起業する直前の方、起業した直後の方、まさに今不安でいっぱいだろう。2007年1月、私は起業した。当然、私も不安でいっぱいだった。それから16年。起業家としてたくさんの経験を積んできたし、最終的に営業コンサルティングというビジネスモデルで事業展開するに至った結果、様々な起業家の営業活動を見てきた。今日は、そんな私の経験から、不安いっぱいの起業家に今後の道しるべとなるような情報を提供できれば幸いである。
延岡高校、慶應義塾大学経済学部卒業後、新卒生として米系金融機関であるシティバンク銀行入行。営業職として同期で唯一16ヶ月連続売上目標を達成。2007年、日本の営業マーケティング活動はもっと効率的にできるという思いから営業支援・コンサルティング事業を展開する株式会社エッジコネクション創業。ワークライフバランスを保ちつつ業績を上げる様々な経営ノウハウを構築、体系化し、多くの経営者が経営に苦しむ状況を変えるべく各種ノウハウをコンサルティング業、各メディア等で発信中。1200社以上支援し、90%以上の現場にて売上アップや残業削減、創業前後の企業支援では80%以上が初年度黒字を達成。東京都中小企業振興公社や宮崎県延岡市商工会議所など各地で講師経験多数。
目次
1.エンジンを創る
エンジンを辞書で調べるといくつか意味が出てくる。その中の1つに、【力学的エネルギーを継続的に発生させる装置】とある。確かに、エンジンは力学的エネルギーを継続的に発生させ、それにより、自動車や飛行機などは動いている。
私が提示する起業家がクリアしなければいけない第1ステップはこの意味に近い。実際に言い換えると、【現金を継続的に発生させる装置】といえる。
さらに付け加えると、エンジンは、ガソリンなどの原料を消費して力学的エネルギーを発生させている。
よって、正確に言うならば、【日々の労働を継続的に現金に変換する装置】ということになる。
「なんだ、ビジネスモデルのことか。それならもうできている。」
そう思う起業家の方もいるかもしれない。しかし、その認識は「エンジンが動く理屈はわかっている。」程度のものであると認識してほしい。
このような、「理屈がわかっている」程度のレベルで、どれくらいの距離走るかわからない、どれくらいのスピードが出るかわからない、そんな自動車に乗れるだろうか。怖くて乗れないだろう。
しかし、多くの起業家はそんな自動車に自信をもって搭乗し、まだまだエンジンに改良の余地があることを見逃したまま起業家人生をスタートさせているのである。当然、失敗する可能性は高まってしまう。
「ビジネスモデルとビジネスアイディアを混同している」という話はこういうことである。アイディアはアイディアであり、利益を生み出すエンジンではない。起業するには本当のビジネスモデルが必要なのだ。
燃費がわからないとエンジンとは言えない
自動車を購入した人は実感しやすいと思うが、燃費がわからない自動車を買おうとは思わないだろう。購入後にどれだけガソリン代がかかるかわからないし、何より、そんな品質のエンジンを積んでいる自動車に乗るのは怖い。
ビジネスモデルも同じなのだ。
どれだけの労働をするとどれだけの売上が見込めるか、“正確に”見積れるようになって初めてエンジンが完成したといえるのだ。
例を挙げよう。
10件に商談して1件成約することがわかってきた1成約当たり50万円のサービスとする。
10件の商談を行うためには、テレアポをしてアポを取らなければならない。大体丸1日電話して1件のアポイントが取れることもわかってきた。
よって、10件の商談=10日のテレアポが必要となる。
また、10件の商談はその後の見積書提出などの後工程まで入れると10日の工数が必要とわかった。
つまり、テレアポとの合計で20営業日。1ヶ月だ。
よって、1ヶ月の労働=50万円というエンジンが完成したことになる。
もう一例。
30件のウェブアクセスがあると5件の問い合わせがあり、1件成約することがわかってきた1成約当たり月々1万円の年間契約のサービスとする。
30件のウェブアクセスを集めるためには、Googleアドワーズで1件当たり15,000円、合計45万円の広告費が必要なことがわかってきた。
よって、毎月45万円の広告費が必要となる。
また、一度契約が取れるとなかなか離脱しないことが分かったため、1契約あたり最低でも1年分の売上は見込んで良いことがわかった。
よって、45万円の広告費をかければ12万円の売上が見込めるというエンジンが完成したことになる。
いかがだろうか。
最初の例では、1ヶ月の労働というガソリンを投入することで50万円の売上が生まれるエンジンが完成し、2つ目の例では45万円の広告費というガソリンの投入で12万円の売上が生まれるエンジンが完成した。
今、あなたが考えているビジネスモデル(アイディア?)は、「どんなガソリンをどれだけ投入したらどれだけの売上に変わる」という燃費は即答できるだろうか?
