この記事は2022年4月22日にSBI証券で公開された<株価急落!?>インフレは長期化も? 株価上昇が続きそうな銘柄は?を一部編集し、転載したものです。


株価
(画像=picture cells/stock.adobe.com)

2022年4月第3週(18日~22日)は株価が大きく上下に振れる不安定な展開でした。日経平均株価は4月19日(火)~4月21日(木)に3営業日続伸し、合計で753円上昇しましたが、4月22日(金)は447円安となりました。東京株式市場は、ウクライナ情勢を横目にみながら、インフレや金利上昇に対し、神経質な展開が続いています。

今後は多くの国で、利上げによって、インフレを巡航速度の範囲内に収め、景気悪化を防げるかどうかが注目点になりそうです。しかし、ウクライナ・ロシア間の戦争を契機に、世界で多くのサプライチェーンは寸断され、様々な商品について供給不足が続く可能性がありそうです。

そこで、今回の「日本株投資戦略」では、これまでインフレが進行する中で、株価が上昇してきた銘柄をチェックするとともに、今後さらにインフレが長期化した場合、株価が上昇しそうな銘柄について投資ポイントなどを踏まえ考えてみました。

目次

  1. 2022年、インフレに強い銘柄のパフォーマンスは?
  2. 「インフレ長期化」で株価上昇が続きそうな銘柄は?
    1. INPEX(1605)―― 原油・天然ガスなど資源開発国内最大手で、原油価格上昇が追い風
    2. 丸紅(8002) ―― 2022年3月期は金属分野が原料炭の好調でけん引中。食料・アグリ事業にも期待

2022年、インフレに強い銘柄のパフォーマンスは?

2022年は年初から、インフレ進行が懸念され、金利が上昇する展開でした。WTI原油先物価格(4月20日時点)は年初来で36.6%上昇し、世界的な商品市況の値動きを示すCRB商品指数も年初来で32.2%上昇しました。米10年国債利回りは昨年末(2021年)に1.51%でしたが、2022年1月に一時1.9%台まで大きく上昇し、4月20日(水)には2.83%まで急上昇しました。

統計的に、インフレに強いと期待される銘柄はどんな特徴を持っているのでしょうか。また、実際に、インフレが進行する中で、どのような銘柄が上昇したのでしょうか。

図表1は、CRB商品指数との相関係数が高い順に日経平均採用銘柄を並べたものです。INPEX(1605)、三井物産(8031)、住友商事(8053)、丸紅(8002)の順となっており、鉱業や卸売(その中でも総合商社)などが、統計的にインフレに強いと期待されています。ちなみに、2022年の日経平均株価は4月20日(水)現在、昨年末比5.5%下落しています。

インフレに強いとみられる銘柄とその株価パフォーマンス(日経平均採用銘柄)
(画像=SBI証券)

しかし、同期間にINPEXの株価は64.8%も上昇し、日経平均採用225銘柄の中で第3位の上昇率となっています。また、CRB商品指数との相関係数で第2位~第4位の卸売も、年初来の株価上昇率が225銘柄中20位以内にすべてランクインしています。「インフレに強いと期待されていた銘柄が、期待通りに上昇した」というのが、2022年相場のここまでの特徴と言えるかもしれません。

今後はどうなるのでしょうか。ポイントとなるのがFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策であると考えられます。現在、市場では、

1:2022年内残り6回のFOMC(米連邦公開市場委員会)で政策金利引き上げ予想は0.5%×3回・0.25%が3回、または0.5%×4回・0.25%が2回

2:QT(量的引き締め)については5月開始で、最大月950億ドル規模まで拡大

という内容まで、おおむね織り込んでいるとみられます。

債券市場では4月1日(金)に、2年国債利回りが10年国債利回りを上回る(終値ベース)逆イールドが発生し、1~2年後の景気後退が示唆されました。金利上昇が住宅市場に陰りをもたらしているデータも示されています。

ただ、原油価格をはじめとする商品市況の高騰やウクライナ情勢の悪化等を背景に、インフレ高進が収まる兆しは乏しく、景気減速・後退と物価上昇が同時に進む「スタグフレーション」に陥る危機は去っていないと考えられます。

「インフレ長期化」で株価上昇が続きそうな銘柄は?

