MBOの事例ではTOBという用語が登場する。TOBについて気になっている方も多いのではないだろうか。今回はMBOの実務でも利用されることが多いTOBについて、メリット・デメリットなどを解説していく。TOBに対する防衛策についても、ぜひ参考にしてほしい。
MBOの実務で利用されるTOBとは?
TOBとは、対象企業の発行済株式を買付期間や価格、買付予定株数などを公表して、証券取引所を通さずに既存株主から買い付ける株式公開買付をさす。
一般的にテイク・オーバー・ビッド(Take Over Bid)の英語表記の頭文字をとった略称が用いられている。
TOBの目的
TOBでは、買収側が対象会社を支配下に置くことを目的とする。株式会社の発行済株式の50%超を保有することで、株主総会の普通決議を単独で可決できる。
さらに企業の株式を3分の1超保有することで、株主総会の特別決議拒否権も得られる。一定割合の株式を保有すれば企業の経営権を取得できるというわけだ。
TOBの制限
株式を買い集める際には制約もある。上場企業の株式取得を行った際、取得後に株式の所有割合が3分の1を超えると、その株式取得は金融商品取引法で定めるTOBで行わなければならないとされている。
TOBに応じる理由
法律にもとづき、上場会社の株式を大きく買い付ける場面では、TOBが行われる。しかし通常は、TOBを実行するときの対象会社の買付価格が、証券取引市場における通常の取引株価よりも高く設定される。
なぜなら、買収側にとっては一定の株式数を集められる可能性が高くなり、対象会社の株主にとっては通常の証券取引市場で売るよりも、TOBに応じたほうが有利になるからである。
このようなTOBによる買付価格の上乗せ分はプレミアムと呼ばれている。
TOBの種類
TOBの種類として友好的TOBと敵対的TOBがある。
友好的TOBとは、買収側や株主、対象会社の関係者が合意したTOBだ。たとえば親子上場をしている場合、子会社が上場廃止する際に完全子会社化するケースがある。
敵対的TOBでは、関係者が合意しないまま、買収側が一方的に対象会社の株式について大量保有を仕掛ける。
たとえば、投資を目的としてファンドが仕掛けるケースでは、敵対的な状況が発生することがある。敵対的TOBを仕掛けられた対象企業は、対抗措置をとるのが一般的だ。
MBOとTOBの比較
MBOとTOBの違いを表にまとめた。
ただし、MBOが非上場化を目的として行われる場合、その手段としてTOBが用いられることになるため、並列の関係性というわけではない。
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TOBを行う3つのメリット
TOBは手間がかかるイメージがあるが、何も悪いことばかりではない。TOBのメリットを確認してみよう。
メリット1.計画的な実行が可能
当初からの計画に従って、予定された期間で、予定される資金を使い、予定される株式数を一度に購入できる。
メリット2.条件を設定できる
買収側にとっては、TOBによって募集する株式数に上限・下限を設けられる。ほかの手法と比べて低リスクで株式を取得できる。
仮に発行済株式総数の51%の株式を集めたいとしよう。上限・下限を51%に設けることで、募集した株式数を超える(あるいは満たない)とき、株式を取得しないという選択肢も可能となる。
メリット3.価格変動リスクを最小限に抑えられる
TOBによらず、証券取引所を通じて株式を大量に買い注文すると、何が起こるだろうか?
買収側の買い注文によって株価が急上昇し、当初想定していた価格以上の株価となってしまう。MBOを行うための必要資金が想定より増加してしまいかねない。
TOBであれば、市場への価格変動リスクを最小限に抑えられる。
TOBで懸念される2つのデメリット
TOBで懸念されるデメリットについて解説していく。
デメリット1.失敗した場合の影響が大きい
TOBは対象会社の防衛策により失敗に終わる可能性もある。その場合、株価の下落や対象会社の従業員、取引先からの反発などが起こりえる。
デメリット2.対象会社の事務負担
TOBが実施される際、買主のTOB申請手続きに対し、対象会社側では意見表明書の提出義務が発生する。このような書面作成の対応で、事務の負担が増えることが予想される。
TOB手続の5ステップ
TOB手続の流れを5つのステップに分けて確認してみたい。
ステップ1.公開買付開始公告および公開買付届出書提出
公開買付開始公告によりTOBを行う予定を公表するとともに、公開買付届出書を内閣総理大臣へ提出する。
なお、公開買付開始公告は日刊新聞もしくはEDINETを利用して行う。この手続によって公開買付期間がスタートし、既存株主からの売り付けが開始される。
ステップ2.意見表明報告書の提出
TOBの対象企業は、意見表明報告書を内閣総理大臣へ提出する。その写しを買収側企業や証券取引所などに送付し、TOBへの賛同およびTOBの内容についての意見や質問などを表明する。
意見表明報告書の提出は、公開買付開始公告から10営業日以内に行う。
ステップ3.対質問回答報告書の提出
