3 ―― 食費の変化~家での食事に手軽さ志向と上質志向の両面、コロナ禍2年目は手軽に質を高めたい
前節にてコロナ禍で外食需要が中食シフトしている様子が見られたが、前述の通り、テイクアウトやデリバリー以外の中食や内食の変化については十分に捉えられていない。よって、本節では、総務省「家計調査」を用いてコロナ禍における食料品目の支出額の変化に注目する。
二人以上世帯の食料品の品目別年間支出額を見ると、コロナ前の2019年と比べて、コロナ禍の2020年や2021年では外食の食事代や飲酒代が大幅に減少する一方、穀類や魚介類、肉類、乳卵類、野菜・海藻といった各種食材に加えて、油脂・調味料の支出額が軒並み増加しており、外食が減り、内食が増えている様子がわかる(図表 - 5)。
また、弁当などを含む主食的調理食品や冷凍調理食品のほか、インターネットを利用した購入では出前の支出額が大幅に増加しており、中食も増えている。
なお、食材について詳しく見ると、パスタやカップ麺などの手軽に食事ができる品目に加えて、生鮮肉やチーズなどの比較的高級な品目や小麦粉の支出額が増加しており、コロナ禍で外食を控え、家での食事機会が増えることで、手軽に食事をしたいという志向と質を高めたいという志向の両面が存在する様子がうかがえる。
なお、インターネットを利用した食料品や飲料の支出額はコロナ前を大幅に上回って増加している。前稿の買い物手段のデジタルシフトで見た通り、食品関連のEC化率は他分野と比べれば低位であるものの、世帯当たりの支出額として見れば2021年ではコロナ前の約2倍に増加している。
さらに、コロナ禍の2020年と2021年の違いに注目すると、2021年では2020年と比べて外食の食事代や飲酒代が一層減少しているが、各種食材(特に小麦粉やパスタ)の支出額も全体的に減少している。一方で、冷凍調理食品を含む調理食品に加えて、インターネットを利用した出前の支出額などは2020年と比べて増加している。また、食事代と比べて飲酒代が大幅に減少することで、酒類ではチューハイ・カクテルなどで支出額が増加している。
つまり、コロナ禍2年目の2021年では、外食控えの傾向は一層強まるものの、コロナ禍1年目と比べると内食よりも中食需要が強まっており、手軽さを求める志向がより高まっている様子がうかがえる。ただし、食事の質よりも手軽さを重視するということではなく、食事の質を高める手段として、自炊で時間をかけて調理をするよりも、出前や調理食品も活用する傾向が強まったのではないかと考える。
経済産業省「令和2年度電子商取引に関する市場調査」では、ミールキットなどの宅配サービスは「近年共働き世帯や子育て世帯の『時短でも質の高い食事を楽しみたい』というニーズをとらえて売上を伸ばしていた(中略)これまでは、購買時間の節約や家事の簡素化、高齢者による買い物負担軽減といった社会的背景からネットスーパーの利用が促進されてきたが、新型コロナウイルス感染症拡大下で新たな需要を開拓した」と述べている。
なお、全国一斉休校の時期があった2020年と異なり、2021年では各種学校では、地域の感染状況に応じて分散登校やオンライン授業で工夫しながら運営されていたため、学校給食費はコロナ前の状況に回復している。
4 ―― おわりに~コロナ禍でコミュニケーションを生む「余白時間」が大幅減、意識的に設けることが未来に
コロナ禍で食事を介したコミュニケーションの場が大幅に減っている。日本国内では昨年秋から年末にかけては感染者数が抑えられた状況が続いていたが、忘年会や新年会の予定がある割合は1~2割にとどまっていた(図表 - 6)。また、予定がある場合でも、相手が職場の上司や同僚の場合は4人以下の少人数が約半数を占めており、日本人の国民性なのか、感染状況が改善している時期であっても慎重な態度が根強く残っていた。
各種会合が減った状況は、もともと飲みニケーションを好まない若者や、夜に開催される飲み会には参加しにくい子育て中の社員の立場などからすれば、ほっとする部分もあるだろう。しかし、積極的に会いたい相手とすら制約が課される状況には、強い寂しさも感じるのではないか。また、誰しも、これから親交を深めたい相手との機会を作る場として、食事はよいきっかけになりやすい。
コロナ禍で食事のテイクアウトやデリバリーもさることながら、ネットショッピングやオンライン会議などの利用が浸透し、多くの場面で効率化が進展している。商品・サービスの利便性や質の向上は、消費者にとって歓迎されることだが、効率化によって失われたものもあるだろう。それは、コミュニケーションの潤滑油となる「余白の時間」だ。
会議終了後に自席へ戻りながらするちょっとした雑談、たまたま休憩時間が合った同僚とのランチタイム、会計の際にレジでする店員とのちょっとした会話など、コロナ禍で人間関係の潤滑油となる余白時間がそぎ落とされている印象がある。
Googleでは勤務時間の20%を、3Мでは15%を業務以外のことに費やすことでイノベーションが生まれてきたことは有名な話だ。余白時間は自由な発想を促し、新たな価値を創造する原動力となる。
今後、新型コロナウイルスを季節性のインフルエンザ並みに制御可能となれば、余白時間は自ずと再び発現し出すのかもしれない。しかし、依然として先行き不透明な中では、余白時間を意識的に設けることは、事業経営の観点でも、一人の生活者としても希望を生む未来につながるのではないか。
久我 尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員
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