エンジン創りは一筋縄ではいかない
実は、先ほどの2つの例のエンジンは、完成してはいるが動かし続けるには燃費が悪すぎる。
1つ目の例は1ヶ月必死に働いて50万円しか生まれないのだ。オフィス家賃や諸経費、自分の給料などを考えるとおそらく赤字だろう。また、研修やコンサルティングなど受注後にサービス提供がある場合、その分の必要時間は含まれていない。
つまり、実際には2ヶ月必死に働いて50万円かもしれない。そうなるともう確実に赤字だ。
2つ目の例は、45万円の広告費に対して12万円しか売上が立たないのだ。黒字化するのは4年後。これを実現するには多額の元手が必要であり、大手資本しか取り組めないビジネスモデルだろう。
このように、最初から完璧なエンジンを創るのは至難の業だ。
おぼろげながら見えてきたエンジンの形を、少しずつブラッシュアップし完成形にするのだ。
10件に1件しか成約が生まれないところを5件に1件にできないか
月々1万円の料金を追加負担が限りなくゼロに近い形で2万円にできないか
実際にエンジン開発に携わるエンジニアが、血のにじむ努力の末に燃費を向上させていくのと同様に、少しずつの改良を積み重ねエンジンの燃費を向上させていくのだ。
2.ガソリンを手軽に入手できるようにすること
エンジンの燃費を改善しようといろいろとアイディアを考えていると、こんな考えも湧いてくるだろう。
・丸1日テレアポして1件しかアポイントが取れないところを2件にできればいいのでは?
・15,000円で1件の問い合わせ獲得のところ、1万円にできればいいのでは?
つまり、売上の燃料となる初回商談をより手軽に入手できれば、燃費が向上したに等しいという考え方だ。これが起業するには乗り越える必要がある2つ目のステップ、【ガソリン入手の簡素化】だ。
少し整理をしよう。以下のように考えると、改善アイディアを考える時に思いつきやすい。
・見込み顧客との初回接触から成約を生み出すまでの業務の流れ→エンジン(燃費が大事)
改善の対象となる数値の例:初回商談からの成約率、成約単価など
・初回接触を生み出すための仕組み→ガソリン(手軽さが大事)
改善の対象となる数値の例:1アポを取るために必要なコール数(メール数)・広告費など
イメージが湧いただろうか?
成約率を上げたり、成約単価を高くしたりするのと同じくらい、1件の見込み顧客との初回接触を取るために必要な労力や広告費を下げることは、ビジネスに大きなメリットをもたらすのだ。
つまり、良いビジネスモデルとは、【燃費の良いエンジン】と【手軽に入手できるガソリン】によって構成されているのである。
実際の自動車がこの2つがあって安全運転が担保されるように、ビジネスもこの2つがあって軌道に乗っていくのである。
3.最後に必要なのが運転手
【燃費の良いエンジン】と【手軽に入手できるガソリン】が完成した。
これにより、かなり高い精度で以下のことが見通せるようになる。
・社員が1人増えるといくら売上が上がるか
・プロモーション予算をいくら上げると見込み顧客との初回接触がどれくらい増えるか
よって、事業計画がより高い精度で組めるようになってくるのである。
そして、ほとんどのビジネスにおいて、事業規模が大きくなるにつれて、それを運営する社員数はよりたくさん必要になってくる。
事業規模に合わせて、事業という自動車を運転できる人を採用し、実際に運転できるようにトレーニングしていかなければならないわけだ。
起業するには乗り越えなければならない3つのステップの最後が、この“採用と教育”である。
・可能な限り安価に採用できる手段をもっているか
・採用した社員が戦力となるためのマニュアルやトレーニング手法が確立されているか
このような点が満たされていないと、採用にコストがかかりすぎてビジネスが大きくならなかったり、採用しても戦力にならずに離職していったりする。
安価な採用手法と精度の高い育成手法の確立が乗り越えなければならない最後の壁なのだ。
社長1人でここまでたどり着いた時の落とし穴
苦労の末、社長1人でここまでエンジンとガソリンを作り上げたとする。
それはそれで素晴らしいことなのだが、その際に落とし穴が存在することがある。
えてして、創業間もない企業において、1番仕事がデキるのは、社長である。
運転手で例えればF1ドライバーのようなものだ。F1ドライバーがいつも乗るマシンは、一般免許のドライバーは到底乗りこなせない。
そうすると、出来上がったエンジンとガソリンで走る自動車(ビジネスモデル)は社長でしか乗りこなせなくなってしまうのである。
・社長は3件に1件成約するけど、一般社員は10件に1件
・社長は30コールに1件アポイントを取るけど、一般社員は100コールに1件
このような事例は枚挙に暇がない。
そのような落とし穴に落ちた場合は、改めてエンジンとガソリンの改良に励むしかない。
逆に、事前に落とし穴を最大限避ける方法も存在する。
それは、エンジンの燃費とガソリンの手軽さを最大限高めておくことである。
あくまで私の経験則だが、社長が運転して毎月100~150万円の粗利が出るくらいにまでビジネスモデルの効率を高めておけば、一般社員が受け継いだとしてもそれなりに利益が出るはずだ。
まとめ
これまで説明してきた3つのステップをまとめる。
ステップ1:エンジン創り
見込み顧客との初回接触から成約までの業務の流れを精査、確立し、どれだけの初回接触があればいくらの売上になるのか見極める。
ステップ2:ガソリン入手の簡素化
ガソリンとなる見込み顧客との初回接触の獲得効率を最大限高める。
※ステップ1がある程度見えてきた段階で、1と2は同時並行で進める。
ステップ3:運転手の採用と育成の仕組化
ステップ1と2で完成した自動車(ビジネスモデル)を回すことができる運転手を可能な限り安価に、可能な限りスピーディーに育成する仕組みを整える。
以上が起業3年目までに達成したい3ステップだ。ぜひ、3年以内に達成し、そこから大企業へと飛躍していってほしい。