この記事は2021年12月22日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「グーグルショッピングEU競争法違反事件判決-欧州一般裁判所判決」を一部編集し、転載したものです。

要旨

-欧州一般裁判所判決
(画像=PIXTA)

2017年、欧州委員会はGoogleが自社サービスであるGoogle Shoppingについて、Google検索結果において優遇していることが、競合する比較ショッピングサイトへの差別的取扱に該当するとの認定をした。そして、このような行為はEU競争法(EU機能条約)違反であるとして課徴金納付命令をだした。

Googleは、この命令の取り消しを主張してEU一般裁判所に提訴をし、その判決が2021年11月10日付で下された。事実関係は以下のようなものである。

判決文の認定事実によると、Googleはその検索結果ページにおいて、上部に掲示されるShopping Unitsという部分にGoogle Shoppingの商品を掲載していた。他方、Google Shoppingと競合する比較ショッピングサイトの商品は、一般検索結果の中に掲載されていた。さらに商品検索機能として調整アルゴリズムを用い、競合する比較ショッピングサイトの検索結果はより下部に掲載される傾向にあった。この結果、競合する比較ショッピングサイトへのGoogleからのトラフィック(流入量)が減少した一方で、Google Shoppingへのトラフィックは増加した。

裁判所はこのような慣行を差別的な取扱として、一般検索サービス市場における支配的な事業者であるGoogleが隣接する比較ショッピングサイト市場の競争を阻害する濫用行為を行ったとして、EU競争法違反であると判断し、欧州委員会の命令をほぼそのまま認めた。

本件は、差別的取扱に基づく排除型の私的独占ケースとして、オンライン検索サービスが問題となった事例として先例的な価値を有するものと思われる。

はじめに

欧州委員会はGoogle及びその親会社となったAlphabet(以下、まとめてGoogleという)に対して、2017年6月27日付けで24.2億ユーロの制裁金賦課命令を出した(*1)。

これは、Googleの事業の1つである、Google Shoppingという商品比較サービスに関するものである。欧州委員会の認定によれば、Googleは一般検索サービス市場において支配的な立場にあるが、その立場を濫用して、検索結果において自社サービスであるGoogle Shoppingに掲載されている商品の情報を、他の商品比較サービスのそれよりも上位に表示することによって、自社サービスへのトラフィック(traffic、流出量あるいは流入量)を増加させ、他のサイトへのトラフィックを阻害したとするものであった。

欧州委員会はこの行為がEU機能条約(The Treaty on the Functioning of the European Union (TFEU))第102条違反行為(支配的地位の濫用)であると認定した 。このような行為により、商品比較サービス市場において競合事業者を締め出し、小売業者の手数料の上昇、消費者への価格上昇などの反競争的効果を生む可能性があるとした。

これに対し、GoogleはEU一般裁判所(*2)(General Court)に欧州委員会命令の取り消しを求めて提訴を行ったところ、2021年11月10日付で判決が下された。結果としては、欧州委員会の主張をほぼ認め、課徴金の金額についても欧州委員会の命令通りとされた。


*1: https://www.nli-research.co.jp/files/topics/66796_ext_18_0.pdf?site=nli 参照

*2:一般裁判所は欧州委員会の決定に関する訴訟の管轄権を持つ事実審で、上級裁判所として司法裁判所(Court of Justice)がある。


前提事実と適用法令

1. Google検索を取り巻く事実関係

判決に触れる前に、判決が前提とする事実関係についてまとめて示すと下記図表1の通りである。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

Googleは商品にかかわる検索が行われた際に(たとえば冬用コート)、一般的な検索結果(natural results)と合わせて、比較ショッピングサイトに掲載されている商品も検索結果として表示する。一般的な検索結果は検索ワード(クエリという)に関連性の深いものを基準としてランキングの上で表示するが、商品については別の調整アルゴリズム(Universal Searchと呼ばれる)によって順位付けがなされる。

このアルゴリズムによって、一般的な比較ショッピングサイトに掲載される商品は自然検索の下の方(場合によっては次頁以降)に掲示されるのみとなる。他方、Google Shoppingの商品はShopping Units(またはProduct Universals)(*3)(*4)という検索結果の上部の欄に、写真付きなどで表示される。比較ショッピングサイトが検索結果の上位に掲示されるようにするには、料金を支払って、テキスト広告(リンクの頭に【広告】と表示されているもの)とするか、あるいは料金を払って、Shopping Unitに掲示してもらう必要がある(ただし後述の通り、一定の条件がある)。このような仕様となったのは2013年である5。