前項でご説明したように、インフレは当面続き、「スタグフレーション」の懸念が付きまとっています。したがって、インフレ長期化の可能性を頭の片隅に入れたポートフォリオの構築が求められそうです。

なお、ロシアとウクライナの戦争が休戦や停戦などに向かった場合、世界的なサプライチェーンの分断に対する懸念が後退し、一時的にインフレ懸念が縮小する可能性もあります。ただ、休戦や停戦の場合はその条件が問題で、ロシアへの経済制裁解消や縮小に向かう内容にならない限り、本質的なインフレ懸念の解消につながらない可能性もありそうです。

図表2は、図表1の日経平均採用銘柄のうち、昨年来の株価上昇率が20位以内の銘柄を、その株価上昇率順に並べたものです。インフレ懸念が高まる中、CRB商品指数との相関関係が高いにもかかわらず、株価があまり上昇しなかった銘柄は、他に銘柄固有のリスクがあるのかもしれません。図表2の銘柄は、「インフレに強いと期待され、実際のインフレ局面でも株価が上昇した銘柄」であると考えられます。

インフレに強いと期待され、実際に株価が上昇してきた10銘柄(日経平均採用銘柄)
(画像=SBI証券)

INPEX(1605)は、インフレに強い銘柄と期待されており、実際の株価上昇率も日経平均採用銘柄で上位となっています。SBI証券企業調査部も最近レポートを執筆しており、後段で改めてご紹介します。

日揮ホールディングス(1963)は業種名に「建設」とありますが、ゼネコンや住宅と異なり、建設の対象は発電所や工場等の生産設備等であり、千代田化工建設(6366)等とともに「エンジニアリング企業」と称されます。原油価格や商品指数と連動しやすいのが特徴です。

住友金属鉱山(5713)は非鉄金属大手で、銅・ニッケルを製造しています。ニッケル相場に連動しやすいという特徴がありますが、ニッケル相場(LME市場・先物3カ月物)は2020年24.9%上昇の後、2021年も61.4%上昇(4月20日現在)しており、これが追い風になったとみられます。

ちなみに、鉄とニッケルの合金であるフェロニッケル大手の大平洋金属(5541)もニッケル相場と連動しやすくなっており、年初来の株価上昇率(4/ 20現在)は86.5%に達し、日経平均採用銘柄でトップ(ただし、図表1の範囲外)でした。

IHI(7013)はインフレに強いことに加え、「防衛関連」としても注目された可能性があります。同じ防衛関連の三菱重工(7011)も相関係数が20位より下であったため図表1にありませんでしたが、年初来の株価上昇率(4/20現在)は65.4%と、値上がり率は日経平均採用銘柄の中で第2位でした。ウクライナ・ロシアの戦争激化を背景に、世界で防衛予算が増額される傾向です。

この他、商社株については、全般的に資源・エネルギー価格の上昇が追い風になりやすく、インフレには強いと考えられます。ただ、個別には強みを持つ分野が個々に異なり、たとえば丸紅(8002)は銅や穀物、住友商事(8053)は北米等の鋼管事業、三井物産(8031)は鉄鉱石、原油・ガスに独自の強みがあるといわれています。

INPEX(1605)―― 原油・天然ガスなど資源開発国内最大手で、原油価格上昇が追い風

原油・天然ガスなど資源開発で国内最大手

資源開発の国内最大手です。原油・天然ガス生産では世界中堅クラスに位置しています。2006年4月に国際石油開発と帝国石油による共同持株会社「国際石油開発帝石ホールディングス」が設立されました。2008年10月には傘下の国際石油開発と帝国石油を吸収合併しました。2021年に商号を国際石油開発帝石からINPEXへ変更し、現在に至っています。

権益取得から、探鉱、生産、製品販売に至るまでグローバル規模でエネルギー供給を担っています。新規開発に積極的です。筆頭株主は経済産業大臣(保有比率18.9%)で国策会社の側面があります。

