次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスの混在する大変化時代に対峙し、どこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社みらいワークス代表取締役社長の岡本祥治氏。フリーランス人材のマッチングをはじめ、地方への展開を強化する同社の事業戦略と経営の意思決定の秘訣、未来構想などを聞いた。

(取材・執筆・構成=落合真彩)

株式会社みらいワークス
(画像=株式会社みらいワークス)
岡本 祥治(おかもと・ながはる)
株式会社みらいワークス代表取締役社長
神奈川県出身。2000年に慶應義塾大学理工学部を卒業後、アクセンチュア株式会社、ベンチャー企業を経て、47都道府県を旅する中で「日本を元気にしたい」という想いが強くなり起業。2012年にみらいワークスを設立後、働き方改革やフリーランス需要の拡大とともに急成長し、2017年12月に東証マザーズへ上場。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

「働き方改革」の潮流に乗り、顧客ポートフォリオを徐々に拡大

冨田:ZUU online編集部としては、時代とともに事業の拡大や集中を通して変遷していくところに会社の特徴が表れると考えています。ここ数年でも創業からでも構いませんので、ぜひ振り返りという意味で事業の変遷のところをお話いただければと思います。

株式会社みらいワークス

岡本:2012年に創業し、フリーランスのマッチング事業を始めました。当時、フリーランスはメジャーではなく、一部の業界やコンサルティング企業出身者だけがそういった働き方をしている状況でした。今となっては笑い話ですが、10年前は「フリーランス」と「フリーター」って何が違うの?と言われるくらい、フリーランスには認知度がありませんでした。そんな中で戦っていたのが初期の状況でした。

一番の転換期は安倍政権が働き方改革を打ち出したことです。シニア活用、女性活用がうたわれる中で、2016年に経済産業省主導で「『雇⽤関係によらない働き⽅』に関する研究会」が立ち上がりました。そこから徐々にフリーランスという働き方が、メディアを含めていろいろなところでクローズアップされるようになりました。

フリーランスという働き方がホワイトカラーの人たちの選択肢になり始めたことで、当社のプラットフォームに登録される方々の属性も変わってきました。以前はコンサルティングファーム、プロフェッショナルファーム出身者が多かったのですが、今はその割合はかなり下がってきています。事業会社のホワイトカラー職をしてきた人がフリーランスになる流れが当たり前になってきました。

当社はそんな追い風を受けて事業を伸ばすことができ、2017年12月に上場しました。事業モデルは創業当初から変わらないものの、今お話ししたようにクライアントのポートフォリオや戦い方は徐々に変わってきているというのが、メイン事業の変遷です。

株式会社みらいワークス

「地方の中小企業×都市部の人材」という高難易度のマッチングに挑戦する

冨田:顕在化されたマーケットから、潜在的な、今後どんどん広がっていくマーケットへとシフトされてきたという意味では、違うビジネスモデルに変わってきたようにも見えます。これまでのコンサルティング領域中心から、各領域のプロフェッショナルマーケットが増え、「副業」という形で使う人もいると考えると、大きな変化を遂げてきたのだなとお話を聞きながら思いました。その中でも、次の領域としてどういった業種業界が多いなどの特徴はありますでしょうか。

岡本:インダストリー軸ではありませんが、元々都市部の大企業をメインにマッチング事業を行ってきた中で、今広がりつつあるのは、中小・ベンチャー企業でのマッチングです。都市部の中小・ベンチャー企業だけでなく、地方の中小企業に対しても、副業という形で進めています。

当社が顧問紹介やスポットコンサル事業をされている他社さんと異なるところは世界観にあると考えています。我々が課題として捉えているのは「知恵」や「アドバイス」はそれ単体だと、物事が動かないということです。つまり「実行」ができないと意味がないのです。だから我々は「実行力を提供する」ことを価値だと考えてマッチングをしています。

ただ、地方の中小企業に対して実行力を提供しようとすると、フリーランスのプロ人材だと価格が合わないことが多いです。そこで「副業」という形を取ることで、中小企業でも実行力を手にすることができる。そんな世界観ができ始めています。

みらいワークス岡本様

冨田:地方の中小企業に対して副業人材をマッチングしていくというのは、これまでなかったマーケットであるがゆえに、難易度の高いビジネスではないかと感じます。

岡本:確かにそうですね。ただ、我々は他の人ができないところでビジネスをしないと意味がないと思っています。そもそもフリーランスのマッチング事業自体、行っている会社はたくさんありますが、「大企業とフリーランスのマッチング」をこれだけやってきた会社はないだろうと思います。

フリーランスなんて使ったことがないような大企業に対して、いかに安心して業務を遂行してもらうか、こういう難しい領域にあえてチャレンジすることによって価値を生んできました。

いま行っている「地方の中小企業×都市部の人材」もやはり難しいことはたくさんあります。だからこそチャレンジして、2年ほどかけて少しずつ形にしてきました。難易度が高いことにチャレンジし続けるDNAがあるというのが、当社の強みになっていると思います。

株式会社みらいワークス

冨田:いまのお話でコアコンピタンスのところまで語っていただきました。難易度の高いところにチャレンジしていくことで唯一無二のビジネスモデルがつくられるというのはおっしゃるとおりだと思います。

