自社株の売却は、中小企業のM&Aスキームとしてよく用いられている。今回は自社株を売却する理由やデメリット、手続きなどについて解説する。事業承継で自社株を売却する場合の注意点や自社株の評価方法も紹介するので、売却を考えている経営者はぜひ参考にしてほしい。
目次
自社株を売却する理由2つ
中小企業の場合、経営者が株主を兼ねていることがほとんどだ。オーナー経営者から見た自社の株式を自社株と呼ぶ。上場企業では、自社が発行した株式を自社株または自己株式と呼ぶ。
はじめに自社株を売却する理由から解説していく。
理由1.後継者に事業を承継できる
中小企業の事業承継は、オーナー経営者が自社株を後継者に引き継ぎ、社長の地位を譲り渡すことで完了する。自社株を引き継ぐ方法としては、贈与や相続、売却がある。
親族内の事業承継では、贈与や相続が選ばれることが多い。その一方で従業員への承継やM&Aなど、親族外への事業承継では一般的に売却が選ばれる。
自社株を売却すれば、株主の立場を後継者に承継できる。オーナー経営者は、株式の売却益も得られるので、勇退後の生活にゆとりが生まれるだろう。
理由2.売却益で資金を調達できる
上場企業の場合、資金調達を目的とした自社株の売却が行われやすい。購入時よりも株価が上がれば売却益を得られる。
反対に株価が下がれば、売却損が発生するリスクもあり、タイミングの見極めが重要だ。
自社株を売却するデメリット3つ
自社株を売却するデメリットについて解説する。
デメリット1.売却益への課税
事業承継や資金調達では、自社株を売却して売却益が生じると、税金が課される。
個人が自社株を売却した場合、売却益は譲渡所得となり、一律20%(所得税15%、住民税5%)の税金が発生する。さらに2037年までは、復興特別所得税として所得税の2.1%が上乗せされる。復興特別所得税を加味した税率は20.315%だ。
株式等を譲渡した場合の譲渡所得は、原則として申告分離課税である。給与所得や事業所得などほかの所得と合算して課税される心配はない。
ただし、会社が自社の株式を取得するときは、株主が配当金を受け取ったとみなされて総合課税となる。総合課税になると、給与所得や事業所得などほかの所得と合算して課税される。
総合課税では、所得が大きくなるほど税率が上がる累進課税のルールが採用されており、所得税の最高税率は45%だ。住民税とあわせると約55%になる。
デメリット2.自社株の分散
中業企業のオーナー経営者が、事業承継を目的として後継者に自社株を売却するのは問題ない。
しかし、事業承継とは異なるタイミングで、資金調達等を目的として安易に自社株を売却すると、自社株が分散してしまうリスクがある。最悪の場合、オーナー経営者の経営権が奪われかねない。
事業承継の際に分散した自社株の取り扱いに関する問題も生じる。オーナー経営者に自社株を集約して後継者に引き継ぐ方法もあるが、株主が事業承継に同意しないとトラブルになりかねない。
デメリット3.株価の下落
上場企業が大量の自社株を売却すると、市場に出回る株式が増えて需給のバランスが崩れ、株価下落の可能性が生じる。
2021年11月には、テスラ社CEOのイーロン・マスク氏が多額の自社株を売却し、同社の株価が大きく下落してメディアを騒がせた。
テスラ社の株価はその後回復したが、一般的に株価は必ずしもすぐに回復するとは限らない。自社株の売却には慎重な判断が求められるといえよう。