会社役員と従業員の平均年収は、企業によってはかなりの隔たりがある。そのこと自体は、良いとも悪いとも言えないが、上場企業の場合、最大でどのくらいの格差があるのだろうか。
上場企業の中で1位の企業は59.85倍の差
東洋経済データ事業局が作成した「社員と役員の年収格差が大きい会社ランキング」の最新版(2022年1月発表/上場企業対象)によれば、最も年収格差が大きい企業では60倍近い開きがあり、格差が20倍を超える企業は25社に上っている。
以下がそのランキングの上位10社のデータだ。
1位になったのは、携帯電話の販売代理店などを展開する「トーシンホールディングス」で、59.85倍だった。2位はオンラインゲーム事業を手掛ける「ネクソン」で54.01倍となっている。製薬大手の「武田薬品工業」が49.96倍で3位となった。
上場企業の役員報酬の金額は、どうすれば調べられる?
もし、あなたが勤務している企業が上場企業であれば、会計年度ごとに公表されている有価証券報告書を読むと、取締役などがどのくらいの役員報酬を受け取っているのか、知ることができる。
例えばトーシンホールディングスの場合は、最新の有価証券報告書は2021年7月31日に公表された「第35期有価証券報告書」だ。このデータは、同社の公式サイトの以下のURLから閲覧することができる。
▼第35期有価証券報告書|トーシンホールディングス
https://www.toshin-group.com/wp/wp-content/uploads/f7f7d5ec1dfa3377d690070520bca4dc.pdf
有価証券報告書の34ページ目を見ると、「役員区分ごとの報酬等の総額、報酬等の種類別の総額及び対象となる役員の員数」という欄があり、「取締役(社外取締役を除く。)」の報酬額の総額は12億3,392万6,000円、「対象となる役員の員数」は5人となっている。
つまり、同社の取締役の役員報酬は1人平均で2億4,678万5,200円となる。この金額を同社の従業員と比較したい場合は、有価証券報告書における「従業員の状況」という欄の「平均年間給与」を見ればいい。8ページ目に412万2,713円と記載がある。
役員報酬の1人当たり平均額である2億4,678万5,200円を、従業員の平均年収である412万2,713円で割ると、東洋経済データ事業局が公表したランキングのデータの通り、59.85倍という数字が弾き出される。
アメリカの社長・CEOの報酬は日本と桁違い
役員報酬の金額と従業員の平均年収は、ここまで差があって良いものなのだろうか。結論から言えば、良いとか悪いとかの問題ではない。従業員の賃金水準は労働基準法などに違反してなければ問題ないし、役員報酬の金額に天井はないからだ。
では、日本の役員報酬は世界においては高めなのか、低めなのか。結論から言えば、アメリカやイギリス、ドイツ、フランスと比べるとその水準は低い。大手会計事務所のデロイトトーマツグループが2021年7月に発表したデータを参照してみよう。
社長・CEO報酬額の中央値で日本とアメリカを比較すると、アメリカが日本の約13.1倍となっており、経営陣と従業員の年収の格差ははるかに大きい。
「格差が凄い=ブラック企業」ではない
もしあなたが上場企業の代表者であれば、役員報酬についてどのように考えるだろうか。
従業員の平均年収とあまり差をつけなければ、従業員から好感を持たれるかもしれない。しかし、役員報酬が低ければ会社幹部のモチベーションは上がりにくいだろう。つまり、格差を小さくすることも、格差を大きくすることも、一長一短であると言える。
お国柄によっても異なってくる。前述の通りで、アメリカの場合は従業員の平均年収と役員報酬の間に大きな隔たりがあるのは、もはや普通のことだ。
「役員報酬と従業員の平均年収の格差が凄い……」と聞くと、何となくブラック企業だと感じるかもしれないが、短絡的にそうとは言えないということを、知っておいてほしい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)