不動産投資における物件選びの段階で「新築と中古のいずれに投資するか」という点で迷っている方は多いかもしれません。しかし新築と中古のどちらが投資対象として、優れているかという点に対する画一的な回答はなく万人に共通して最適な投資手法はないといえるでしょう。なぜならそれぞれにメリットやデメリット、合理的な投資方針があるからです。
そのため自分の投資目的に合わせて投資対象を選ぶようにしましょう。本記事では、新築と中古の不動産投資上の違いを3つの観点から比較しつつどのような投資目的のほうがどちらに向いているのかについて解説します。
比較観点①物件価格・家賃の安定性
不動産投資の主なキャッシュポイントは、以下の2つです。
- 物件売却時の値上がり益(キャピタルゲイン)
- 物件保有中の家賃収入(インカムゲイン)
物件選びにおいては、物件価格と家賃を値崩れさせずに安定的に維持できるかが最も重要です。物件価格と家賃の安定性について新築と中古を比較していきましょう。
物件価格の安定性
公益財団法人東日本不動産流通機構が集計したデータによれば2020年に成約した中古マンションの価格(1平方メートルあたりの単価)および下落率を築年数ごとに分類すると以下の通りです。
築年数 | 1平方メートルあたりの単価 | 下落率※ |
---|---|---|
0~5年 | 88万1,600円 | - |
6~10年 | 75万2,800円 | 14.6% |
11~15年 | 62万8,600円 | 28.7% |
16~20年 | 57万4,600円 | 34.8% |
21~25年 | 46万9,300円 | 46.8% |
26~30年 | 31万900円 | 64.7% |
31年~ | 33万3,300円 | 62.2% |
※0~5年の価格を基準とする下落率
築年数の経過に伴い成約価格は下落しています。しかし一定の築年数(築26~30年ごろ)を目安に価格が下げ止まっていることがうかがえるでしょう。一般的に価格の安定性は、新築物件および築年数の浅い中古物件においては高いとはいえず築年数が26年ごろを経過した中古物件においては高いといえそうです。
都心の一等地にあるヴィンテージ物件などの希少性の高い物件は、例外的に新築時からの価格を維持できる場合もあります。そのため価格の安定性は物件の所在地や希少性の高さによって変動し得るでしょう。これらを踏まえると不動産投資をする目的が売却を想定しない超長期保有の方は、建物や設備の耐久性が高い新築物件が向いています。
一方で途中売却による利益を狙った短期ないし中期での保有の方は、価格の下落が落ち着いた中古物件への投資を検討するのが合理的かもしれません。
家賃の安定性
長期的な不動産投資を考えるのであれば売却益よりも家賃収入を主なキャッシュポイントとして重要視する必要があります。なぜなら物件売却時の値上がり益は、売却時のみの一過性の利益で不動産も株式と同様に常に値上がりすることはないからです。三井住友トラスト基礎研究所によれば東京23区における築年数と家賃下落率には、以下のような相関関係があると示唆されています。
築3~10年 | 築11~20年 | 築21年~ | |
シングルタイプ | 約1.7% | 約0.6% | 約0.1% |
コンパクトタイプ | 約2.2% | 約0.9% | 約0.7% |
※アットホーム株式会社のデータを用いて三井住友トラスト基礎研究所が算出
※シングルタイプ:18平方メートル以上30平方メートル未満
※コンパクトタイプ:30平方メートル以上60平方メートル未満
家賃下落率は、築年数が浅い時期ほど高く築年数の経過とともに緩やかになっていることが分かります。このように家賃の安定性は、新築物件および築年数の浅い中古物件においては高いとはいえません。一方で築年数が11年程度以上経過した物件においては高いといえるでしょう。ただし以下のような価値のある物件は、例外的に家賃を維持できる場合もあります。
- 主要ターミナル駅に直結している
- 賃貸住宅の供給が少ない一等地にある
そのため家賃の安定性は、物件の立地条件などで変動するといえるでしょう。不動産投資をする目的が無借金で超長期保有する場合などで一定程度の家賃下落を許容できる方は、最も高い家賃設定から始められる新築物件が向いています。一方で物件価格に占める借入比率が高い場合など家賃下落によるキャッシュフローの悪化リスクを抑えたい方は、家賃下落が緩やかな中古物件への投資がよいでしょう。
比較観点②賃貸需要の旺盛さ
不動産投資は、物件を借りる入居者がいてはじめて完成するスキームとなるため、「長期的かつ安定的に借り手がいるか」が非常に重要です。新築と中古とで賃貸需要の旺盛さがどのように異なるかを測るために、2021年1月に全国宅地建物取引業協会連合会・全国宅地建物取引業保証協会が発表した「住居の居住志向及び購買等に関する意識調査」を参照してみましょう。
