結果の概要:統計データ公表以来の高い伸び率

ユーロ圏消費者物価
(画像=PIXTA)

11月30日、欧州委員会統計局(Eurostat)は11月のユーロ圏のHICP(Harmonized Indices of Consumer Prices:EU基準の消費者物価指数)速報値を公表し、結果は以下の通りとなった。

【総合指数】
・前年同月比は+4.9%、市場予想1(+4.5%)を上回り、前月(+4.1%)から加速(図表1)
・前月比は+0.5%、予想(+0.1%)を上回り、前月(+0.8%)からは減速

【総合指数からエネルギーと飲食料を除いた指数2】
・前年同月比は+2.6%、予想(+2.3%)を上回り、前月(+2.0%)から加速(図表2)
・前月比は+0.1%、前月(+0.3%)から減速

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1 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。
2 日本の消費者物価指数のコアコアCPI、米国の消費者物価指数のコアCPIに相当するもの。ただし、ユーロ圏の指数はアルコール飲料も除いており、日本のコアコアCPIや米国のコアCPIとは若干定義が異なる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

結果の詳細:エネルギーやVATの影響を除いても2%程度の伸び率に達する見込み

11月のHICP上昇率(前年同月比)は全体で+4.9%となり、統計データが公表されている1997年以降で最も高い伸び率を記録した。また、「コア部分(=エネルギーと飲食料を除く総合)」の2.6%も歴史的な伸び率だった3。

以下、詳細を「コア部分」「エネルギー」「飲食料(アルコール含む)」の3つに分けて見ていく。

まず、コア部分の「エネルギーと飲食料を除く総合」の内訳を見ると、「エネルギーを除く財(飲食料も除く)」は9月2.1%→10月2.0%→11月2.4%となり、10月はほぼ横ばいだったが11月は加速した。また「サービス」(エネルギーを除く)は9月1.7%→10月2.1%→11月2.7%と2%台後半の伸び率に達した。コロナ禍の影響を受けた業種の代表である外食・宿泊の伸び率が8月2.1%→9月2.6%→10月2.9%(11月は速報時点では未公表)と高めの伸び率が続いている。

コア以外の部分では「エネルギー」が11月は前年同月比27.4%と、10月(23.7%)からさらに伸び率が拡大した。コロナ禍の影響を除いた2年前比でも9月5.9%→10月10.0%→11月13.2%となり、2桁増が続いている。ただし、前月比で見ると2.9%となり、1か月の伸びとしては高いものの前月(5.6%)からは縮小した。なお、前年同期比寄与度では2.53%ポイント程度となり、総合指数の伸び率の過半がエネルギー価格の伸びという状況が続いている(前掲図表1・2)。

「飲食料(アルコール含む)」は、前年同月比で+2.2%(10月+1.9%)となった(図表3)。飲食料のうち加工食品の伸び率は+2.3%(10月+2.1%)、未加工食品は+1.9%(10月+1.4%)だった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、ドイツでのVATが引き下げ終了など、税率変更によるベース効果で7月以降のインフレ率は0.5%ポイント程度押し上げられている(図表4)。11月はコアインフレ率が2.6%まで上昇したため、エネルギーや税率変更の影響も除いても、ECBの物価目標である2%を上回る状況になったと見られる。特にサービス価格の上昇が3%近くに達しており、物価高圧力が賃金インフレに波及し、持続的なインフレ圧力となるかと言った点がこれまで以上に注目されるだろう。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

国別のHICP上昇率では、11月は前年同月比伸び率で見て19か国中すべての国が10月から加速、前月比でも18か国がプラスの伸び率を記録した(図表5・6)。

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3 コア指数はユーロ圏(当時の加盟国ベース)のコア指数としてデータが公表されている2001年12月以降で最も高い伸び率。現在の19か国ベースでは、2002年3月(2.6%)以来の伸び率となる。


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高山 武士(たかやま たけし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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