本記事は、渡邉哲也の著書『世界と日本経済大予測2022-23』(PHP研究所)の中から一部を抜粋・編集しています

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(画像=PIXTA)

コロナ変異株:ウイルスの脅威に終わりはない

「おいおい、ワクチンが行き渡って感染者数が落ち着いてきたのに、2022年以降もコロナが脅威になるのか?」と疑問視する向きもあろう。それは早計な見方である。

新型コロナの今後の動向、ワクチンをめぐる国家の駆け引きは注視するに値するリスクだ。本記事で詳しく見ていこう。

2021年11月時点では、新型コロナウイルス感染症の拡大はいまだはっきりとした収束の気配が見えない。世界全体を見渡しても、政治も経済も、特筆すべき成果を挙げている国はない。

われわれはまさに世界史的な事件の渦中にいるわけだが、疫病と人間の戦いの歴史はいまに始まったことではない。14世紀のペスト(黒死病)の流行で欧州では大量の人命が奪われた。欧州人が持ち込んだ天然痘によって、免疫のないアメリカ先住民が大量に死亡したのも歴史的事実である。

新型コロナウイルス禍もそのような歴史の流れに位置づけられる。

もっとも14世紀と21世紀では衛生状態も医療技術も異なる。黒死病の前に為(な)す術(すべ)もなく死んでいった中世の人びとは、現代の医療技術であれば救命は可能であったかもしれない。

ただし、人の往来も中世欧州と現代社会では大きく異なり、武漢で発生したウイルスが瞬く間に世界に伝播したのは交通機関の発達や、グローバル経済の皮肉な賜物である。感染の速度に関しては、14世紀の欧州と21世紀の世界では比べ物にならないほど後者のほうが速い。

だが、これを踏まえて大局を見てみると、人類の歴史において疫病の流行は定期的に訪れる厄災であり、誤解を恐れずに言えば、増えすぎた人口を調整する機能も果たしてきたとも考えられる。

いまのワクチンは次の変異株には無力

疫病の流行に最も有効なのがワクチンだ。長年にわたって人類を苦しめた天然痘が、エドワード・ジェンナー(1749-1823)が開発した種痘法で完全に制圧されたのは誰もが知っている(1980年に天然痘の根絶が宣言された)。18世紀の英国と同様に、新型コロナウイルスもワクチンによる免疫取得が制圧の決め手となる。

2021年に承認されたファイザーやモデルナなどが開発した新型ワクチン(メッセンジャーRNAを使ったワクチン、mRNAと示される)によって新たな展開が見え始めている。日本でも自治体が迅速に動いたことで接種のスピードが速まった。接種を済ませて安心した人も多かっただろう。

ただし、コロナウイルスはインフルエンザウイルスに比べても変異のスピードが速い。変異のスピードにワクチンの開発が追い付かない可能性があり、ワクチンを接種したからといって油断はできない。

細菌とウイルスでは根本的に性質が異なることもこの際知っておくべきだろう。

細菌は細胞を有し、自己複製能力を持つ微生物。一方のウイルスは栄養を摂取するなどの生命活動は行なわず、細胞を宿主(しゅくしゅ)として自己を複製していく存在だ。その大きさは細菌の50分の1程度。ペストはペスト菌、天然痘は天然痘ウイルスが発症の原因となる。

ウイルスを構成するRNA(Ribonucleic acid=リボ核酸)は1本の鎖くさりのようなものでできていて、非常に不安定で変異しやすい。新たな変異株が生まれれば、それに対応したワクチンが必要になるから厄介なのである。

2021年夏に流行したデルタ株については今回のワクチンの効果はあると言われているが、新たな変異株には無力かもしれない。

ウイルスを恐れる時期は過ぎ、対処する時期に入った

新型コロナウイルス禍の長期化は、間違いなく世界経済の長期低迷を招き寄せる。

先進国だけの問題ではない。衛生状態や予防のための体制の違いはあるにしても、世界全体にウイルスが伝播するからだ。新興国、さらに発展途上国に対しても一定量のワクチンが行き渡らない限り、世界経済の回復は不可能である。

ただし、今回のウイルスも、一度感染してしまえば一定量の中和抗体ができるため、いつまでも感染を繰り返すというわけではなく、いずれはピークを迎えて収束に向かう。

それが見て取れるのがインド。2021年5月に1日30万人以上の感染が確認される状態にあったが、その後、急速に感染者が減少し、9月半ばには10分の1以下になっているという。

また、新たな変異株が生まれたとしても、いわゆる訓練免疫や交差免疫があり、一定程度の歯止めになる。これは類似のウイルスに対してそれを敵と認識する、人間に備わった能力だ。

そもそもワクチンは免疫を作るための道具であり、今回の新型コロナウイルスがなぜここまで大きな問題になったかと言えば、その名の通り「新型」のウイルスであって、人類の誰もが免疫を持っていなかったことに尽きる。免疫を持っていなければ、劇症化しやすく、パンデミックも起こりやすい。

現時点では、地域によって差はあるにせよ、ようやくワクチンおよび感染によって免疫を持つ人が増えたことから、感染速度も劇症化も一時期よりは下火になっている。そうした状況が「コロナ慣れ」につながり、人びとの意識をコロナ禍前の生活に戻る方向に向けている。

世界と日本経済大予測2022-23
渡邉哲也(わたなべ・てつや)
作家・経済評論家。1969年生まれ。 日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。大手掲示板での欧米経済、韓国経済などの評論が話題となり、2009年、『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)を出版、欧州危機を警告しベストセラーになる。内外の経済・政治情勢のリサーチや分析に定評があり、さまざまな政策立案の支援から、雑誌の企画・監修まで幅広く活動を行なっている。主な著書に、「世界と日本経済大予測」シリーズ(PHP研究所)、『「米中関係」が決める5年後の日本経済』(PHPビジネス新書)のほか、『「中国大崩壊」入門』『2030年「シン・世界」大全』(以上、徳間書店)など多数。

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