本記事は、マスクド・アナライズの著書『データ分析の大学』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

databunseki3
(画像=PIXTA)

Excel以外の分析ツール

Excelは個人による基本的なデータ分析に適しているが、目的や用途で別のツールも検討する。

Excelの限界

ここまでExcelを使ったデータ分析を解説しました(本書のPART3-01〜3-26参照)。様々な事情でExcel以外のツールが使えない環境も多いためです。しかし、Excelによるデータ分析には、次のような限界やデメリットもあります。

●見栄えのよいレポートやグラフの作成
●組織全体による情報共有が難しい
●大量データの分析ができない(処理速度が遅い)
●Excel方眼紙や神Excelによる書式の不統一
●複数人の運用における、履歴管理などが煩雑
●目的に応じた関数や分析機能の選定が難しい
●画像、音声、文章などが分析できない

こうした制限はパワークエリやパワーピボットなどによる運用である程度回避できますが、処理が複雑化したり、扱える人が限られるなどの懸念もあります。Excelで実行できる機能であっても、より簡単かつ高性能なツールを併用すべき場面もあります。Excel以外の選択肢としては、次のようなツールがあります。

●BIツール:見栄えがよく動きのあるグラフやレポートを作成できる。また、組織全体の情報共有にも適している。
●データ分析専用ツール:分析処理を行うアイコンを並べて、簡単にデータ分析ができる。製品によっては分析だけでなく、データの取得や加工、レポートによる可視化、作業の自動化も可能。
●クラウド:データ分析におけるサービスや機能をインターネット経由で利用できる。導入や運用が容易で、代金は利用した分だけの支払いとなる。画像、音声、文章なども分析できる。
●プログラミング:Excelよりも、複雑かつ詳細にデータの処理や分析ができる。大量データの扱いや作業の自動化なども可能だが、習得に時間がかかるのが難点。

このように、Excel以外にも、データ分析には様々なツールがありますが、どれが最適かは一概に決められません。特にクラウドやプログラミングは、目的に合わせて柔軟な仕組みを開発できますが、習得難易度が高くITエンジニアやデータサイエンティストによる利用を前提としています。これらはさらなるスキルアップを狙う方向けの参考として読んでください。用途や状況を考慮しながら、適材適所で運用することが重要です。次節から各ツールの特長を見ていきます。

データ分析の大学 図4
(画像=データ分析の大学 図4)

まとめ:どの分析ツールが最適かは、用途や状況によって変わってくる。

BIツール

テーマ:BIツールの特長とデメリットについて。

データ可視化に強いBIツール

BIツールのBIは「Business Intelligence(ビジネス・インテリジェンス)」の略で、データの可視化やレポートに特化しています。グラフなどの可視化機能はExcelにもありますが、BIツールは可視化に特化しており、豊富なグラフによって見た目が美麗なレポートを作成できるのが特徴です。また、分析方法やグラフに表示する内容をその場で簡単に変更できるので、会議などで想定外の質問をされても対応できます。製品によっては、分析や前処理などの機能もあります。

BIツールの特徴は次の点です。

●映えるレポート:様々な地図などのグラフを使って、美しく見栄えのするレポートを作成できる。
●双方向による分析:分析軸や対象となるデータをその場で切り替えて、異なる視点からのデータを動的に分析できる。
●組織で情報を共有:「ダッシュボード」という複数のデータやグラフを1画面にまとめて表示する機能があり、組織全体で最新データを簡単に共有できる。
●社内システムとの連携:各種データベースや業務用ソフトとデータの連携が容易で、社内の最新情報を必要に応じて取得できる。
●作業の自動化:データの取得や加工を自動化して、処理の内容も細かく設定できる。
●複数人での運用が快適:同じファイルを複数人が共同利用したり、他の利用者が作成したグラフやレポートの流用が可能。また、作業履歴の管理や機能の利用制限なども対応している。

