1 ―― はじめに~「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」で見るコロナ禍の食生活の変容は?

前稿では、コロナ禍における行動変容が顕著にあらわれる領域として、まず、買い物手段の変容について報告した。コロナ前から消費者のネット志向が高まる中で、リアル店舗からネットショッピングの利用へとデジタルシフトは進行していたが、コロナ禍で外出が自粛され、非接触志向が高まることで買い物手段のデジタルシフトは加速している様子が見てとれた。

本稿では、具体的な行動変容の第二弾として、食生活の変容について捉える。前回と同様、ニッセイ基礎研究所の「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査*1」のデータを用いるとともに、適宜、総務省「家計調査」などの政府統計で補完していく。


*1:調査対象は全国に住む20~74歳の男女約2,500名(第4回までは20~69歳の男女約2,000名)、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用。


2 ―― 食事サービス利用の変容~コロナ禍で外食需要の中食シフト、高齢層では他年代より内食シフト

2 ― 1|全体の状況~コロナ禍で外食需要の中食シフト、足元でテイクアウトやデリバリーの利用増は鈍化

まず、全体の状況を確認する。コロナ前(2020年1月頃)と比べた食事サービスの利用の増減をたずねると、外食(飲食店の店内で飲食)では減少の割合の高さが目立つ(図表 - 1)。

減少層(「減少」+「やや減少」)は、国内で初めて全国に緊急事態宣言が発出された2020年4月(56.2%)から経済活動が再開した6月(53.7%、4月より▲2.5%pt)にかけてやや低下した。

しかし、その後、変異種による感染拡大下においては、緊急事態宣言の発出地域は限定されたものの、度重なる飲食店への時短要請や酒類の提供が原則禁止された時期もあったため、2021年7月(65.8%)や12月(64.4%)の減少層は6割を超える。

一方で、利用していない割合は当初より低下し(2020年4月24.9%→2021年12月11.2%で▲13.7%pt)、コロナ禍でまったく外食をしていなかった層で利用再開の動きもある。

食生活の変容
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、中食の利用は増加の割合の高さが目立つ。増加層(「増加」+「やや増加」)は、テイクアウトでもデリバリーサービスでも2020年4月から6月にかけて一旦低下するものの、その後は再び上昇し、2021年12月ではテイクアウトは31.2%、デリバリーは14.4%を占める。なお、増加層は、テイクアウトでは2021年7月調査(31.7%)から、デリバリーでは2020年9月調査(14.2%:図表 - 1からは省略)から横ばいで推移している。

なお、中食需要については、利便性重視志向の高い共働きや単身世帯が増えることで、コロナ前から拡大傾向にあった*2。さらに、コロナ禍で外食が控えられる中で、飲食店ではテイクアウトやデリバリーへの対応を増やし、消費者にとって中食の選択肢が広がりサービスとしての魅力が高まったことで、中食需要は一層拡大している。

テイクアウトやデリバリーの増加層が横ばいで推移していることから、外食需要の中食シフトの進行状況は鈍化しているようだが、特にデリバリーについては、現在のところ、若いほど利用率が高く(後述)、都市部ほど配達網が充実しているなど、需要と供給に偏りがある影響もあるだろう。また、消費者の利用できる中食手段にはテイクアウトやデリバリーだけでなく、惣菜や弁当、冷凍食品などもあるため、次節では総務省「家計調査」を用いて食料品目の支出額の変化を詳しく見ていきたい。

ところで、コロナ禍で当初話題となった、オンライン飲み会・食事会については、利用していない割合が各調査時点で7~8割を占め、利用者は一部にとどまる。なお、利用者層(全体から利用していない割合を差し引いた値)は2021年3月(26.9%)で最も多く、次いで僅差で2020年12月(25.9%)や2020年9月(25.7%)が続き、2021年7月以降は横ばい(22%前後)推移している(図表 - 1では2020年9月と2021年3月は省略)。


*2:久我尚子「年代別に見たコロナ禍の行動・意識の特徴~食生活編」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2020/12/16)


2 ― 2|年代別の状況~若い年代ほど外食需要の中食シフト、高年齢層は他年代より内食シフト

年代別に見ても、コロナ禍当初からの推移は全体とおおむね同様である。概略を述べると、外食の減少層は、すべての年代で経済活動の再開を受けて一旦低下したものの、変異種による感染拡大を受けて上昇し、2021年12月では20歳代は2020年4月と同程度、30歳代以上は2020年4月を上回る。