EU委員会が問題にしたのは、要するに、(1)Google Shoppingの掲載商品については、上部に目立つように表示される一方で、(2)他の競合する比較ショッピングサイトの商品は、そのままでは検索結果の下位にしか表示されないことである。


*3:Product Universalsは検索結果の上部に記載されていた商品検索結果表示であるOne Boxを、英国やドイツで名称変更したものである。現状はProduct Universalsも廃止され、本文の通りShopping Unitsに変更されている(判決文パラグラフ17)。

*4:Googleは当初、一般検索結果上のリンクをクリックすると小売業者のサイトに遷移する仕様の下で、Product One Boxの特別なリンクをクリックするとFroogleという専門検索サイトに遷移するようにしていた。2007年以降、FroogleはProduct Searchに変更され、最終的にはGoogle Shoppingとなった。

*5:判決文パラグラフ9〜17。


2. 適用法令

適用法令は上述の通り、EU機能条約の102条であり、具体的な条文としては、「域内市場又はその実質的な一部における独占的事業者(一又は複数)による濫用行為は、加盟国家間の交易に関する限りにおいて、域内市場と両立しないものとして禁止される」というものである。

Googleは訴訟において問題となったEU域内13か国の一般検索サービス市場において、独占的な地位を占めているとされており、この点についてGoogleは争っていない。

Googleは一般検索サービス市場において独占的事業者であることから、その隣接市場である比較ショッピングサービス市場において濫用行為を行ったことが本条違反となるというのがEU委員会の認定である(*6)。


*6:欧州委員会は一般検索サービス市場での競争制限的行為も問題としているが、本稿では省略する。


日本における排他的私的独占に係る指針

以下では、判決文を分析していくが、そのまま書き下すと論点の羅列にとどまってしまうこととなる。そこで、日本における実務に関するものであるが、公正取引委員会の「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」(以下指針)を、いわば物差しとして訴訟当事者が何を論じ、裁判所がどう判断したのかを見ていくこととする。

この点、Googleのようなオンライン検索サービスのようなビジネスモデルは、指針に記載はない。そこで本稿では、川上で事業を行う大きなメーカーが、川下市場にいる小規模メーカーに商品をおろす場合に差別的取り扱いを行う場合に類似するものとして検討を進めることとする。

つまり、検索サービスで生ずる膨大なトラフィックを、比較ショッピングサイトへと流し込むにあたって、川上事業者であるGoogleが、川下事業者である比較ショッピングサイトに対して差別的な取り扱いをしている構図が、指針が対象としている事案に当てはまるものと仮定して検討を進めたい7。

この観点からの指針の差別的取扱いに関する考え方を抽出すると、その概要は図表2の通りである。なお、指針には下記よりも細部にわたり判断基準を示しているが、本案件の重要ポイントに照らして項目は絞っている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

大きくは(a)「排除行為」が行われたかどうか、そして(b)その行為により一定の取引分野における「競争が実質的に制限」されたかという二点により排他的私的独占に該当するかどうかを判断する。

そして(a)排除行為が行われたかどうかは、イ)川上事業者が川下事業者の事業活動の必須商品(本件においてはトラフィック)を供給しているか、ロ)取引条件は自由競争のもと、当事者間の調整で定まるものであるが、競争手段として合理的な範囲を超えるものかどうか、ニ)川上事業者が行っている行為がその態様や目的からして排除行為と言えるか、などで判断される。

次に、(b)一定の取引分野で競争が実質的に制限されたかどうかは、イ)影響の範囲が商品および地理的なものとして画定できるか、ロ)当該市場において川下事業者の事業が困難になるおそれがあり、競争自体が減少したか、ハ)効率性の向上や消費者利益の確保など正当化できる事情があるか、などで判断される。


*7:指針では、市場で大きなシェアを持つ大手製缶メーカーが、缶詰の食品を製造する会社がコスト削減のために一部の缶を自家製造しようとしたところ、その食品会社が作っていない種類の缶を供給しないとした例が挙げられている(指針第2の1(注4)(1))。