BIツールのデメリット

BIツールのデメリットは導入費用がかかる点です。製品や契約にもよりますが、一人あたり年間で数万~数十万円程度が目安です(無料のツールもありますが、使いこなすには手間や技術力が必要です)。そのため利用者が増えると費用面で負担も大きくなります。ツールによっては機能が制限された低価格版や、データの閲覧のみ可能な無料版などもあるので、業務によって使い分けるなどの工夫が必要です。また、見栄えのよいグラフやレポート作成も大事ですが、分析結果の掘り下げが疎かにならないよう注意しましょう。

まとめ:BIツールはデータの可視化機能に優れ、組織内におけるデータ共有も容易に行える。

データ分析専用ツール

テーマ:データ分析専用ツールの特長とデメリットについて。

データ分析専用ツールの特長

データ分析に特化した専用ツールには「DataRobot」「SPSS」「SAS」などの製品があります。複雑な分析や定型業務の自動化、データの取得や加工はもちろん、Excelが苦手としている複数人による共同作業や履歴の管理などにも適しています。

データ分析専用ツールの特長は次のような点です。

●わかりやすい画面:アイコンを並べ、実行する処理を選択するだけで、簡単に分析作業を実行可能。
●豊富で強力な機能:Excel以上の分析機能だけでなく、データの取得や加工、グラフやレポートの作成など、BIツールのような機能も備えている。また、複雑な分析手順を共有したり、他の人が作成した手順を編集するなど、分析業務を効率化する様々なサポート機能もある。
●最適な分析手法を自動選択:Excelでは最適な分析手法を自分で選ぶ必要があるが、分析ツールでは目的に合わせて適切な分析手法を自動で選択してくれる。
●様々なデータを分析できる:画像や音声や長い文章など、Excelでは扱えないデータも分析可能。
●大量データを扱える:Excelでは処理に時間のかかる大量データでも、短時間で分析できる。分析業務を繰り返すと徐々にデータ量が増えるが、長期的な運用にも耐えられる。

データ分析専用ツールのデメリット

デメリットはBIツールと同様に導入費用です。一般的にBIツールより高額で、数百万円以上の製品もあります。また、新たに操作を覚える必要があるため、トレーニングを受講したり、ツールの使い方がわからない人にはサポートを用意するなどの手間がかかります。誰でも一度は触ったことがあるExcelと違い、未知のツールであるため拒否反応が出る場合もあります。いずれにせよ製品によって機能や性能も異なりますし、自社用途に合わせた機能追加や画面デザインの変更はできません。用途に応じて最適なものを選びましょう。

まとめ:複雑な分析を容易に行える反面、使いこなすためには一定のトレーニングが必要。

クラウドサービス

テーマ:クラウドサービスの特長とデメリットについて。

手軽な導入と運用を実現

クラウドはインターネットを経由して、様々な機能を提供するサービスです。Excelのように利用者のパソコンで動作するソフトとは異なり、外部のコンピュータ上で動作する仕組みです。データ分析向けの用途としては、データの保管や加工、分析、可視化やレポート作成などの機能が提供されています。また、BIツールやデータ分析専用ツールの中にも、クラウドとしてインターネット経由で提供される製品もあります。クラウドの特長は次のような点です。

●導入や運用のコストが低い:専用機器の導入やパソコンへの設定などが不要で、簡単に導入できる。サービスの運営も提供者側が行うため、負担が少ない。また、利用人数や、契約するサービスの変更も容易に行える。
●必要な機能を選べる:データの保管、前処理、分析、可視化など、様々な機能が提供されている。その中から必要な機能を利用できるため、柔軟な分析環境を構築可能。
●安全・安定性が高い:自社で運用には障害対策やセキリュティにおいて高度なノウハウが必要だが、専門家によって安全に運用される。

