この記事は2022年3月25日にSBI証券で公開された「『ウクライナ紛争』背景に株価堅調!? リアル&サイバーの防衛関連銘柄」を一部編集し、転載したものです。
東京株式市場が落ち着きを取り戻し始めています。日経平均株価は2月10日(木)取引時間中高値2万7,880円70銭から、3月9日(水)同安値2万4,681円74銭まで11.5%下げていましたが、3月23日(水)には一時2万8,056円20銭まで上昇しました。2月10日(木)高値を回復した形です。
ウクライナ・ロシア間の戦争でウクライナ側が健闘し、停戦への期待が高まっていることが影響していると考えられます。また、3月末が近づき、配当取りや、売りポジションの解消等の特殊な需給要因が重なっていることも影響しているかもしれません。
ただ残念ながら、仮に現状のままで停戦した場合でも、欧米などの西側諸国とロシアの関係が、速やかにもとの状態に戻るとは考えにくいです。特に安全保障体制は再構築を迫られ、世界の多くの国で防衛(軍事)費は増額になると考えられます。
そこで、株式市場が落ち着いている現在、改めて防衛関連に着目してみたいと思います。米国を中心とする世界の防衛産業に着目し、それらと関連の深い日本企業をチェックしてみました。
リアル&サイバーの防衛関連銘柄
図表1は、世界の防衛関連銘柄のうち、防衛関連売上高(2020年)の多い上位5社(全社が米国企業)の株価推移を示しています。
▽図表1 世界の防衛大手5社株価推移(日足)
*:SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の公表データをもとに、防衛関連売上高(2020年)の大きい銘柄5社の株価を 2021年末株価を100として指数化
2021年末株価に対し、米国株全体の値動きを示すS&P500は6.5%下げた水準(3月23日時点)ですが、防衛関連大手はボーイングを除き、約15%~25%上昇しています。ボーイングは新型コロナウイルスの感染拡大の影響や、ウクライナでの紛争長期化等が民間航空機部門の需要回復に逆風となっているようです。さらに当面は、中国での墜落事故が響く可能性がありそうです。
今回の軍事衝突は、1990年の湾岸戦争、2001年のアフガニスタン紛争、2003年のイラク戦争など過去の大規模な軍事衝突とは異なる印象を世界に与えているようです。
これまでの軍事衝突は、世界の公益に対して害を及ぼす可能性がある国を、世界の警察官を自認する米国が中心となって取り締まるというパターンが多かったです。
しかし、今回は独立国家として何ら落ち度のなかった国(ウクライナ)が、自国の安全保障の向上を目指す国(ロシア)に侵攻された点や、先進国の生活・文化水準をもつ国が戦場となっているという点が異なり、世界の多くの人々が防衛の重要性を再認識することになったようです。
特にロシアに近い欧州諸国の危機感が高まりました。ドイツはGDPの2%以上を防衛費に割き(2021年の実績は1.53%)、1,000億ユーロを防衛装備に支出する方針を発表しました。他のNATO加盟国も同様に防衛費の引き上げが想定されることから、防衛産業への恩恵が期待されています。
図表2は世界の軍事費の推移ですが、これまでも拡大傾向にあり、今後はより一層拡大が加速する可能性も出てきました。
▽図表2 拡大傾向が続いてきた世界の軍事費
図表3は、世界の防衛関連企業を、同関連売上高が多い順に並べ、仕入れ先に日本企業がある場合はそれを併記したものです。
図表4の(1)は、図表3の銘柄のうち、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2月24日(木)を起点に、3月24日(木)までの1カ月間において、株価上昇率が同期間の日経平均株価上昇率(8.2%)を上回っている銘柄を掲載したものです。
また、図表4の(2)には、おもなサイバーセキュリティ関連銘柄をご紹介しています。2021年9月10日付「日本株投資戦略」で、サイバーセキュリティ関連銘柄として紹介した銘柄ですが、上記と同期間において、いずれの銘柄も日経平均株価を上回るパフォーマンスを残しています。
今回の紛争では、国際ハッカー集団「アノニマス」によるロシアのテレビ放送への侵入が話題になりましたが、ネット空間上の防衛は、リアル空間上の防衛と同様の重要さを持ちつつあり、関連銘柄のパフォーマンスは、そのような株式市場の認識を反映している可能性もありそうです。図表4の(2)でご紹介した銘柄の概要は以下の通りです。
・デジタルアーツ(2326)・・・情報漏洩対策ソリューションが中核
・ソリトンシステムズ(3040)・・・サイバー攻撃対策をはじめとしたITセキュリティ製品
・トレンドマイクロ(4704)・・・ウイルス対策ソフトの老舗企業
・シグマクシス・ホールディングス(6088)・・・顧客企業のセキュリティに関する課題について、調査分析から運用まで総合的に解決