Googleの主張と裁判所の判断

1. 総論

判決文では5つのパートに分けてGoogleの主張をまとめ、それぞれについて検討を加えている。Googleによる市場濫用行為があったとの欧州委員会の認定に対して、Googleの主張は順に、(1)検索方法や表示方法の改善は品質改善という公正競争に沿ったものであり、濫用的とは言えない。(2)比較ショッピングサービス市場で差別的な取り扱いを行ってはいない。(3)Google検索の検索結果のランキング方式や表示方法の改善によって反競争的な結果が発生したとは言えない。(4)Google検索結果において、Shopping Unitsを自然検索結果と別に表示することは、検索結果ページからのトラフィックを歪めて(divert)はいない。(5)課徴金を科すことは正当でないというものである。

判決文は細部にわたって検討を加えているが、本稿は大まかな判決の判断を解説するものとして、それぞれの論点とそれに関する裁判所の判断のごく一部にしか触れていないことをあらかじめご了承いただきたい。

2. 5つの主張それぞれに対する判断

(1)商品検索機能と表示方法の改善は公正競争にそった合理的なものであるとの主張

本論点は、排除行為が行われたかどうかにかかわるものである。排除行為が行われたかどうかについての判断要素は上記3の(a)イ)ロ)ハ)の通りであるが、Googleは一般検索サービス市場で独占者であり、トラフィックを比較ショッピングサイトに提供しているという点については争っていない。

本論点では、まず(a)イ) に関して、川上事業者(Google)が川下事業者(比較ショッピングサイト)に提供する商品(トラフィック)が川下事業者の事業活動に必須な商品であるといえるか、および(a)ロ)に関して、商品検索機能(調整アルゴリズム)と表示方法の改善が公正競争に沿ったものとして合理的なものであるかどうかについての議論に該当する。

(A)Googleの主張

Googleは、1)商品検索機能の改善や表示方法の変更は、通常の競争手段として行われた品質向上の結果であり、公正競争(competition on the merits)から逸脱したものではない。また、2)Googleの一般検索結果に比較ショッピングサイトがGoogle Shoppingと同様に掲載されないことが問題視されるためには、それが不可欠であり、Googleが供給義務を負うことを証明しなければならないが、そのような立証はなされていない。さらに3)Product Universals(現Shopping Units)を設けたのは、Google Shoppingへのトラフィックを増加させることを目的としたものではなく、検索結果の品質と関連性を高めるためのものであったと主張した8。


*8:パラグラフ139~145、199~207、250~251


(B)裁判所の判断

これに対して、裁判所は参入障壁が高い一般検索サービス市場において独占的地位を有するGoogleは、域内市場において公正競争を妨げてはならないという特別な強い責任が課されるとする。そして1)´一般の検索結果において、通常の一般検索方法とは異なる、ある種「異常な」方法でGoogle Shoppingと競合する比較ショッピングサイトを実質的に見えなくすることは、一般検索サービスの意図した目的と一致していない。

そして一般検索サービスから専門検索サービス(=比較ショッピングサイト)へのトラフィックは専門検索サイトにとって重要な資産である。また、歪められたトラフィックを他の手段で補完することは困難である。したがって、Googleのこのような慣行は公正競争を構成するものとは言えない。

また、2)´Googleからのトラフィックは比較ショッピングサイトに不可欠であり、実質的に代替可能なものではない。また本件は取引拒絶ではなく、差別的取り扱いが問題となっており、供給義務を負うことを立証する必要はない。さらに3)´目的や動機が行為にあたって評価すべきとの主張は正当であるが、法の禁止する濫用行為は客観的要素、すなわち、自社の比較ショッピングサイトへのトラフィックを増加させ、他の比較ショッピングサイトへのトラフィックを減少させる行為から構成されうるものであって、目的はこのような判断を左右するものではないとする(図表3)(*9)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

*9:パラグラフ150〜198、212~249、254〜267


(C)評価

まず(a)イ)Googleからのトラフィックが事業活動に必須かどうかについては、指針によれば「他の供給者を容易に見出すことができない」かどうかと言い換えられる(指針第2の5)。この点上記判決1)´2)´で述べられている通り、Googleからのトラフィックは実質的に代替可能なものではない (後述(3)(B)5)´も参照)。したがって比較ショッピングサイトにとってみると、他のトラフィック供給者を容易に見出すことができないと考えられ、この点は要件を満たすことになる。

次に(a)ロ)競争手段として合理的な範囲を超えているかどうかであるが、そもそも一般検索サービス市場における支配的事業者であるGoogleにおいても品質改善を通じた公正な競争行為を行うことができることは当然である。したがって、一般検索結果ページにおいて、消費者にとって見やすくしたり、興味のあるものを上位に持ってきたりすることは特段問題のある行為ではない。

