税負担の軽減や非課税措置の特例といった制度は利用できる期間が限られており、定期的に内容が見直されています。2021年12月の税制改正により個人の税負担に関わる大きな変更が生じました。資産形成や資産の効率的な運用を行う場合、こうした制度を賢く利用することが重要となるため、制度の変更を定期的にチェックしておきましょう。

2022年度税制改正大綱の見直しポイント

2022年度税制改正の大綱の個人にかかわる3つの変更点
(画像=Dilok/stock.adobe.com)

2022年度の税制改正において個人の税金にかかわる大きな変更点として「住宅ローン控除の見直し」や「特例で認められていた住宅取得時の資金贈与の非課税措置の見直し」、「大口株主の上場株式の配当金にかかる配当所得の課税特例の見直し」以上3点が行われる見通しとなっています。

多くの人にとって、住宅ローン控除の見直しと住宅取得資金贈与に関する変更は、人生で買い物となるマイホーム取得に関わるため、場合によっては数十万円〜数百万円の差が生じる可能性もあります。

住宅ローン控除制度の変更内容

住宅ローン控除は定期的に制度の見直しが行われているため、入居時期や建築確認を受けたタイミングによって制度内容が異なります。新制度は2025年12月31日までが適用期間となりますが、旧制度と比べ大きな変更が行われており、さらに入居時期が2023年以前と以後でも変化するため注意が必要です。

【住宅ローン控除の見直しによる入居時期と控除内容の違い】

 旧制度2022年〜2023年に入居2024年〜2025年に入居
借入限度額控除期間税額控除率借入限度額控除期間税額控除率借入限度額控除期間税額控除率
新築住宅一般住宅4,000万円13年1%3,000万円13年0.70%適用なし13年0.70%
省エネ基準適合住宅4,000万円3,000万円
ZEH水準省エネ住宅4,500万円3,500万円
認定住宅5,000万円5,000万円4,000万円
中古住宅一般住宅2,000万円10年2,000万円10年2,000万円10年
省エネ基準適合住宅
ZEH水準省エネ住宅
認定住宅3,000万円3,000万円

住宅ローン控除の変更点として、税額控除率が年末借入残高の1%から0.7%に低下しており、さらに借入上限額が全体的に低下傾向となっているため控除の効果が弱まっており、さらに省エネ性能の低い一般住宅は2023年以降は適用が受けられなくなってしまう場合もあります。仮に一般住宅を4,000万円の住宅ローン(元利均等返済、年利1%で35年間固定)を利用した場合の控除額は下表のように約160万円の差が生じることとなりました。取得するマイホームの性能にもよりますが数百万円の差が生じる可能性もあります。

経過年数年末借入残高控除率1%控除率0.7%
1年目¥39,040,637¥390,406¥210,000
2年目¥38,071,634¥380,716¥210,000
3年目¥37,092,899¥370,929¥210,000
4年目¥36,104,331¥361,043¥210,000
5年目¥35,105,831¥351,058¥210,000
6年目¥34,097,301¥340,973¥210,000
7年目¥33,078,640¥330,786¥210,000
8年目¥32,049,744¥320,497¥210,000
9年目¥31,010,514¥310,105¥210,000
10年目¥29,960,841¥299,608¥209,726
11年目¥28,900,625¥289,006¥202,304
12年目¥27,829,757¥278,298¥194,808
13年目¥26,748,130¥267,481¥187,237
控除額合計¥4,290,909¥2,684,075

住宅取得資金等の贈与の特例の見直し

不動産価格の上昇や賃金水準の足踏みなど、以前に比べ自力でマイホームを購入するハードルが高まっており、両親などからのマイホーム取得資金の援助が重要性を増しています。

通常このような援助は「贈与」に該当するため、贈与税の基礎控除110万円以上の贈与を受けた場合は贈与税の課税対象となってしまいます。

しかし、父母や祖父母などの直系尊属から一定の条件で住宅の取得等資金を譲り受けた場合は非課税枠が増加する特例制度が設けられています。本制度も2023年12月31日まで適用期間が延長されましたが、それに合わせて非課税枠や適用条件の見直しが行われています。

【直系尊属からの住宅取得資金等の贈与税非課税枠と適用要件の変更】

旧制度新制度
住宅取得に関する契約締結日2020年4月〜2021年12月考慮せず
省エネ・耐震・バリアフリー性能の高い良質な住宅を取得する場合消費税率10%の場合は1,500万円
それ以外の場合は1,000万円
1,000万円
それ以外の住宅の場合消費税率10%の場合は1,000万円
それ以外の場合は500万円
500万円
旧制度新制度
中古住宅を取得する場合は、次のいずれかの要件に適合すること建築後使用されたことのない住宅改正なし
使用された住宅の場合、取得日から築20年(耐火建築物は25年)以内であること新耐震基準に適合のこと(建築日が1982年1月1日以降の場合は適合とみなす)
使用された住宅の場合、地震に対する安全性にかかわる基準に適合すること改正なし
地震にかんする安全性に適法しない場合、耐震改修を都道府県知事などに申請し、かつ贈与を受けた翌年3月15日までに耐震基準に適合するもの改正なし

住宅取得等資金の贈与に関しても非課税枠の縮小が行われています。贈与税は贈与額が多いほど税率が高くなる累進課税を採用しており、仮に2,000万円の贈与を受け良好な品質の住宅を取得した場合の税負担は以下のように大きく変化します。

【旧制度】
贈与額2,000万円-非課税枠1,500万円-基礎控除110万円=課税標準390万円
納税額=(課税標準390万円✕贈与税率20%)-税額控除25万円=53万円

【新制度】
贈与額2,000万円-非課税枠1,000万円-基礎控除110万円=課税標準890万円
納税額=(課税標準890万円✕贈与税率40%)-税額控除120万円=236万円

旧制度では53万円の贈与税負担でしたが、制度変更により税負担は236万円に増加しており、一括で贈与を行うと手元に残る資金が大きく減少してしまうため、暦年贈与を併用するなどして節税対策を行う必要があります。

大口株主の配当所得に関する課税の見直し

上場した株式の配当金にかかる税金の納め方は、源泉徴収による申告不要制度・分離課税・総合課税のいずれかを選択することができますが、上場企業の株式を3%以上取得している場合、その配当金は総合課税のみとなります。

この3%の判定は大口株主要件とも呼ばれ、持株割合の判定は個人が所有しているものに限られていましたが、今回の税制改正により2023年10月1日以後の配当金は、資産管理会社などで自身が支配している同族会社が所有している上場株式も合算されるようになります。

この改正により、上場株式が3%未満の個人株主でも支配している同族会社名義で同種の上場株式を取得しており、この合計が3%以上となる場合は所得税の総合課税の対象となり、最大約50%の課税が行われるようになるため、持株割合を減らすか同族会社に適合しないようにする対策を行うとよいでしょう。

資産形成には非課税制度などを利用した節税対策が大切

人生で稼得できるお金には限りがあるため、資産形成には支出額を出来るだけ減らすことが重要です。通常の節約は生活レベルの低下などを伴うことが多く、不便さから長続きしないこともあります。しかし、税金に関する支出は非消費支出に区分され自身の生活に影響を及ぼさない節約方法となります。

今回の税制改正では特にマイホームの取得に関する改正が多く成されており、本制度の利用方法によって支出額に数百万円の差が生じる可能性もあります。制度の改正内容をチェックし、各種制度を活用できるようにしていきましょう。

(提供:Incomepress



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