抽出銘柄をご紹介
IHI ―― 日本の防衛関連の代表格、業績も株価も堅調
■総合重機の大手企業
同社は総合重機の大手企業です。旧社名は石川島播磨重工業で、航空・宇宙分野に強みを持っています。ジェットエンジン製造では日本国内のシェアトップで、防衛省が使用する航空機のほとんどのエンジンの主契約者になっています。
第二次世界大戦末期に開発された国産初のターボ・ジェットエンジン「ネ20」は同社製品です。戦後は日本の宇宙開発に当初から参画し、ロケットエンジンの心臓部となるターボポンプ、ガスジェット装置の開発・生産の推進役でもあります。
売上構成比(前期)は、ボイラやプロセスプラントなどの「資源・エネルギー・環境」が27%、橋梁・水門、都市開発、F-LNG・海洋構造物などの「社会基盤・海洋」が14%、物流・産業システム、パーキング・システム、シールド掘進機、ターボチャージャーなどの「産業システム・汎用機械」が32%、航空エンジン、ロケットシステム、防衛機器システムなどの「航空・宇宙・防衛」が21%となっています。
■好業績を追い風に株価も堅調
会社側は2月8日(火)に2022年3月期第3四半期累計(2021年4月~12月)の連結業績(IFRS)を発表しました。売上高は8,162億円(前年同期比6.7%増)、営業利益は455億円(前年同期は12億円の赤字)でした。主力事業の民間向け航空エンジンは国内線及び、短距離国際線の旅客需要は回復に向かっており、スペアパーツの販売が増加傾向にあります。
これを受け、会社側は2022年3月期の連結業績予想を上方修正しました。売上高を1兆1,800億円から1兆1,900億円(前期比6.9%増)に、営業利益を700億円から800億円(同2.9倍)に引き上げました。また、期末配当予想を30円から40円に引き上げ、第2四半期末の30円と合わせ、年間70円(前期は0円)としました。
営業利益の市場コンセンサスは2023年3期に700億円台に減った後、2024年3期は900億円台への増加が予想されています。
好業績を背景に株価は堅調で、10月4日(月)高値2,919円を上回ってきました。昨年来高値(3月24日現在)は2021年6月4日(金)に付けた3,050円で、その回復も視野に入ってきました。
▽株式会社IHIの値動き
*:期間:2021年9月29日~2022年3月25日10時時点(日足)
*:当社チャートツールを用いてSBI証券が作成
*:上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません
デジタルアーツ ―― 情報漏洩対策ソリューションを提供
■「Webフィルタリング」や「電子メールフィルタリング」を展開
同社は1995年に設立され、インターネット関連アプリケーションの開発・販売を祖業としました。現在は、Webセキュリティやメールセキュリティ、ファイルセキュリティなど情報漏洩対策ソリューションの提供を中心に展開しています。
おもな製品としては「i-FILTER」が知られています。インターネットアクセスに伴う危険を未然に防ぐ「Webフィルタリング」や「電子メールフィルタリング」を展開しています。前期の市場別売上構成比は企業向けが58%、公共向けが35%となっています。
■業績は堅調。市場は当面成長継続を予想
同社は1月31日(月)に2022年3期第3四半期(累計)決算を発表し、売上高は66.8億円(前年同期比40.7%増)、営業利益30.2億円(同53.3%増)となりました。
クラウドサービスやテレワーク活用による社会生活のデジタル化が進む中、インターネットの範囲が拡大し続けており、組織内部からの情報漏洩リスクに加え、外部からサーバー攻撃が多様化・高度化するなど、セキュリティ対策の需要が増大しています。
2022年3月期(通期)は売上高90億円(前期比31.9%増)、営業利益40億円(同34.4%増)が会社計画です。また、市場予想営業利益は2022年3月期の41億円から2023年3月期は45億円と拡大が予想されています。
株価は3月1日(火)高値7,240円を上回り、チャート上は底放れの様相を呈しています。
▽デジタルアーツ株式会社の値動き
*:期間:2021年9月29日~2022年3月25日10時時点(日足)
*:当社チャートツールを用いてSBI証券が作成
*:上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません
▽当記事の内容について、著者が動画で詳しい解説を行っています。あわせてご視聴ください。
・出身:東京(下町)生まれ埼玉育ち
・趣味:ハロプロの応援と旅行(乗り鉄)
・特技:どこでもいつでも寝れます
・好きな食べ物:サイゼリヤのごはん
・好きな場所:秋葉原(末広町)
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的な寄稿も多数