ただ、たとえば価格を引き下げる行為は、一般に競争手段としては最も合理的と言える手段であるが、それが競合する事業者から顧客を奪う手段として用いられるときには、排除型の私的独占として禁止される(指針第2の1(注3))。本事案では、実態として、一般検索結果では上位に表示される数件にしか消費者は興味を持たないとされているところ、自社サービスであるGoogle Shoppingの商品を一般検索サービスの上部に表示するのに対して、競合する比較ショッピングサイトの商品が調整アルゴリズム(上記2の1. 参照)の結果として、下部または次頁以降に表示されることとなっている。したがって外形上、競合する比較ショッピングサイトからの顧客を奪取しているとの評価が可能であり、競争手段として合理性を欠き、この要件も満たすといってよいものと思われる。

また、意図的かどうかが争われているが、排除的な意図を有しているかどうかは重要な事実であっても不可欠な要素ではないとされる(指針第2の1(1))。ただ、本事案で真に意図的ではなかったかといえるかどうかについて疑義がある。

以上から、(a)イ)事業活動に必須の商品(トラフィック)を供給しており、かつロ)商品検索機能と表示位置の変更等については競争手段として合理性な範囲を超えるものと考えられる。

(2)Googleの慣行は差別的ではないとの主張

次の論点は、(1)ハ)取引態様や目的が排他的・差別的かどうかについてである。ちなみに(2)イ)である一定の取引分野についても若干の検討がなされている。

(A)Googleの主張

Googleの主張としては、1)商品検索は自然検索結果とは異なる仕組み、すなわち、販売業者から送られてきたデータをもとに、商品固有の関連性の特性(product-specific relevance signals)により検索結果を表示している。自然検索結果と商品検索結果はそれぞれの関連性基準に従って表示されており、差別的なものではない。

また、2)Shopping Unitsは広告枠であり、Googleのビジネスモデルに照らせば無償の検索結果と表示が異なることは差別的とは言えない。またShopping Unitsが上位に表示されるのは、それを表示することでテキストリンクのみの場合よりも良い検索結果を示すことになる場合に限られる。3)Google ShoppingはGoogle検索に付属する単なるウェブページであって、Google Shoppingとしては利益を得ていない。Google Shopping経由で得た利益はGoogleの一般検索サービスに割り当てられている。4)Shopping Unitsに、競合する比較ショッピングの商品を掲載しており、不当な差別的取扱はなかった(*10)(図表4)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

*10:パラグラフ271〜276、305〜306、321〜324、341〜344


(B)裁判所の判断

裁判所は、1)´Googleの検索結果ページにおいては、Shopping Unitsに掲載されるGoogle Shoppingは必ず一般検索結果ページの上部に目立つ形で表示され、それ以外の競合する比較ショッピングの商品は調整アルゴリズムの結果により目立たない形でしかより下部にしか掲載されない(なお、これらのことを以下ではGoogleの慣行と呼ぶ)と認定した。

また、商品検索については販売業者のデータに基づいて表示順位を定めており、関連性基準で必ずしも定まるものでもないと認定した。2)´問題となっているのはShopping Unitsに表示されるGoogle Shoppingと、一般検索結果である他の比較ショッピングサイトとの表示の差異であり、有料広告ではない他の比較ショッピングサイトの商品が、Google Shoppingとは異なるランク付け方法によって一般検索結果ページの下位に表示されることを消費者は理解していない。3)´比較ショッピングサイトサービスとは、オンライン販売業者や商業プラットフォームに掲載されている商品を横断的に検索し、価格や特徴を比較できるものであり、かつ販売業者は商業プラットフォームへのリンクを表示するものと定義されており、このことはGoogleによって争われていない。

このような定義の下で、Shopping UnitsとGoogle Shoppingは、利益がどこに帰属するかにかかわらず、消費者および販売業者からは単一の比較ショッピングサイトとして認識されている。4)´Shopping Unitsに掲載されるためには、比較ショッピングサービスはそのサイトに購入機能を追加する必要があるとされており、そうした場合、もはや競合する相手ではなく、Googleの顧客となることを意味する。したがって競合する比較ショッピングを掲載しているという主張は認められないとする(*11)(図表5)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