SBI証券 企業調査部は「買い」でカバレッジを開始

SBI証券・ 企業調査部は4月20日(水)に当社レポートを作成し、目標株価2,000円、投資判断「買い」でカバレッジを開始しました。

原油価格上昇によって業績改善が見込まれることに加え、増配を中心に株主還元に前向きなこと、長期戦略として「ネットゼロカーボン」戦略を強化していることなどがプラス材料となっています。

SBI証券・企業調査部 では、2022年12 月期連結当期利益を 4,660 億円(前期比 109%増)と予想しています。原油価格上昇およびネット生産量拡大が寄与すると予想されます。また、2023年12 月期連結 当期利益は 5,040 億円(同 8%増)と予想しています。ネット生産量が中東、オーストラリア のプロジェクトにおける増産での増益を予想しています。

▽株式会社INPEXの値動き

INPEX(1605)
(画像=SBI証券)

*期間:2021年10月27日~2022年4月22日10時30分時点(日足)
*当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
*上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

丸紅(8002) ―― 2022年3月期は金属分野が原料炭の好調でけん引中。食料・アグリ事業にも期待

食料、アグリ、金属等幅広く展開

大手総合商社の一角を形成しています。売上構成比(2021年4月~12月期)は、アグリ事業47.9%、食料18.3%、エネルギー7.7%、化学品6.6%、金属5.2%ほかとなっています。

2月3日(木)に発表された2021年4月~12月期の売上高は6兆2,183億円(前年同期比35.1%増)、純利益3,274億円(同102.2%増)と大幅な増収・増益となりました。

売上高は前年同期比で1兆6千億円超増えました。9千億円超増えたアグリ事業の他、食料事業、化学品、エネルギー、金属などでも大幅に増えました。

利益面では、オーストラリアの原料炭事業の好転で、金属事業が1,338億円(前年同期比3.8倍弱)の純利益を稼ぎ出したことがけん引役となりました。他にはアグリ、食料、エネルギー分野も貢献しました。

会社側はこの好決算を受け、2022年3月期の予想純利益を従来予想の3,500億円から4,000億円に上方修正しました。さらに予想年間1株配当については51円から58円に増額しました。

資源エネルギー、食料分野での供給不足に対応も

当社は、ロシアにおける石油・天然ガス・プロジェクト「サハリン1」に権益を有しています。「サハリン1」「サハリン2」プロジェクトからは、欧米の主要企業が撤退を表明しており、今後、当社を含む日本企業も撤退の方向になる可能性があります。そうした中、当社はロシア事業の縮小を発表(4月21日)しています。

「サハリン1」には我が国の「サハリン石油ガス開発」が30%出資しており、「サハリン石油ガス開発」には政府が50%、当社が12%出資しています。仮に「サハリン1」から撤退となった場合は、当社に損失が生じる可能性があります。

ただ、仮に「サハリン1」から撤退となった場合、権益が中国に売却される可能性が強まり、結果的に制裁強化につながらないとの見方もあります。このため、日本政府を含む日本勢が権益を維持する可能性も残っています。また、当社のロシアへの投融資残高は249億円(2021年3月末)とみられ、コントロール可能な枠内とみられます。

ロシア・ウクライナ問題の長期化は資源エネルギー・食料分野などでいっそうの供給不足を招く可能性があり、むしろ当社が活躍できる余地が広がる可能性もありそうです。

▽丸紅株式会社の値動き

丸紅(8002)
(画像=SBI証券)

*期間:2021年10月27日~2022年4月22日10時30分時点(日足)
*当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
*上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

▽当記事の内容について、著者が動画で詳しい解説を行っています。あわせてご視聴ください。

鈴木 英之
鈴木 英之
SBI証券 投資情報部長
・出身:東京(下町)生まれ埼玉育ち
・趣味:ハロプロの応援と旅行(乗り鉄)
・特技:どこでもいつでも寝れます
・好きな食べ物:サイゼリヤのごはん
・好きな場所:秋葉原(末広町)
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的な寄稿も多数