次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスの混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、株式会社エクストリーム代表取締役社長CEOの佐藤昌平氏。エンタメ業界の知見を非エンタメ領域に生かして成長を続けてきた、同社の変遷と成長戦略を聞いた。
(取材・執筆・構成=落合真彩)
大阪府出身。サミー⼯業株式会社 (現サミー株式会社)、⽇本コンピュータシステム株式を経て、
2005年5月株式会社エクストリームを設立 代表取締役社⻑就任。
2014年6⽉当社代表取締役社⻑CEO就任。同年12月にマザーズ上場を果たす。
タレント性を有するクリエイターやエンジニアなど約500名以上が在籍している「デジタルクリエイタープロダクション」として、ゲーム・IT・webなどのソフトウェア業界に向けてデジタル人材事業、受託開発事業を展開。社員(=タレント)は、社内外の様々なプロジェクトに参画し、クライアントはスマホ・家庭用などのゲームパブリッシャーからBtoC向けWEBサービス提供会社、金融や官公庁、通信まで多岐にわたり、現在も拡大中。
自社のIPを活用したコンテンツプロパティ事業を全世界で展開。
自社IPの「ラングリッサーモバイル」はアプリセールスランキングの最高順位を日本4位、中国2位、韓国1位、台湾1位、香港1位を獲得し世界中で大ヒット中。
また、創業地である池袋でのイルミネーションイベント「池袋西口公園extremeイルミネーション」への特別協賛や子ども向けワークショップ「池袋デジタル寺子屋」の開催などCSR活動へも取り組む。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
ゲームのオンライン化、UI/UX需要の高まりなど、トレンドに乗って成長
冨田:私自身は以前から佐藤社長のことはよく存じ上げていますが、ZUU onlineでは事業の選択と集中の仕方に、経営の方針や意思決定の基準が表れると思っています。そういった意味で、まずは創業からの事業の変遷をぜひお伺いさせてください。
佐藤:私自身は元々、パチスロやゲームの業界におりましたので、業界内の人脈も多くあり、創業時はそういった過去の人脈を頼ってソフトウェアの受託開発を請け負っていました。ただやはり先行している会社さんがたくさんいて、なかなか新しい会社が入り込む余地がない。その中で、韓国からパソコン端末のオンラインゲームを輸入して成功する、新しいエンターテイメント企業が出てきて、その企業からも受託開発を請け負い始めました。
今までの家庭用ゲームでは、開発して納品したらプロジェクトが終わりだったのですが、オンラインゲームになってからは納品後の運用フェーズも一緒に行うようになって、そこから今の我々の売り上げの柱になっている「デジタル人材事業」という形で、現場にクリエイターを常駐させる仕組みを持つようになりました。
その後、ガラケーのソーシャルゲームも伸びてきたので、これも開発から運用まで入っていくモデルで成長しました。そういった世の中の波に乗って、9年半ほどで上場することができました。
冨田:上場後は、どのような変化がありましたか。
佐藤:上場時は90%がゲーム系、エンタメ系のお仕事でしたが、その後、スマートフォンのUI/UXを筆頭に、非エンタメ系でもクリエイティブが重視される流れになってきました。上場という社会的な信用も得ることができたことで、非エンタメ系のお客さまが増え、デバイスの進化とともに非常に伸びました。今では非エンタメのお客さまのほうが多くなっている状況です。
「取説なしが当たり前」の世界で培ったクリエイターの強さ
冨田:ありがとうございます。非エンタメ系が増えてきたことで、顧客の幅も広がっていると思いますが、一方で、それなりに競争が厳しい領域ではないかと思います。この中でエクストリーム社の競争優位、コアコンピタンスはどこにあるとお考えでしょうか?