*11:パラグラフ278〜301、309〜320、327〜340、346〜355


(C)評価

Googleの主張としては、1)そもそもGoogle ShoppingはGoogle検索サービスとは分離できない一部を構成するものであって、単独の比較ショッピングサイトと認識すべきではない、また2)仮に独立したサービスだとしても、Shopping Unitsはそもそも広告枠であり、広告枠と一般検索結果が異なるのは当然である。広告枠同士、一般検索結果同士について差別的に取り扱ってはいないというものである。

まず1)に関連して、指針では、表計算ソフトとワープロソフトで市場シェア一位であった事業者が、PCに競合他社のワープロソフトが搭載されて販売されることが自社ソフトの販売について障害になると考え、PCメーカーに自社表計算ソフトとワープロソフトの両方を搭載して販売する契約を受け入れさせたことは不公正な取引に該当するとした例が記載されている(指針第2の4(3)、抱き合わせ販売の例)。

このことを参考にすると、比較ショッピングサイト市場という独立した市場が成立している以上、仮にGoogleにおいては一体のものとして見ているとしても、他の事業者と競争関係にないとは言えないと考えられる(この点は(b)イ)一定の取引分野の認定にもかかわる)。

次に、2)はいわゆるランキングの公正性・透明性にかかわる論点である(*12)。この点、消費者からすると、Shopping Unitsも一般検索結果も同一の検索結果として表示されることから、関心に合致する関連性の度合いで順番づけられて表示されるものであると認識されるのが自然と思われる。

他方、比較ショッピングサイトからみると、掲載対価を払わなければ一般検索で下位に表示されるにとどまること、他方で、掲載対価を払えばShopping Unitsに掲載されることは可能とされてはいるものの、競合するGoogle ShoppingはShopping Units掲載の対価を負担していないこと、Shopping UnitsはGoogle Shoppingの商品ですでにスペースが埋まっているということ、および掲載されるには購入機能を追加しなければならない(=単なる比較ショッピングサービスではなくなる必要がある)等の事実を前提とすると、合理的な範囲を超える差別的な取り扱いであると裁判所が認定したことは妥当であると考えられる。

以上(1)、(2)から排除行為の存在が認定できると考えられる。


*12:この点について、参考になるのが、EUのオンライン仲介サービスのビジネスユーザーに対する公平性と透明性を促進するための規則7条2項である。本条によるとオンライン検索サービス会社は自社又は自社の支配下にあるサービスと、その他の会社の提供するサービスを別取扱とする場合には、その旨を公表しなければならないとしている(「EUのデジタルプラットフォーマー規則」(ニッセイ基礎研究所))。


(3)Googleの慣行により反競争効果は生じなかったとの主張

本論点は主に、(b)イ)取引市場の確定、および(b)ロ)Googleの慣行が事業活動を困難にさせるものであるかという点に関連するものである。

(A)Googleの主張

Googleは、1)欧州委員会は Shopping Units (前身はProduct Universals)の存在がトラフィックを増減させたと主張しているが、それは誤りで、トラフィックは一般検索サービス部分における調整アルゴリズム基づく掲載の順序により増減するものである。たとえばイギリスとアイルランドのようにShopping Unitsが導入された国とそうでない国における、競合する比較ショッピングサイトへのトラフィックはおおむね同様の増減を示している。

2)欧州委員会はGoogleの慣行によって、Googleの一般検索結果から、不正にGoogle Shoppingへのトラフィックが増加したことを立証できていない。Shopping Unitsはトラフィック全体を増加させただけであり、一般検索結果で競合する比較ショッピングサイトの犠牲において、Google Shoppingへのトラフィックを増加させたとは言えない。

3)欧州委員会はGoogleの慣行が反競争的な効果をもたらし、価格の上昇やイノベーションを阻害した可能性を立証できていない。

4)商業プラットフォーム(Amazonのようなサイト上で購入できるもの)が強力な競争相手であり、少なくともの競争圧力を加えうる点について、欧州委員会は考慮に入れていない。

5)欧州委員会は比較ショッピングサイトへのアクセスをあたかもGoogleからのトラフィックだけを見て反競争的効果があるとしているが、アプリや直接的なアクセスなどを勘案するとGoogleからのトラフィックは排他的効果を生み出すにはあまりに低すぎると主張する(*13)(図表6)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

*13:パラグラフ358〜366、396〜399、421〜428、462、496〜500、510〜516


(B)裁判所の判断

裁判所は1)´欧州委員会の主張は、Shopping Unitsの存在と、一般検索結果の調整アルゴリズムによって表示が引き下げられる傾向にあることの組み合わせを主張しているものである。