また、テイクアウトの増加層は、いずれの年代でも2021年7月以降、横ばいで推移しているが、デリバリーについては20歳代や40歳代では、全体で横ばいで推移し始めた2020年9月以降も僅かに伸びている。

一方、オンライン飲み会・食事会の利用者層は、いずれの年代でもピーク時より若干減り、横ばいで推移している。

直近の2021年12月のデータについて年代別に見ると、外食の減少層の割合は感染による重篤化リスクの高い高年齢層ほど多い傾向がある(図表 - 2(a))。一方、テイクアウトやデリバリーの増加層や利用者層は若いほど多い傾向がある(図表 - 2(b)・(c))。

つまり、高年齢層ではコロナ禍で外食控えの傾向が強いが、他の年代ほど中食利用が増えているわけではない。よって、外食需要の中食シフト傾向は外食控え傾向が強いからといって、高年齢層で必ずしも顕著ではなく、むしろ若い年代の方が強くあらわれている。高年齢層では中食というよりも内食(自炊)にシフトしているのだろう。

食生活の変容
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2 ― 3|ライフステージ別や職業別の状況~フルタイム勤務の多い在宅勤務雇用者や専業主婦で中食需要増

既出レポート*2にて、テイクアウトやデリバリーの増加層には、小学生以下の子どものいる共働き夫婦が比較的多く、家事にかけられる時間の制約などが関係ある様子が見て取れた。

あらためて本稿でも、ライフステージ別にテイクアウトやデリバリーの利用状況を見ると、テイクアウトの増加層は第一子誕生(50.0%、全体31.2%より+18.8%pt)や第一子小学校入学(43.8%、+12.6%pt)、第一子中学校入学(42.7%、+11.5%pt)、第一子大学入学(40.0%、+8.8%pt)で4割を超えて多く、デリバリーの増加層は第一子誕生(26.2%、全体14.4%より+11.8%pt)や第一子小学校入学(21.6%、+7.2%pt)、第一子中学校入学(19.5%、+5.1%pt)で約2割を占めて多い(図表 - 3(a)・(b))。また、利用者層も第一子誕生を中心に多い傾向がある。

つまり、コロナ禍で小学生以下の子育てに手のかかる世帯を中心に中食需要は増している。

職業別に見ると、ライフステージ別ほど顕著な差ではないが、テイクアウトの増加層は正規雇用者(管理職以上)(38.6%、全体より+7.4%pt)や正規雇用者(一般)(34.4%、+3.2%pt)、非正規雇用者(31.9%、+0.7%pt)などの雇用者に加えて、専業主婦・主夫(32.5%、+1.3%pt)で3割を超えて多く、デリバリーの増加層は学生(23.7%、全体より+9.3%pt)や正規雇用者(管理職以上)(20.8%、+6.4%pt)、正規雇用者(一般)(18.9%、+4.5%pt)で約2割を占めて多い(図表 - 3(c)・(d))。また、利用者層も正規雇用者(管理職以上)を中心とした雇用者で多い傾向がある。

つまり、コロナ禍で雇用者を中心に中食需要が増しているが、職場での昼食や飲み会、会食などの外食の機会が減り、家での食事の機会が増えたことで手軽に食事をとりたい需要が増していることに加えて、家族全体で家での食事の機会が増えたことで専業主婦の家事負担が増した影響があげられる。

食生活の変容
(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、就業者について、在宅勤務の利用・非利用別にテイクアウトやデリバリーの利用状況を見ると、増加層は、テイクアウトでは在宅勤務利用者(33.7%)が非利用者(31.7%)をやや上回り(+2.0%pt)、デリバリーでは在宅勤務利用者(23.2%)が非利用者(11.0%)を10%pt以上上回る(+12.2%)(図表 - 4)。また、利用者層は、テイクアウト(在勤務利用者:77.7%、非利用者:66.6%)でも、デリバリー(59.3%、37.5%)でも在宅勤務利用者が非利用者を10%pt以上上回る。

なお、在宅勤務利用者ではパートタイム・アルバイトなどの非正規雇用者が14.3%の一方、非利用者では39.9%を占めて2倍以上高い。

つまり、コロナ禍で雇用者の中食需要が増しているが、特にフルタイム勤務の多い在宅勤務利用者で需要が増しており、家事の時間短縮につながりやすいデリバリーの利用に顕著にあらわれている。

食生活の変容
(画像=ニッセイ基礎研究所)