クラウドサービスのデメリット

クラウドをデータ分析に使う上でのデメリットは、費用の計算が難しい点です。使用した時間や処理したデータ量に料金が変動するため、使いすぎると思わぬ請求額になる場合もあります(そのため課金額の上限設定などに対応しています)。懸念点として、インターネット経由で利用するため、障害などでサービスを利用できない場面もあります。万一のトラブルに備えて、停止しても問題のない業務などに適用しましょう。また、事業者ごとに提供するサービスや料金、サポート体制などは異なります。自社の業務にあった機能やツールを適切に選択するには、ITやプログラミングに関する知識が必要です。こうした背景から、実際に使う段階において、BIツールやデータ分析専用ツールよりも手間がかかる場合もあるので注意してください。

まとめ:導入や運用が容易に行えるが、クラウド側で障害が発生する場合もある。

プログラミング

テーマ:プログラミングの特長とデメリットについて。

自由度が高く費用はかからない

データ分析向けのプログラミング言語には、汎用性の高いPython(パイソン)」や、統計解析向けの「R(アール)言語」などが使われています。また、ライブラリやフレームワークと呼ばれる、分析に必要な機能がまとめたツールもあります。ExcelにもVBAというプログラミング環境が実装されており、繰り返し作業の自動実行や帳票やレポートなど定型的なファイルの作成も可能です。目的や用途に合わせて選んでください。プログラムでデータ分析を行うメリットは次のような点です。

●複雑で細かい処理ができる:他のツールで行っている分析データの取得、加工、分析、可視化などの処理は、プログラミングでもひと通り可能。さらに細かな処理や設定もできるので、分析の自由度が高くなる
●利用料が不要:PythonやR言語における開発環境はインターネット上で無料で提供されている。機能が拡充されたライブラリやフレームワークなどもインターネット上で公開されており、その多くは無料で利用可能。VBAもExcelの標準機能なので、追加費用はかからない。
●情報が豊富:BIツールやデータ分析専用ツールは、提供元の企業が提供するマニュアルやテクニカルサポートに頼ることになり、公開されている情報が限定される。しかし、プログラミング言語は世界中にユーザーがおり、インターネット上の情報や関連書籍も豊富。情報が多いので、トラブルの解決法や不明点なども調べやすい。

プログラミングのデメリット

デメリットとしては、プログラミング言語を習得するまでの技術的・時間的なハードルの高さです。他のツールと比べて習得に必要な難易度が高く、覚えなければならない情報も多いです。本人の適性も影響するため、誰もが一定のレベルで開発することは難しいでしょう。開発するための環境を作る段階でつまづく場合もあるので、入念に情報収集と準備を進めてください。また、自由度が高い反面、処理が複雑になるため、維持管理の負担が大きくなります。開発者が退職して、仕様がわからずに元のプログラムを修正できないなどのケースも起こり得るため、継続的な利用における保守性が懸念点となります。プログラミングというツールそのものに対する料金はかかりませんが、使いこなして運用するための手間という観点では、金銭的な費用以外において一定のコスト負担がかかります。

開発や運用を社内の人材ではなく、外部のIT企業に委託する方法もあります。しかし、エンジニアは離職や転職が多いので、委託先が同じ問題を抱えることになります。こうした状況に備えて、依頼内容や品質管理において委託先を管理できる人材が必要となります。この点は他のツールも同様ですが、プログラミングにおいてはブラックボックス化が進行しやすいので、注意してください。

まとめ:無料で幅広く活用できるが、習得難易度や継続的な運用における敷居が高い。

データ分析の大学
データ分析の大学
Twitterで現場目線による辛辣かつ鋭い語り口で情報発信を行い、業界内で注目を集める謎のマスクマン。企業や大学におけるDX・AI・データサイエンス導入活用の支援、人材育成、イベント登壇、書籍や論文の執筆などを手掛けている。執筆・寄稿歴は「ITmedia」「ASCII.jp」「Business Insider Japan」「IT人材ラボ」(現「HRzine」)など多数。著書に『未来IT図解これからのデータサイエンスビジネス』(MdN刊・共著)、『AI・データ分析プロジェクトのすべて[ビジネス力×技術力=価値創出]』(技術評論社刊・共著)がある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)