そして欧州委員会は13カ国で、競合する比較ショッピングサイトへのトラフィックが実際に全体として減少し、侵害があったと認定しているが、Googleはこれに反論する証拠として何も示していない。

2)´Googleの上記1)´で述べたような慣行を行う前には、Googleの比較ショッピングサイトは成功しておらず、年間20%近くの割合でトラフィックを失っていた。しかし、慣行の導入後、13カ国でGoogle Shoppingへのトラフィックが増加したことが示されている一方、競合する比較ショッピングサイトへの一般検索結果ページからのトラフィック全体が13カ国で減少している事実についてGoogleは何ら提示していない。したがってGoogleの慣行は、一般検索結果からの競合する比較ショッピングサイトへのトラフィック減少につながったと認定できる。

3)´比較ショッピングサイト市場における競争に関して、競合する比較ショッピングサイトへのトラフィックを減少させ、Google Shoppingへのトラフィックを増加させたことが示されている。そして競合する比較ショッピングが、ほかの選択肢によってトラフィックを増加させることはできず、したがってこれら慣行が、イノベーションの意欲を低下させるか、有料のトラフィック源に依存することで利益を犠牲にすることが示されている。またGoogle自身の革新インセンティブを減少させ、慣行がなければ競合する比較ショッピングサイトがもっと存在したであろうことから、消費者の選択を狭めたと認められる。

4)´確かに商業プラットフォームは比較ショッピングサイトと競合する部分があるが、事業者の間の認識として、商業プラットフォームは労働力を使って製品を販売しており、比較ショッピングサイトの競争相手というよりビジネスパートナーとされている。また、消費者にとっても商品を購入するのが商業プラットフォームであり、価格を比較するのが比較ショッピングサイトという役割分担があり、欧州委員会が市場として商業プラットフォームを除外したことは正当と言える。また潜在的反競争的効果が比較ショッピングサイト市場内においてのみ認められることから、商業プラットフォームの影響は軽微と言える。

5)´欧州委員会はGoogleからのトラフィックだけではなく、直接検索、アプリその他のソースなどを含めて示しており、そしてGoogleの一般検索からのトラフィックがほとんどを占めていることを示している。さらに、Googleの検索結果からのトラフィックの減少をほかの手段では補完できないことも示している14(図表7)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

*14:パラグラフ368~395、401~420、432~459、466~495、501~509、518~543


(C)評価

ここは指針でいえば「一定の取引分野」における「競争の実質的制限」に該当する論点である。特に「競争の実質的制限」があったかどうかは、i)行為者の地位及び競争者の状況、また、ii)潜在的競争圧力で判断される(そのほか、効率性という重要な要素があるが次項を参照)(*15)。

i)における行為者の市場シェアがまず課題となるが、本事案でのシェアとは、あたかも独占的なシェアを持つ一次製品製造事業者が川下事業者へ製品を供給するように、Google検索が生み出す検索に基づくトラフィックのシェアと捉えるのが妥当と考える。上記(B) 5)´にある通り、他からのトラフィックで代替可能性がないことも合わせ、このトラフィックが川下事業者の事業活動に対する絶大な影響力につながっていると考えられる。この影響力は持続的でもあり、競争制限効果が強いと考えられる。

また、ii)潜在的競争相手または競争圧力として、本事案では商業プラットフォームが論点となっている。この点、判決では商業プラットフォームと比較ショッピングサイトの機能・役割、利用者の認識などを挙げて、競争制限的効果を減殺するものではないと認定した(加えて、商業プラットフォームは同一の取引分野に属さないことも明らかにした)。確かに実際に掲載商品を在庫として仕入れて発送し、代金の収受も行う商業プラットフォームと、単に電気通信手段を用いて情報だけを仲介する比較ショッピングサイトでは別の取引分野と見るのが妥当と思われ、判決は首肯できる。


*15:本文で紹介したほかには、需要者の対抗的な交渉力や消費者利益の確保があるが省略する。


(4)Googleの慣行は競争法上正当化できるとの主張

本論点は(b)ハ)効率性の点から正当化できるかにかかわるものである。

(A)Googleの主張

Googleは、一般検索サービスにおける調整アルゴリズムは結果の質を維持するため、競争を促進するものであり正当化されるなどと主張した。また、競合する比較ショッピングサイトの検索結果の評価についてGoogleは判断できないものであるとした(*16)。


