企業が自社株買いをする4つのメリット
ここからは、自社株買いによって生じるメリットを解説していく。前述の目的にもつながる内容なので、その点を意識しながら読み進めていこう。
1.投資家や既存株主へのアピールにつながる
前述でも解説したように、自社株買いを実施すると株価は基本的に上昇する。また、市場に対して「株価が割安」というメッセージを伝えることにもなるので、自社株買いは投資家や既存株主へのアピールにつながる。
ただし、自社株買い後の株価は必ずしも想定通りに動くとは限らない。株価の変動要因にはさまざまなものがあるため、自社株買いの実施前には周囲への影響を慎重に予測する必要がある。
2.ストックオプションを活用できる
ストックオプションとは、自社株を事前に決めておいた価格で購入できる権利のこと。例えば、ストックオプションを従業員に付与しておくと、会社が成長するほど(株価が上がるほど)従業員の利益も増えるため、社内全体のモチベーションアップを期待できる。
このような効果を期待して、市場から自社株を買い戻すケースは少なくない。ただし、多額の売却益が出たり業績が悪化したりすると、かえって従業員離れを引き起こす恐れもある。
3.配当金を減らせる
株主に支払う配当金を減らせる点も、自社株買いを行うメリットのひとつだ。
株式会社が支払う配当金は、全株主の保有株式数によって変化する。市場に流通している株式が多いほど、その企業は多くの分配金を支払わなくてはならない。
この分配金の負担が大きいと、いくら利益を出しても経営が圧迫されてしまうため、市場流通量を減らす目的で自社株買いを行うケースも見受けられる。
4.敵対的買収の防衛策になる
持ち株比率をアップできる自社株買いは、敵対的買収の防衛策としても知られている。
例えば、株式発行によって自社の持ち株比率が下がると、特定の株主に経営権を握られてしまう恐れがある。その結果、強引に経営者を交代させられたり、経営の自由度が下がったりする可能性もゼロではない。
つまり、持ち株比率はできるだけ高い水準を維持する必要があり、その手段として自社株買いが実施されることもある。
自社株買いにはデメリットやリスクもある
自社株買いには多くのメリットがある一方で、実施すると思わぬリスクに直面することもある。特に以下で挙げるデメリットは軽視できないため、計画を立てる前にしっかりと確認しておこう。
金庫株の処分時に株価が下がりやすい
自社株買いによって買い戻した株式は、「金庫株」として会社が保有することになる。では、この金庫株を再度市場に流出させると(※処分と言う)、株価にはどのような変化が生じるだろうか。
金庫株を処分すると、市場に出回る自社株式はその分だけ増加する。つまり、供給量が増えることで需給バランスが崩れるため、金庫株の処理は株価の下落要因になり得る。
また、金庫株を自社で消却する選択肢もあるが、この方法を選ぶと自己株式の絶対数が減るため、自己資本が圧縮されてしまう。その結果、資金調達面で悩まされる可能性もあるので、金庫株を処分・償却するタイミングは慎重に見極めることが重要だ。
場合によっては失望売りが生じることも
自社株買いには株価を押し上げる効果があるものの、状況次第では逆に下落するケースもある。
例えば、自社株買いを実施する前に、市場に対して「株価が上昇すること」を強くアピールしたとしよう。世の中の投資家はこれに反応して買い注文を出すが、市場の期待度と実際の株価上昇の間に差があると、多くの投資家は失望して株式を手放してしまう。このような失望売りが続けば、株価はどんどん下落していくだろう。
ほかにも取得割合を少なく設定しすぎた場合や、ごく少数の株主から自社株を買い戻した場合など、自社株買いで株価が上昇しないパターンはいくつか存在する。株価の下落は経営面に深刻なダメージを及ぼすので、自社株買いの実施前にはその後の影響をしっかりと予測し、買付内容などの実施方法を慎重に検討しなくてはならない。