意見表明報告書によって、対象企業からTOBについて質問があった場合、TOBの買収側企業は質問に対する回答を5営業日以内に内閣総理大臣に提出し、その写しを対象企業および証券取引所などに送付する。
ステップ4.公開買付撤回届出書
公開買付開始公告後に、諸事情によりTOBを中止しなければならなくなった場合、公開買付撤回届出書を提出してTOBを中止できる。
ただし撤回できるのは、会社が破産した場合や災害で会社が大損害を受けた場合など、金融商品取引法に定められた重大な支障に該当するケースのみである。
ステップ5.公開買付報告書の提出
公開買付が終了した時点で公開買付報告書を提出し、TOBの結果を報告する。これによりTOBの手続きは完了となる。
既存株主がTOBに応じなかった場合
TOB実施後も対象会社が上場を維持する場合、株式を保有し続けることも可能だ。しかし、TOB後に対象会社が上場廃止を行う場合、保有する株式は非上場株式となり、証券市場で売買できなくなってしまう。
一般的にTOBにより、全株式を買い付ける場合や一部買付後に上場廃止を予定している場合、スクイーズアウトと呼ばれる手法で少数株主を除外していく。
スクイーズアウト(Squeeze Out)とは、M&Aにおいて株主を一定の大株主に集約させるため、少数株主が保有する株式について金銭等を交付して排除する方法だ。
株式併合や株式等売渡請求制度などにより実施される。会社法のルールに従って行われるが、トラブルを避けるために正しい手続が必要だ。
TOBに対する4つの防衛策
敵対的TOBが実施される場合、対象会社と買収会社との間で激しい争いが行われる。一方的にTOBを仕掛けられた対象会社の立場からすると、なんとか阻止しようとするのが通常であろう。ここからはTOBに対する防衛策をまとめてみたい。
防衛策1.パックマン・ディフェンス(逆買収)
パックマン・ディフェンスとは、敵対的TOBを仕掛けられた企業が、買収してきた企業に対し、逆にTOBを仕掛けて防衛を図る方法だ。80年代に流行したTVゲームキャラクター「パックマン」の動きに似ていることが名称の由来だという。
1999年にフランスのトタルフィナという石油会社(業界第1位)が、エルフ・アキテーヌ(業界第5位)に対して敵対的TOBを仕掛けた事例では、対象会社であるエルフ社が逆買収を仕掛けたという。
防衛策2.ホワイト・ナイト(白馬の騎士)
ホワイト・ナイトとは、敵対的TOBを仕掛けられた対象企業が、防衛のために友好的な第三者に大量の自社株式を取得してもらう手法だ。
2006年にスティール・パートナーズが明星食品に対して敵対的TOBを仕掛けた際、日清食品がホワイト・ナイトとして登場し、スティール・パートナーズのTOBに対して防衛に成功した。
防衛策3.クラウン・ジュエル(焦土作戦)
クラウン・ジュエルとは、企業が敵対的TOBを仕掛けられた際に、収益性が高い事業や価値のある重要な資産を売却して、買収意欲を削ぐ防衛策だ。
王冠から価値のある宝石を外して、王冠の価値を下げる行為に似ていることが、名称の由来だという。
クラウン・ジュエルの実行がほのめかされた事例がある。2005年に勃発したライブドアとフジサンケイグループによるニッポン放送株式争奪戦だ。
ライブドアがニッポン放送株の過半数を取得する前に、ニッポン放送がフジテレビ株式をフジサンケイグループ内外の企業に譲渡することをほのめかした。結果的にTOBを阻止できたという。
防衛策4.ポイズンピル(毒薬条項)
ポイズンピルは、敵対的TOBを仕掛けられた対象会社が、あらかじめ既存株主へ新株予約権を発行する等の条項を定款に入れておくことで、買収側の株式保有割合を下げたり買収コストを引き上げたりする防衛策だ。
日本では、2007年にスティール・パートナーズがブルドックソースに対して敵対的TOBを仕掛けた際に、ポイズンピルが実施された。
ブルドックソースは、全株主に対して1株につき3個の新株予約権の無償発行を行い、通常の株主には新株予約券1個1円で1株を交付するが、スティール・パートナーズは予約権行使非適格者とすることで防衛した。
買収防衛策は廃止される傾向に
これまで見てきたように、買収防衛策は導入企業にとって一定のメリットがある。従来の日本型企業は経営者の意のままにコントロールされており、本来のオーナーである株主ですら、株主総会での自由な発言が制限されることが多くみられた。
それは結果的に、経営者にとって都合のよい株主を好む傾向を加速させ、さらには企業相互間で株式の持ち合いを行うことで、双方にとって都合の良い株主となるという日本独自のスタイルを根付かせる原因となっていた。
企業買収の脅威は、経営者にとって都合の悪い株主の出現に他ならないから、その対策として、買収防衛策手段を持つ企業が増加していったのである。
コーポレートガバナンス・コードの導入
しかし2015年6月に、本来の企業のあるべき姿を取り戻そうという動きがおこった。日本において、金融庁と東京証券取引所が共同で主導する形で、コーポレートガバナンス・コードが導入されたのだ。上場企業がこの原則・指針に従うことで、企業の透明性を保ちつつ、適切な投資を呼び込むというムーブメントが主流となったのである。