*16:パラグラフ544~548、580~583


(B)裁判所の判断

裁判所は欧州委員会がいうように、Googleは競合する比較ショッピングサイトへの不平等な取り扱いを相殺する競争促進的利益を主張できていない。Googleの慣行は価格の上昇や消費者の選択肢の減少を招いている。競合する比較ショッピングサイトの商品選択基準が明確ではない中で、比較ショッピングサイトの検索結果を降格させ、消費者の注意からそらすことはユーザーエクスペリエンスの向上による効率性の向上を生み出すことはできなかったということである。正当化事由は欧州委員会ではなく事業者サイドが立証すべきものであるが、その立証はできていない(*17)。


*17:パラグラフ551〜579、585〜595


(C)評価

指針では前項(3)(C)に記載した指針の「競争の実質的制限」の判断要素のiii)効率性にかかる論点である。効率性の向上が考慮されるのは、指針では(α)行為の効果として効率性が向上し,それがより競争制限的でない他の方法によっては生じ得ないものであり,かつ,(β)当該効率性の向上により,商品の価格の低下,品質の向上,新商品の提供等の成果が需要者に還元され,需要者の厚生が増大するものであることが認められるときとされている。

この点、Googleは首尾一貫した主張の流れとして、Shopping Unitsと一般検索結果は別物であるという前提で効率性があると主張する。しかし、商品検索機能と表示方法の変更は、効率性を確保するというよりは、Google Shoppingへのトラフィックを増加させることへと向けられてきたことは上述の論点のところで述べた通りであり、効率性の確保ためという主張は説得力を欠くと考える。

(5)課徴金を科すことはできないとする主張

Googleは以下の3点から制裁を科すべきではないと主張する。この主張は法の適用ではなく、欧州委員会の法の運用に関するものであるのでGoogleの主張と判決の要点だけを示すこととする。

i)欧州委員会が、品質向上を目的とした行為に対して濫用的だと判断するのは初めてである。ii)欧州委員会は確約計画手続で処理することを決定していた。iii)欧州委員会の行政手続中に否定したGoogleの改善策を命令で求めている(*18)。

裁判所はi)市場において支配的な地位を有する事業者には特別な責任を有するところ、Googleは優越的地位の濫用に該当する可能性のある行為を意図的に行ってきた。したがって欧州委員会は制裁を科すことができる地位にあった。仮に「初めて」であったとしてもそれが制裁を回避すべき理由にはならない。

ii)手続の途中で暫定的に確約計画に着手するという事実は手続途上の暫定的な選択肢に過ぎず、最終的に課徴金を課さないという正確な保証とはならない。iii)これも同様にGoogleが最終的に必要とした行動の変更を、手続途中に要求できなかったからといって、そのような措置をとるように要求する可能性を予見できないとは言えない(*19)。


*18:パラグラフ598〜601
*19:パラグラフ605〜639


おわりにかえて

本判決は、Googleという一般検索サービス市場における独占的地位を有する事業者が、自社サービスを有利に取り扱い、逆に競合するサービスを差別的に取り扱っている事例である。

上述の通り、Googleがその検索結果において、一方でGoogle Shoppingを表示方法や表示位置などで優遇し、他方で競合する比較ショッピングサイトからの結果を調整アルゴリズムによって、目立たなく表示することが、公正な競争から逸脱するものと認定した。

この判断にあたっては3つの要素の認定が特に重要であった。

(1)Googleの一般検索サービスによって生ずるトラフィックが比較ショッピングサービスの事業において重要であること、(2)ユーザーが検索結果の上位の数件の結果にしか興味を有しないこと、(3)比較ショッピングサイト市場におけるトラフィックのうち、大きな割合を占める歪められたGoogleからのトラフィックと、そのトラフィックを埋め合わせる方法がないことという三つの要素が認められるとしている。そして、このような条件のもと、Googleのとった本文で述べたような慣行が競争の低下につながっているとしている。

このような特性はあるものの、大規模な川上事業者が川下事業者に対する排除行為や大規模量販店が小規模の卸売事業者への排除行為に類するものとみることができ、本判決の内容は本文で述べた通り、その結論には賛成することができる。

本判決はオンライン検索サービスというこれまでになかった分野の競争法の適用の判断を示したもので、先例としての価値は高いと思料する。


松澤 登 (まつざわ のぼる)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任

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