佐藤:我々はエンタメ系から始まっていますので、クリエイティブ領域に強みがあります。エンタメで培ったクリエイティブを非エンタメ系のソフトウェアに融合させて、BtoBのお客さまに提供できることが、従来のSIerさんでは提供しづらい武器であると考えています。
冨田:確かに、がっつりと入り込んで企業向けのシステム開発をされているSIerさんがクリエイティブ方面で活躍されているイメージはまだないですね。
佐藤:ソフトウェアは目から入ってくる情報が重要ですから、直感的な操作ができるような技術はもっと重要視されていくと思います。
冨田:VRやAR、最近のメタバースなどもそうですが、より仮想空間でのコミュニケーションが発展していく中で、直感的なUI/UXはあらゆるウェブサービスで重視されますし、「クリックレス」といった話もよく聞くようになっています。こういったところはまさにクリエイティブの世界ですね。
佐藤:本当にそうです。私は元々開発スタッフで、ファミコンのゲームソフトを開発していたんです。ご存知かもしれませんが、当時のゲームソフトの取説はすごく小さい紙で8ページくらいしかないものでした。
一方、当時のワープロソフトの取説は電話帳みたいに分厚くて、先輩に「こんな分厚いのはダメ。ゲームは感覚的にだんだん覚えていく設計ができないと誰も面白いなんて思ってくれないよ」という話をされたことを覚えています。
だから当社の技術者は、「取説がなくて当たり前」ということがベースになっています。いかに使いやすくわかりやすく、さらに深く掘り下げていくか、というロードマップを意識できているので、そこの優位性はかなりあると思います。
業種・業界を飛び越えられる技術者を多数育成する
冨田:これまでの社長自身のご経験も含めて、そういう意識が根付いていることが1つファクトだと思いますが、それは、元々そういうことができる方がいるから可能になっているのでしょうか、それとも育成できる仕組みがあるからなのでしょうか。
佐藤:上場までは自社での育成がなかなかできず、プロジェクトの中でOJTに近い形でやっていました。ただ、ここから成長していくうえで、できない人をできるようにしていく仕組みをつくり、業種・業界を飛び越えられる技術者をたくさん育成する必要があると思います。これは今の大きな課題の1つです。
冨田:ただ、技術者だけでもものすごい人数を集められていますよね。
佐藤:グループ全体が今600人ほどで、そのうち技術者が500人超ですね。やはり「楽しそうだな」と、求職者や求職予備軍、新卒の方たちに伝えていくことは重要だと思います。実際、楽しいですよ。
冨田:決算資料に競争力の源泉として教育・研修システムと人材インキュベーションシステム、技術交流施設「Co-CORE(ここあ)」が押し出されています。こういった仕組みが充実していることなど、いろいろな当たり前が他の会社さんと違っているからこそ、結果としてスキルのある方が集まって、定着しているのではないかと想像しました。
また、コンテンツプロパティ事業は、爆発的なヒット作が1つあるかないかで変わると思います。エクストリームさんで言うと、「ラングリッサー」シリーズが象徴的ですね。こういうヒットが生み出せることも、質の高いクリエイターを集めているからであり、だからこそ、この先もヒット作を生み出せる可能性が高くなるのではないでしょうか。
佐藤:そうですね。我々は別々の3事業をやっているわけではなく、自社プロジェクトか、お客さまのところで開発するか、自社に1回持ち帰るものかの違いだけです。3事業の中心には必ず人がいて、人を中心にシナジーを生んでいると考えています。
幅広いプロジェクトに携われるため、成長速度が速い
冨田:最後に、未来に向けてというところで、3年や5年のスパンでも、10年スパンでも結構ですので、どういった構想を描かれているのかお伺いできればと思います。
佐藤:エクストリーム単体の話をしますと、優秀な人たちを集めて、育成を通して会社全体を優秀にしていくことがまず基本です。それに加えて、例えばエクストリームにとっては子会社もお客さまと捉えていて、エクストリームから人材を派遣してプロジェクトを組んでいます。今後3年くらいは、デジタル人材派遣の部分はもっと拡大していきたいと思っています。
もっと先の目線の話をしますと、実は私、関西生まれで、小学生のときに先生が「よくしゃべるやつは吉本に行け」と言っていたんです。それと同じように、「プログラムが好き」だとか「絵を描くのが好き」な小学生がいたら、担任の先生が「それならエクストリームに行きなよ」と言うような存在になっていたい。これは夢ですね。
冨田:IR資料に名前を出されているものもありますが、出せないものも含めて、世の中に広がるコンテンツやサービスの裏側に、エクストリームさんがかかわっているものはかなりあるんですよね。
佐藤:そうですね。日本を代表するような、ミリオンヒット作の開発にいくつも携わったような人間もいます。そういう中で、別々の現場でお客さまが何を望んでいるのかをくみ取った開発や運用ができるようになります。
ヒットしたゲームがあれば、それを別のゲームのプロジェクトで生かせるし、逆に非エンタメの会社、例えばZUUさんのところに行ってもまた生かせる。その意味で、個人の技術者としての成長速度は1社にいるより速くなります。
冨田:派遣していただいてありがとうございます。今お話を聞いてすごく思ったのは、日本中のクリエイティブコンテンツや、世の中に広がっているさまざまなサービスにかかわることができる会社ってなかなかないですよね。
エクストリームさんの場合、本当に面白いソフトウェア開発、ゲーム開発の案件がほとんどである、と。そういう意味では、いろいろな経験を積みたい、いろいろなモノづくりをしたい、特にエンドユーザー向けの開発をしたい方が多く集まる仕組みになっていると思います。
結果として派遣先もそういうプロジェクトが増えてきますし、プロジェクトが増えれば人材も集まってくる。コアコンピタンスのお話から、すべてがつながったなという感じです。
佐藤:全てを冨田社長にご説明していただきました。ありがとうございます(笑)。
プロフィール
- 氏名
- 佐藤昌平
- 会社名
- 株式会社エクストリーム
- 役職
- 代表取締役社長CEO
- 受賞歴
- 「Job Creation 2015」受賞、
第 15 回「日本テクノロジーFast50」受賞、
「デロイト2017年アジア太平洋地域テクノロジーFast500」受賞、
「eスポーツ企業対抗戦 スピンオフトーナメント」優勝(エクストリーム格闘ゲーム部)