本記事は、渡邉哲也の著書『世界と日本経済大予測2022-23』(PHP研究所)の中から一部を抜粋・編集しています

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(画像=PIXTA)

国家間の医療格差:日本製ワクチンの実用化は2022年の後半

2021年の夏あたりから、世界的には経済修復の動きが起きている。要因としては、新型ワクチン開発が大きい。

意外に知られていないが、このメッセンジャーRNAは、じつは数十年前から研究され、癌(がん)治療に利用されようとしていたものだ。

従来のワクチン接種は過去に流行した特定の菌やウイルスを体内に入れて、免疫を作る目的で行なわれる。しかし、新型ワクチンでは、いま問題になっている特定の対象(ウイルスや菌)を攻撃するため、抗体を作る「設計図」を体内に入れるという方法を取っている。敵(ウイルス等)となるものが絞られている。その明確な敵に対する抗体の設計図を体内に入れることで、より確度の高い予防効果が期待できるというものだ。

今回のファイザー、モデルナのメッセンジャーRNAタイプのワクチンの成功は、今後の医療・医学・薬学を一気に変貌させる可能性があると言われている。今回はターゲットがコロナウイルスだったが、この技法が本来予定されていた目的の癌やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)など、理論的には他のウイルスや疾患に応用できる。

そのため、いわゆる化学合成薬からバイオやDNA、ゲノムなどを利用した新しいタイプの治療法、新しいタイプの製薬等に変化する大きなきっかけになったと言えよう。

アストラゼネカが苦戦している理由

ワクチン開発には負の面もある。モデルナやファイザーなどによるワクチン開発が進むほど、他の製薬メーカーの後退が顕著になることだ。

理由は単純で、他の製薬メーカーは、ファイザーやモデルナより良い数値が出ないとワクチンが承認されないからだ。

保護法益が国民の健康、生命という非常に重要なものであるため、ワクチンを「誰が作ったか」ではなく「効果がどの程度あるか」という、きわめて客観的な基準で承認の可否が決定される。

実際、最初にワクチンを開発したとされるアストラゼネカ社が、日本ではあまり採用されておらず、巷(ちまた)で変異株対応ワクチンからは撤退するかもしれないという噂が流れるなど、苦戦を強いられている。接種対象者についてもファイザーが12歳以上なのに対し、アストラゼネカは原則40歳以上(とくに必要がある場合は18歳以上)とかなりの差異がある。

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(画像=世界と日本経済大予測 図2)

武田・ノババックス連合の開発が台風の目か

日本では、東京に本社がある第一三共、VLPセラピューティクス・ジャパン、大阪の塩野義製薬、アンジェス、熊本のKMバイオロジクスの5社が、国のワクチン生産体制など緊急整備事業で採択されている。

塩野義は、海外ではインフルエンザワクチンなどで実用化されている、ウイルスの遺伝子情報から抗原タンパク質を作る遺伝子組み換えタンパクワクチンを追究している。

アンジェスは、「DNAワクチン」と呼ばれる複製したウイルスのDNAの一部を体内に取り込んで免疫を作る仕組みを採用した。以前より濃くした原薬を体内に注入することで抗体を生み出す実験だが、そのぶん副反応の可能性が高まることになる。同社では2022年に最終治験を行ない、同年度内に承認申請、実用化をめざすと報じられている。

第一三共はモデルナなどと同じメッセンジャーRNAによるワクチンの開発を進めている。接種済みの人への追加摂取に対しても治験を検討するという報道がされたのが2021年8月20日(時事ドットコム「第一三共、追加接種も治験 ワクチン実用化は来年後半」)で、2022年後半に実用化される見通しとなっている。

VLPセラピューティクス・ジャパンは、アメリカのバイオ企業の100%子会社。こちらもメッセンジャーRNAのワクチンを大学と共同開発している。2021年秋に治験が始まり、2022年中に承認申請、実用化の方向で進めている。

KMバイオロジクスは従来型のワクチン開発を行なっている。こちらも2022年中に承認申請、実用化の予定。

以上のように、日本の企業に関してはワクチンの実用化は2022年後半あたりが予定されており、日本はワクチン開発第一弾において欧米に比べて出遅れた感は否めない。

国内最大手の武田薬品工業は最初から、国内開発ではなく、モデルナとノババックスというアメリカの製薬会社、バイオメーカーと組んで国内生産を前提としたワクチン供給を始めた。外国ブランドの国産ワクチンの開発も、これから十二分にありうる。

とくにノババックスに関しては、輸出も含め対応できる量の契約(1年で1億5,000万回分)は済ませており、2021年9月6日にノババックスからの技術移管を受け、早ければ2022年初頭から供給できる見込みだ。

アメリカでは、緊急使用許可を出したワクチン以外は通常の承認の手続きを取るようになっており、これがノババックスの承認を遅らせる原因となった。

アメリカ側に日本のワクチン製造を遅らせようという意図があるわけではなく、すでにアストラゼネカ、ファイザー、モデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ヤンセンの5社に緊急使用許可を出し、米国内での必要量は確保できたため、緊急使用許可ではなくて通常の承認手続きを取るように方針が変わったということだ。

世界と日本経済大予測2022-23
渡邉哲也(わたなべ・てつや)
作家・経済評論家。1969年生まれ。 日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。大手掲示板での欧米経済、韓国経済などの評論が話題となり、2009年、『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)を出版、欧州危機を警告しベストセラーになる。内外の経済・政治情勢のリサーチや分析に定評があり、さまざまな政策立案の支援から、雑誌の企画・監修まで幅広く活動を行なっている。主な著書に、「世界と日本経済大予測」シリーズ(PHP研究所)、『「米中関係」が決める5年後の日本経済』(PHPビジネス新書)のほか、『「中国大崩壊」入門』『2030年「シン・世界」大全』(以上、徳間書店)など多数。

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