この記事は2021年年12月2日に「株式新聞」で公開された「永濱利廣のエコノミックウォッチャー(20)=22年経済界展望」を一部編集し、転載したものです。
2021年の世界経済は米国と中国を中心に拡大したものの、後半は減速した。特に中国は、不動産セクターの調整や電力不足の影響もあり、製造業の景況指数が拡大・縮小の分岐点となる50を下回る水準まで低下した。中国以外も力強さを欠く状況にあり、半導体などの部品不足に加えて資源高も足を引っ張り、欧米にも鈍化がみられる。
後半に減速した2021年
一方、2021年の日本経済を一言で表現すると、実感なき景気回復だったといえよう。海外経済の復調を通じた企業業績の拡大を反映して日経平均株価が比較的堅調に推移したにもかかわらず、景況感が盛り上がり切れない要因は、長引くコロナ禍で行動制限の発出と解除が繰り返されたことにある。また、原油価格の上昇を主因に増加したエネルギーコストが家計を直撃した影響出ているようだ。
こうした中、2022年の景気を占う上では引き続き新型コロナウイルスへの対応がカギを握る。特に、行動制限緩和に伴う需要効果は大きいと思われる。事実、2021年は行動制限の発出によって1日当たり210億円程度の個人消費が抑制されたと試算される。
2022年は新型コロナの経口薬が普及するとみられる。また、指定感染症の格下げも実現すれば、行動制限を発出するリスクは大きく低下し、個人消費が2021年比で7兆円以上押し上げられる可能性がある。
さらに、2021年度補正予算の効果も見込まれ、観光業支援策の「GoToキャンペーン」再開も控えていることから、いわゆる「リベンジ消費」の本格化も予想される。特に旅行に関しては、リモートで代替不可能だ。日銀の試算によれば、強制貯蓄は20兆円以上積み上がっている。高額の国内旅行需要がかなり潜在すると思われる。
一方、2022年における世界経済の最大のリスク要因は、伝播(でんぱ)力や重症化率のより高い新型コロナの変異株の出現だ。その意味では、足元で台頭したオミクロン株の動向に注意を払う必要がある。また、需給のミスマッチが長引くことにより、インフレ圧力が長引くことで従来の想定よりも早く金融政策の正常化が進む可能性もある。
参院選などリスクに
仮にこうしたことが起きれば、金融市場の混乱を通じて実体経済に悪影響が波及することは避けられない。2021年にかけて各国で拡大した財政支出のパッケージも縮小するおそれがあり、実体経済に悪影響が及ぶ可能性もある。
また国内では、7月に参議院選挙が控えており、そこで与党が議席数を大幅に減らすようなことになれば、政治的な不安定を通じて市場の混乱が生じるだろう。また、その後はしばらく国政選挙がないことから、岸田政権が金融所得課税の見直しを中心に2023年以降の増税への姿勢を明確にするリスクもある。
日本株の売買シェアの6割以上は外国人投資家であり、政権基盤が盤石なほど外国人投資家が日本株を保有しやすくなる。このため参院選次第で、日本経済も株式市場の混乱を通じて困難を強いられるかもしれない。
なお、米国では2022年11月に中間選挙を控えるバイデン政権の政策運営が不透明要素だ。米中間での貿易と技術に関する緊張関係が高まれば、両国の経済が大幅に減速しかねない。また、金融市場のオーバーキルもリスクである。欧米諸国は金融緩和の出口の局面にあるため、予防措置的なテーパリング(量的緩和の縮小)や利上げに動きつつある。しかし、各国中銀が出口戦略を急ぎ過ぎれば、短期的に金融市場で大きな変動が生じることになり、日本経済への悪影響も無視できない。