本記事は、マスクド・アナライズの著書『データ分析の大学』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=PIXTA)

分析チームの立ち上げ

テーマ:データ分析チームのリーダーにおける役割と、メンバー構成について。

リーダー選びとチーム編成

データ分析の推進について了承を取り付けても、一人では取り組みに限界があり、社内に波及させるには影響力も足りません。そこで必要なのはデータ分析チームの立ち上げと、プロジェクトリーダーです。PART4-03(→187ページ)で紹介した職種として、目標達成を主導する「プロダクトマネージャー」に該当します。

さらにメンバーとして、利益を出す仕組みを作る「ビジネスデザイナー」、データの準備から分析を行う「データサイエンティスト」を登用します。特に「データサイエンティスト」においては、データ分析、可視化やレポート作成、データの準備や加工などの業務が細分化されます。規模に応じて専任や兼任、必要な人数を考慮しましょう。

どのようなスキルを持つ人材をどれだけ集めるかなど、リーダーとして冷静で的確な判断力が求められます。また、プロジェクトリーダーとして、ここまで解説してきた経営者や現場との交渉に加えて、社内への情報共有や成果の説明、技術動向の調査、チームや外注の管理など幅広いスキルが求められます。特定分野における専門的なスキルはメンバーに任せつつ、各メンバーの業務を把握できる程度のスキルは必要です。その上でメンバーが業務をスムーズに遂行でき環境作りを進めます。プロジェクトが成功すれば実績を社内の共有する広報としての役割が求められますし、失敗すれば要因を分析して説明する責任があります。チームが分析を繰り返して経験を蓄積し、社内に展開していく中心となる立場です。成功と失敗のどちらにせよ、ノウハウを共有しながら社内で改善を繰り返していきましょう。

最初から大規模なチームが必要なのか

こうした取り組みを進める上で、他部門との調整などのコミュニケーションスキルも必要です。技術とビジネスの両面で、広く深いスキルが求められるため、社内で様々な経験を積んでおり、一定の役職や権限がある人材が理想と言えます。

このような責任ある立場ですから、リーダーは強制や任命ではなく、自身の使命感で立候補できる人材が適任です。もしも経営者や上司から一方的に命令されたリーダーが率いるデータ分析プロジェクトであれば成功率は低いでしょう。しかし、社内に都合よく適任者がいるとは限りません。まずは提案者が中心となり、既存業務に影響が出ない範囲で進める方法もあります。または製造業におけるQC(品質管理)サークルのように、既存の取り組みから徐々に活動範囲を広めたり、社内勉強会から始める方法もあります。できる範囲で数人のチームを立ち上げ、徐々に拡大する形で進めていきましょう。

データ分析の大学 図5
(画像=イラスト:米村知倫)

まとめ:チーム立ち上げが難しい場合は、最小構成のメンバーで小さな取り組みから始める。

社内からの人材抜擢

テーマ:分析チームの人材を社内から抜擢すべき理由。

外部から人材を採用する難しさ

分析チームの立ち上げにおいては、人材確保の難しさが懸念されます。まず最初に検討すべきは、社内から人材抜擢です。既にデータ分析に強い人材の採用は、新卒・中途のどちらも厳しい状況です。また、地域特性としてIT企業全体のうち約4割が東京周辺に集中しており、三大都市圏(東京・大阪・名古屋)では約7割を占めます。もちろん人材も都市部に集中しており、地方ではさらに厳しくなります。募集においても給与などで高待遇が求められており、仮に採用されても特別扱いされた立場に社内から反発もあるでしょう。環境が合わなければ、仮に採用できても、成果を出す前に短期間で退職する可能性も高くなります。

それでも外部からの採用にこだわるなら、正社員や日本人などの条件を撤廃して、フリーランスや外国人なども視野に入れるべきです。こうした背景もあるので、まずは社内から人材を探してみましょう。

社内の人材を抜擢するメリット

「社内によい人材がいない」と嘆く企業もありますが、「いない」のではなく「埋もれている」のが実情です。データ分析に求められる統計、数学、プログラミングは、理系の大学を卒業した社員に適性がある分野です。文系出身であっても自主的に学んでいるなど意欲のある社員もいるでしょう。こうした素養や現状に危機意識を持つ社員が社内にいても、会社の都合で適性とは無関係な業務に従事している場合があります。社員のスキルとやる気を活かすなら、データ分析チームに抜擢する方が本人にも会社にも有益です。