同調査の結果によると「住宅を借りるときのポイントはなんですか?」という質問に対する回答の上位3項目と割合は、以下の表の通りです。
項目 | 家賃 | 交通の利便性がよい | 周辺・生活環境がよい |
---|---|---|---|
割合 | 65.7% | 46.3% | 40.6% |
同調査における質問への回答の中で「築年数を重視する」という回答は、4.4%以下でした。そのため新築か中古かで賃貸需要に大きな差は生じないといえるでしょう。築年数が経過してもリノベーションや大規模修繕を適切に行うことで物件の新しさ、清潔感を維持し賃貸需要を保つことができる可能性がある点からも新築と中古の賃貸需要に大きな差が生じないと考えられます。
不動産投資をする目的が長期的な収入源の確保など家賃収入の安定性を重要視する方は、新築・中古を問わず賃貸需要が長期的に旺盛な物件への投資を検討するのが合理的です。賃貸需要が長期的に旺盛か否かを判断するにあたっては、上記の回答結果のように対象エリアで賃貸住宅を探す方の予算の範囲内で交通利便性および周辺・生活環境がよい物件を選定することを心がけましょう。
比較観点③節税効果
不動産投資では「減価償却」という会計上の処理を行うことで節税対策を行うことができます。高所得の会社員や経営者などを中心に節税対策のために不動産投資をする方も少なくありません。不動産投資では、減価償却費という帳簿上のみで処理される経費を計上することで実質的な出費を伴わずに課税所得を圧縮(本処理を「損益通算」といいます)し所得税および住民税を節税することが可能です。
減価償却費は、以下の表のような計算式によって算出され「耐用年数」という期間においてのみ計上できるため、本節税スキームには期間の上限があります。
1年あたりの減価償却費 | |
---|---|
=建物の取得価格×定額法の償却率※ | |
耐用年数 | |
法定耐用年数>築年数の場合 | 法定耐用年数≦築年数の場合 |
=(法定耐用年数-築年数)+築年数×0.2 | =法定耐用年数×0.2 |
※償却率は耐用年数に応じて定められており、「減価償却資産の償却率表」で参照できます。
法定耐用年数とは、建物のように経年とともに劣化する資産の使用可能年数として法的に定められたものです。住宅用建物の法定耐用年数は、以下の表のように構造ごとに分けて定められています。
構造 | 法定耐用年数 |
---|---|
軽量鉄骨造 | 19年 |
木造 | 22年 |
重量鉄骨造 | 34年 |
RC造・SRC造 | 47年 |
建物価格が5,000万円の木造アパートに投資をする場合を例に減価償却費の計上において新築と中古(築25年)でどの程度の差が出るかをシミュレーションしてみましょう。
<新築の場合>
耐用年数
新築の場合、耐用年数は法定耐用年数と一致するため22年となります。
1年あたりの減価償却費
建物価格5,000万円、耐用年数22年、定額法の償却率0.046のため、上掲の表に当てはめると1年あたりの減価償却費は以下の計算式によって230万円となります。
- 5,000万円×0.046=230万円
<中古(築25年)の場合>
耐用年数
法定耐用年数22年、築年数25年のため、上掲の表に当てはめると耐用年数は、以下の計算式によって4年です。
- 22年×0.2=4.4≒4年
※1年未満の端数は切り捨て
1年あたりの減価償却費
建物価格5,000万円、耐用年数4年、定額法の償却率0.250のため、上掲の表に当てはめると1年あたりの減価償却費は以下の計算式によって1,250万円となります。
- 5,000万円×0.250=1,250万円
上記シミュレーションのように築年数が経過した中古物件のほうが短期間に多額の減価償却費を計上できるため、節税効果は大きくなります。新築物件では、減価償却期間を長く取れますが1年間で計上できる減価償却費の金額が小さくなるため、中古物件のような節税効果は見込めないでしょう。
これらを踏まえると不動産投資をする目的が減価償却による節税の方は、短期間で大きく減価償却費を計上できる中古物件への投資を検討するのが合理的かもしれません。
不動産投資の目的に応じて投資物件を選ぼう
不動産投資において新築と中古のいずれの物件に投資をするか迷っている方は、自分の不動産投資の目的から考察してみてはいかがでしょうか。新築にも中古にもメリット・デメリットがあり狙うべきキャッシュポイントも異なります。そのため目的から逆算した投資戦略を立てることで最適な投資対象となる物件が分かってくるでしょう。
(提供:YANUSY)
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