コンサルティングと人材マッチング、両方のケイパビリティを持つことが強み

冨田:決算説明資料を拝見すると、Webプラットフォーム事業の中で、地方銀行や紹介会社を介して地域有力企業や中小企業をつないでいくというモデルが示されています。1つのマッチングの生態系をここでつくっているんだなと理解しました。他の観点からコアコンピタンスとして考えられている部分があれば補足いただけますか。

株式会社みらいワークス

岡本:コンサルティング×人材紹介企業であるということですね。一般的な人材紹介企業ですと、求職者をマッチングして転職先が決まり、入社するまでの責任を負います。ただ当社はマッチングだけではなく、業務開始後のパフォーマンス管理まで行います。我々が企業から業務委託で仕事を請け負って、それをフリーランス人材に再発注するというモデルなので、履行責任は我々にあるということです。

株式会社みらいワークス

このモデルになった背景には、大企業に対する事業をしてきたことがあります。大企業は仕組み上、フリーランスに対して月100万円以上の業務委託契約を結ぶことがなかなか難しいのです。それを乗り越えるために、いまのようなビジネスモデルになったわけです。

ただこれを実現させていくには、稼働をしっかりと管理するプロジェクトマネジメントのスキルが必要です。その意味で、人材ビジネスとしての人材マッチング能力とコンサルティングビジネスとしてのプロジェクト管理能力、この両方のケイパビリティを持つことを求められますが、めちゃくちゃ難易度が高いですよね。この2つを兼ね備えている点が、当社の特徴であり強みであると考えています。

変な話、利益だけ追求していくことを考えたら、全員をエグゼクティブエージェントにして、ひたすらマッチングすることに特化したほうが効率は良いと思います。ですがそれでは世の中の多くのプロフェッショナル人材に機会を提供することができなくなってしまう。

「利益追求」は経営者としては当然やるべきことではありますが、「プロフェッショナル人材が挑戦できるきっかけを提供することで、日本全体の企業の成長・発展に貢献する」というミッションを掲げていますから、そこにチャレンジしていこうと考えています。そういう考え方でビジネスをしてきた結果として、他社にないような強みが自然と身に付いてきたのかなと思います。

冨田:いまのお話に、経営者として経営判断で重視されているポイントが表されているように感じました。このほかに経営判断上、重視していることはありますか。

岡本:やはりミッションビジョンバリューは重視しています。ミッションビジョンバリューに合わない仕事はしないですし、社員にも「バリューを発揮したくないと思ったらもううちの会社にいるべきじゃないよね」という話は常々しています。

例えば新規事業部門の社員に対して、ビジョンの実現に資するサービスでないなら、みらいワークスがやる必要はないと伝えています。逆にビジョン実現に資するものの、マネタイズができるかどうかはまだわからないというサービスであれば着手するケースはありますね。ビジョンと一致するならば、進めていく中で突破口が見えてくることもありますし、まずはやってみてから考えようというスタンスで進めることが多いです。

楽しく働いている大人を増やし、個人の幸福と日本経済の活性化を実現する

冨田:トライアンドエラーを繰り返すことで新しい事業を成り立たせていくことができるというのは素晴らしいですね。

岡本:もうこの時代、「やらずに判断する」というのはナンセンスじゃないかと思うのです。ある意味、そこが当社のいいところじゃないかなと思っています。

冨田:ありがとうございます。ここから未来に向けてどういう構想を描いていくのか、ぜひお伺いできればと思います。

岡本:もっともっと楽しく働いている大人を増やしていきたいと思っています。若い人たちがつまらなそうに働いている大人を見て、「仕事って嫌だよね」と思ってしまうのではなく、生き生き働いている人たちを見て、「自分も働きたい」と思える人を増やしていきたいのです。

その実現のために当社は、プロ人材の方々が自分の価値観に沿って働き方を選択できるような社会をつくるための事業を行っていきます。我々のようにベンチャー企業で自分の価値観に沿って働いている人たちはまだまだマイノリティで、大企業に勤め、その中だけで生きていく人たちがマジョリティーです。これを壊していきたいなと思います。

いま、「HRソリューションズ」という、大企業人事向けのセカンドキャリア構築サービスを展開しています。大企業人材に対して、地方の中小企業に次のポジションを用意するというマッチング事業です。大企業に対するコンサルティングをしてきた我々だからこそ、一歩入り込んだマッチングができると思います。これによって地方経済の活性化を促すことができるでしょうし、大企業の非生産的な仕事も解消されていくと考えています。

人生100年時代を生き抜くための働き方を自ら選択できる人が増えてくることで、個人の幸せも実現されますし、日本経済全体としてもプラスになる社会をつくっていけるのではないか。そんな世界を実現していくために、これからも他の会社ではできないことにチャレンジし続けたいと思います。

プロフィール

氏名
岡本 祥治(おかもと・ながはる)
会社名
株式会社みらいワークス
役職
代表取締役社長
ブランド名
FreeConsultant.jp、大人のインターン、Professional-Career、Skill Shift、Glocal Mission Jobs
受賞歴
第9回 日本HRチャレンジ大賞「地方活性賞」受賞
出身校
慶應義塾大学