人材抜擢においては、所属長の了承、社内公募、専任と兼務の対応など人事制度面における整備も必要です。また、今後同様の人事異動にやりやすくするために前例を作るなど、対策を考慮しましょう。

社内からの人材抜擢は、周囲の理解が得られやすい点もメリットです。現場で苦労しながら会社を支える現場にとって、外部から来たコンサルタントやデータサイエンティストに対して反発もあるでしょう。こうした批判を避けるため、同じ会社で仕事をしてきた人材が強みとなります。

データ分析スキルは一般的な教材で身につきますが、特定企業における固有の分野に関する業務知識を習得するのは時間も手間もかかります。特にメールの書き方さえも独自ルールがあるような大企業では、外部の人間が「お作法」を学ぶことは非常に困難です。すべてが暗黙知となり、悪い意味で秘伝のタレとなった環境では、外部からの変革を受け入れる余地はありません。そのわずかな隙間を狙えるのも、社内人材が有利な点と言えるでしょう。

まとめ:企業内における「お作法」の隙間を狙って、変革を起こせるのは社内人材の為せる技。

外注委託における注意点

テーマ:外注に依頼する場合の注意点を探る。

発注元も外注先も反省しよう

社内にデータ分析プロジェクトを任せられる人材がおらず、育成や採用も難しい場合はどうすべきでしょうか。一般的には外部のIT企業やコンサルティング会社に依頼しますが、注意が必要です。社内に責任者を立てて外注先と業務を進めようにも、発注側の理解が乏しいと、ただの「連絡係」となり、いわゆる「丸投げ」となって失敗します。

「丸投げ」は、発注側の担当は社内からの要望を伝えるだけで、後の作業をすべて外注先に委託する形です。当然、外注先はデータ分析の専門家であって、業務はわかりません。分析技術はあっても業務知識が足りなければ、求められる成果は出せないでしょう。

また、発注元ではなく、外注先に問題があるケースも想定されます。まずは実績や技術力を見抜くのが重要です。IT業界は下請け構造となっており、実際に分析を行う下請け会社の技量や知識を見抜けない場合があります。

さらに下請け会社が、都合よくデータに強い人材を手配できるとは限りません。また、従来から発注している外注先であっても、データ分析に強い会社かどうかは別問題です。このような元請け先を窓口とする下請け構造には管理業務の委託やトラブル対応における保険の意味合いもあり、一概に悪いとは言えません。それでも依頼内容に応じて外注先を変えるなど、柔軟な対応が求められます。

内製化と外注委託のバランス

外注に依頼してプロジェクトを成功させるには、発注先を選定する判断力と、リスクを許容できる体制が必要です。

課題設定やプロジェクトマネジメントは自社で行いつつ、徐々に自前で分析業務を行う割合を増やすなど検討しましょう。また、簡易な業務は内製化して、難易度が高い業務は外注に委託して補完する方法もあります。

外注委託ばかりでは社内にノウハウが継承できず、特定の外注先に依存する体制となります。データ分析プロジェクトの終了後に、スキル移転を行うなど、徐々に自前で実行できる範囲を広げましょう。自社で作業を行う内製化と、外注に委託するバランスが重要となります。

データ分析の大学 図6
(画像=イラスト:米村知倫)

まとめ:外注先の技術力だけでなく、発注元の管理能力が成功するか否かを左右する。

データ分析の大学
データ分析の大学
Twitterで現場目線による辛辣かつ鋭い語り口で情報発信を行い、業界内で注目を集める謎のマスクマン。企業や大学におけるDX・AI・データサイエンス導入活用の支援、人材育成、イベント登壇、書籍や論文の執筆などを手掛けている。執筆・寄稿歴は「ITmedia」「ASCII.jp」「Business Insider Japan」「IT人材ラボ」(現「HRzine」)など多数。著書に『未来IT図解これからのデータサイエンスビジネス』(MdN刊・共著)、『AI・データ分析プロジェクトのすべて[ビジネス力×技術力=価値創出]』(技術評論社刊・共著)がある。

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