本記事は、渡邉哲也の著書『世界と日本経済大予測2022-23』(PHP研究所)の中から一部を抜粋・編集しています
石炭火力発電:中国は環境問題に関心なし
三峡ダムは、南水北調を果たすための大プロジェクトであるが、同時に水力発電の推進による石炭火力発電の縮小をめざしている。だがこれも簡単な話ではない。
最も二酸化炭素を排出する発電法は石炭火力発電である。
2018年の中国の電源別発電電力量を見ると、石炭火力発電が66.5%を占め、水力発電は17.2%に過ぎない(電気事業連合会資料から)。
電気を作るために二酸化炭素を大量に出し続けているのが中国であり、さらに三峡ダムで海水温上昇を招いているのだから、まさに環境の敵は中国と言えよう。
さすがに危機感をもった中国は、老朽化した火力発電所の停止と新規の火力発電への投資を制限したが、その結果、全国的な大停電を招いてしまった。
石炭火力発電の縮小に向けて、最も現実的と言われる揚水発電に切り替える案もある。揚水発電とは、電気が余っている時間帯に水を上昇させ落とすという非常に原始的な発電方法である。だが、35%ほどしかエネルギー効率がなく、それで石炭火力発電分を賄(まかな)えるはずがない。
実利が伴わない自然環境対策の典型であり、端的に言えば、中国は環境問題に関してまったく関心がないと言っていいだろう。
蓄電技術がすべてを解決する
電力問題についてもう少し言及すると、火力発電や原子力発電からの脱却を唱えて、太陽光などの再生可能エネルギーへの転換を主張する論者は少なくない。
太陽光や風力で電気がすべて賄えたら、それに越したことはない。公害ゼロ、CO2排出ゼロ、資源枯渇の心配なし、とメリットだらけだ。
しかし、良いことばかりではない。すでに九州電力では、ピーク時においては太陽光発電からの電気を受け入れきれない状態になっている。キャパシティ以上の電流の受け入れはブラックアウトの原因になるからだ。
言うまでもなく、太陽光は〝お天道様頼み〟。天気のいい日はどんどん発電するが、天気が悪い日は発電しない。風のない夜は太陽光発電、風力発電はまったくの役立たずになってしまう。結局、再生可能エネルギーの多くはベースロード電源にはなれないということを、環境活動家はわかっていない。日本に関してはソーラーパネルをこれ以上設置したところで、蓄電方法が見つからなければ意味がないのだ。
さらにパネル処理の問題もある。ソーラーパネルは素材としては有毒物質やガラス等を使っており、耐用年数を超えたパネルは最終処理する必要がある。最終処理といっても最後は埋めるしかなく、環境保護とはほど遠い手段だ。
災害時には別のリスクがある。たとえば洪水被害があった後も、日光が出れば発電し続けてしまうため、周囲が水浸しの状態の時は近寄ることもできない。
そうしたリスクがあまり真剣に考えられないまま「環境のために」というお題目でソーラーパネルが作られ、南向きの山の斜面に取り付けられる。環境に優しいどころか、環境を破壊して作られているのが実情である。
結局、効率的な電力利用のために最も重要になるのは、「蓄電技術」なのだ。
そこで、注目されるのは全固体電池である。蓄電効率を上げてより多くの蓄電ができれば、電力の安定性は維持できる。全固体電池はEV(電気自動車)向けの電源の本命であり、日立をはじめさまざまなメーカーが開発を進めている。
もっとも、いまの主力は、リチウムイオン電池である。開発者の吉野彰氏が2019年ノーベル化学賞に輝いた、いまやスマートフォンやノートパソコンのバッテリーとして欠かせないリチウムイオン電池だが、液体の電解質を利用するため安全面に不安が残る。
それに対して、電解質を固体化する全固体電池は、爆発するリスクがほとんどなく、しかも急速充電が可能など、素材として安定している。EVの普及のためにも、全固体電池の技術が次世代の中心になる可能性が高い。
脱炭素ビジネス:京都議定書の延長に参加しない日本
2020年10月26日、菅義偉首相(当時)は施政方針演説で成長戦略の柱として「経済と環境の好循環」を掲げ、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすると表明した。30年後をめざし、長期的に取り組んでいくという姿勢は評価していい。
ただ、これは地球規模の問題であって、日本だけが達成したところで目に見える変化が出てくるかと言われると、もちろんそんなことはない。
パリ協定は2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)で合意が成立、2020年から取り組みが始まった。1997年の京都議定書は先進国だけが対象だったが、パリ協定は発展途上国、ことに中国を含めた枠組みのため、世界からの期待は大きいが、京都議定書と異なり法的拘束力がない。
パリ協定では日本は2050年に実質ゼロとしたが、中国は2060年を目標にしている。世界最大の二酸化炭素排出国の中国が、国際的な合意、それも法的拘束力を伴わない合意を守るとは思えない。
そもそも、前述の通り、温室効果ガスが本当に地球環境破壊に強い影響を与えているのかどうか、科学的な証明は難しい。否定的な論文も多く出ており、温暖化の主要因が二酸化炭素という決めつけは危険だ。
何らかの因果関係はあるのかもしれないが、二酸化炭素の排出を抑えれば温暖化が止まるという保証などなく、温暖化を止めるための国際的な合意が守られる保証もない。
日本も京都議定書の内容が日本の産業にはとくに不利に働く理由から、延長への不参加を決めている。脱炭素ビジネスが日本で根付くかどうかは大いに疑問だ。
2022年のアメリカ中間選挙の結果次第では、〝脱炭素〟を掲げる新リーダーが台頭するかもしれない。そうなれば、風向きが一気に変わる可能性が高い。
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