の坂さんから見て、どんな「はじめの一歩」を踏み出した会社がうまくいく印象がありますか?

 スタートアップは、基本的にゼロスクラッチなので、「こういう姿でありたい」や「このユーザーの課題を解決したい」というところから取り組む会社が多いです。ビジョンに熱い想いがあるのか、面白いアイデアを持っているかの違いで、それぞれ違う良さがあり、「ここから始めればうまくいく」という正解はないと思います。

例えば、私が投資させていただい株式会社マネーフォワードはビジョンから始まっています。「日本の金融リテラシーを引き上げて世の中を良くしたい」というビジョンがあり、そのためにできることをアイデア化し、個人向け・法人向けのオンライン会計サービスを創っていきました。

一番難しかった意思決定は?

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(画像=JAFCO2.jpg)

関根 新規事業において、「はじめの一歩」の正解はないようですね。ビジョンでも、アイデアでも、情報を整理し、どこから始めるべきかの「意思決定」が重要そうです。続いて2つ目のテーマに移ります。これまでで最も難しかった意思決定は何でしょうか?

松尾 どれも甲乙つけ難いですが、私は「収益化」です。アイデア化や事業化は社内でコントロールできますが、収益化は社外の「顧客」やステークホルダーが対象となるのでコントロールがとても難しいです。

例えば、サービスの「提供形態」や「価格設定」です。SaaSやAPI等、形態によってコストも販売価格も変わりますので、どの形態、価格がマーケットにフィットするのかは市場に投下してみないとわかりません。我々は「お値段以上」だと思っていても、お客樣からしたら「お値段異常」なんてこともあります。

関根 確かに、「価格設定」は難しそうです。一度、ベータ版でマーケットに投下して反応を見てからチューニングしていくという選択もありそうです。坂さんが難しいと感じた意思決定は何でしょうか?

 投資の意思決定はいつも難しいです。昨今は消費者の価値観がすごいスピードで変わっています。そんな中で消費者の価値観や要求事項を的確に捉えて、「この事業は3、4年後に花が開く」等と仮説を立てるのが非常に難しいです。未知の世界へとチャレンジするスタートアップへの投資は否定することは簡単なので、反対意見を浴びる機会も多いと思います。それを跳ね返すのは大変です。

関根 ベンチャーキャピタルならではの難しさですね。投資先スタートアップの起業家の「志」も重要な意思決定要因になってきそうです。坂本さんは意思決定で苦労したことはありますか?

坂本 サービスを立ち上げるにあたり、その市場について社内に理解できる人がいなかったときは苦労しました。マーケット感覚がないので、良いか悪いかの判断がつかず、意思決定ができないのです。

会社がわからない領域を意思決定させるためには、社内における担当者の信用や、「価値がある」というお客様の声を吸い上げることが重要でした。当然、時間がかかりましたが、自分を納得させるにも、社内を納得させるにも、情報を集めることは必要なプロセスだったと今では思います。

意思決定を乗り越えるための秘訣は?
関根 最後に、意思決定を乗り越える秘訣をお伺いできますでしょうか。

 周りの人に自身と同じ情報レベルになってもらうことが、一番重要だと考えています。大手でもスタートアップでも情報発信が上手い人は、自然と仲間が増えていきます。

松尾 同じ失敗を繰り返さないようにすることです。成功体験の再現性を高めるべく「協業の科学」というコンセプトのもと、これまでのスタートアップ180社との協業検討で得た知見を整理し意思決定の指針にしています。

坂本 自身が判断する機会を極力減らすことです。イエスかノーで片付くものはすぐに処理し、難しい判断事に集中できるようにしています。

関根 ありがとうございます。2021年、新規事業に取り組む方の参考になれば嬉しいです。

新しいライフスタイルが生まれると、新しいビジネスチャンスが生まれる
最後に、ジャフコ 坂 祐太郎が、2021年に新規事業にチャレンジする起業家に向けて、スタートアップを取り巻く環境の展望と意思決定の重要性を語ります。

 2020年後半から「withコロナ時代」のライフスタイルがある程度見えてきました。スマホが急激に普及したときのように、ニューノーマルがデファクト・スタンダードになるときは、新しいビジネスが生まれるチャンスです。2021年はまさにそういう年になるのではないかと考えています。もちろん、まだまだ厳しい状況に立たされることもありますが、新しいライフスタイルが生まれると、新しい課題が生まれ、その課題を解決する新しいサービスが生まれることは間違いないと思います。スタートアップの起業家や新規事業担当者は、そこに対して「新しいチャレンジをしよう」という意思決定ができれば、コロナ禍でもチャンスを掴めると思います。