ワラントが発行される理由
ワラントは、低金利で資金調達したい企業がインセンティブとして社債につけることが多い。企業にとっては低金利で資金調達できるメリットがあり、投資家には値上がりの可能性の高い株式を割安に購入できるチャンスとなる。
また、M&Aにおいては、業績が振るわない企業を買収し、業績回復後に権利行使して出資比率を上げるといった活用法も想定される。
ワラントの支払トラブルに関するニュース
2021年11月、アメリカの大手銀行JPモルガン・チェースが、同じくアメリカの電気自動車大手テスラのワラントをめぐり、約185億円の支払いを求めて提訴したことが報じられた。
JPモルガン・チェースは、2014年にテスラのワラントを購入し、2021年に期限を迎えた。テスラの株価は2020年から2021年にかけて急騰したこともあり、行使価格を上回っていたことから、テスラはJPモルガン・チェースに約束した額を支払った。
しかし、ここで支払金額をめぐってトラブルが生じた。
もともと、事業売却など重要な取引を発表した場合、ワラントの価値に影響する可能性があることから、JPモルガン・チェースが行使価格を変更することが認められていた。
テスラCEOのマスク氏が、2018年にテスラの非公開化をほのめかすツイートをしたことから、JPモルガン・チェースは行使価格を引き下げた。その後、テスラが非公開化することはないという見方に落ち着き、JPモルガン・チェースは行使価格を引き上げたものの、当初の水準より低く設定した。
テスラは当初の行使価格に基づいた額を支払ったが、変更後の行使価格に基づいて計算された差額分については支払いを拒否している。
JPモルガン・チェースは行使価格の引き下げを妥当だと主張し、テスラは行使価格の引き下げは不当だとしている。どちらも譲らず、法廷闘争に至
った。
ワラント債とは?
ワラントの仕組みを活用した社債に、「ワラント債」がある。ここでは、ワラント債の意味や種類、転換社債との違いについて解説する。
ワラント債とはどういったものか
ワラント債とは、通常の社債にワラントをつけた社債のことだ。ワラント債では、社債権者には新たに発行される株式を引き受ける権利が付与される。社債部分は、通常の社債と同様に元利金の支払いが保証されている。同時に、権利行使期間に一定の価格(権利行使価格)で発行会社の新株を購入できる。
ワラント債は、日本語では「新株引受権付社債」と呼ばれる。ワラント債の英名は「warrant-linked bond」「bond with warrant」であり、略して「WB」と表記されることが多い。
ワラント債の種類
ワラント債には、社債からワラント部分を分離できる「分離型」と、分離できない「非分離型」がある。分離型のワラント債は、ワラント部分だけを売却して売却益を得ることができる。
非分離型のワラント債は、「転換社債」と一緒に2002年に「新株予約権付社債」に統一されたが、分離型のワラント債は、新株予約権付社債の範囲には入らないものとされた。なお、現在のワラント債は「分離型」が一般的だ。
ワラント債と転換社債の違い
転換社債とは、「転換社債型新株予約権付社債」の略称で、事前に決められた条件で株式に転換できる権利が付いた社債のことだ。転換社債の英名は「Convertible Bond」で、略して「CB」と表記されることが多い。
転換社債は、株価が行使価格を上回れば株式に転換して売却益を得ることができる。逆に、株価が行使価格を上回らなければ、債券として定期的に利息を受け取って満期に額面の償還を受けられる。そのため、株価の下落リスクを抑えられることがメリットだ。
転換社債も非分離型のワラント債とともに、2002年に「新株予約権付社債」に統一されている。
転換社債では債券を株式に転換するが、ワラント債では権利行使時に新株を購入する資金を払い込む必要がある。一方、ワラントの権利行使後も社債は手元に残るため、引き続き利息を受け取って満期に額面の償還を受けることができる。