コーポレートガバナンス・コードは、グローバル競争に打つ勝つための強い企業経営力を取り戻すべく導入された「持続的背長に向けた企業の自立的な取組み」である。
グローバルな視点から見た日本企業の買収防衛策
世界的な機関投資家からみると、旧来型の日本の上場企業には、本当は成長余力があるにもかかわらず、現経営者は、現在の地位に甘んじているため、過度なリスクをとらず、その結果、企業成長が見込めず、企業価値の低下につながるように映っている。
このような中、本来は競合企業同士のM&A等によってさらなる成長を遂げる道もあるはずだが、買収防衛策によって阻まれてしまっていることになる。このような投資環境では、日本企業への中長期的な投資は適切ではないと判断されることも多くなってきていたのである。
そのため、先に触れたコーポレートガバナンス・コードにより、企業の透明性の担保や、その先にある企業成長のための機会創出といった、日本経済のさらなるジャンプアップのための仕組みが構築されることになったのである。
実際に世界的な機関投資家は、投資対象候補となる企業がどの程度コーポレートガバナンス・コードを遵守しているのかに着目しながら投資をし、さらには株主総会で反対票を投じるような動きもある。このことは、投資側に求められるスチュワードシップ・コードでも明確になっており、我々も確認できるようになっている。
企業がこれまで大事にしていた「物言わぬ株主」の存在は、実は企業価値を高める機会を失っていることそのものではなかったのか。
そのような状況の中、買収防衛策が経営者の保身だけを目的とするような企業への投資はますます減少していくことになっていくことになる。
企業を守ろうとした買収防衛策は、結局のところ、経営者の独りよがりと映ってしまっていたのではないだろうか。
TOBに関するQ&A
Q1.TOBのメリットとは?
A.3つのメリットがある
①計画的な実行が可能
当初からの計画に従って、予定された期間で、予定される資金を使い、予定される株式数を一度に購入できる。
②買収条件を設定できる
買収側にとっては、TOBによって募集する株式数に上限・下限を設けられる。ほかの手法と比べて低リスクで株式を取得できる。
③価格変動リスクを最小限に抑えられる
TOBであれば、取得価額を事前に決めることができるため、市場への価格変動リスクを最小限に抑えられる。
Q2.TOBのリスクは?
A.2つの大きなリスクがある
①失敗した場合の影響が大きい
TOBは対象会社の防衛策により失敗に終わる可能性もある。その場合、株価の下落や対象会社の従業員、取引先からの反発などが起こりえる。
②対象会社の事務負担が増える
TOBが実施される際、買主のTOB申請手続きに対し、対象会社側では意見表明書の提出義務が発生する。このような書面作成の対応で、事務の負担が増えることが予想される。
Q3.TOBの種類は?
A. TOBの種類には「友好的TOB」と「敵対的TOB」がある。
「友好的TOB」とは、買収側や株主、対象会社の関係者が合意したTOBだ。たとえば親子上場をしている場合、子会社が上場廃止する際に完全子会社化するケースがある。
「敵対的TOB」では、関係者が合意しないまま、買収側が一方的に対象会社の株式について大量保有を仕掛けることになる。
たとえば、投資を目的としてファンドがTOBを仕掛けるケースでは、敵対的な状況が発生することがある。敵対的TOBを仕掛けられた対象企業は、通常対抗措置をとることとなる。
Q4.TOBとMBOの違いは?
A. MBOとは、経営者が自社の既存株主から株式を買い上げることで、経営権を強めることである。MBOとTOBの違いは以下の表の通りだ。
ただし、MBOが非上場化を目的として行われる場合、その手段としてTOBが用いられることになるため、並列の関係性というわけではない。
Q5.TOBに対抗するためには?
A.買収防衛策と呼ばれる大きく4つの方法がある。
①パックマン・ディフェンス(逆買収)
パックマン・ディフェンスとは、敵対的TOBを仕掛けられた企業が、買収してきた企業に対して、逆にTOBを仕掛ける防衛策である。
②ホワイト・ナイト(白馬の騎士)
ホワイト・ナイトとは、敵対的TOBを仕掛けられた対象企業が、防衛のために友好的な第三者に大量の自社株式を取得してもらう防衛策である。
③クラウン・ジュエル(焦土作戦)
クラウン・ジュエルとは、企業が敵対的TOBを仕掛けられた際に、収益性が高い事業や価値のある重要な資産を売却して、買収意欲を削ぐ防衛策である。
④ポイズンピル(毒薬条項)
ポイズンピルは、敵対的TOBを仕掛けられた対象会社が、あらかじめ既存株主へ新株予約権を発行する等の条項を定款に入れておくことで、買収側の株式保有割合を下げたり買収コストを引き上げたりする防衛策である。
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文・風間啓哉(公認会計士・税理士)
(提供:THE OWNER)