この記事は2022年3月4日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「ウクライナ緊迫化・米利上げ前夜でもドル円が安定している理由」を一部編集し、転載したものです。

要旨

ドル円
(画像=PIXTA)
  1. 年初以降、米金融引き締めを巡る観測やウクライナ情勢を巡って大きな動きがあり、株価や資源価格が大きく変動するなかで、ドル円レートの安定感が際立っている。その背景を整理すると、米金融引き締めに関しては、市場で利上げの織り込みが進んだことで日米(長期)金利差が拡大した。本来であれば、日米金利差の拡大が円安ドル高を促すはずだが、そうならなかったのは、利上げが織り込まれるにつれて、過度の金利上昇による米国経済の減速懸念が高まり、ドル高の勢いが削がれたためと考えられる。

  2. また、2月中旬以降はロシアのウクライナ侵攻を受けて市場の警戒感が高まっている。市場の警戒感が高まる際には、リスク回避通貨とされる円が買われて円高ドル安が進むことが多いのだが、今回は進んでいない。市場の流動性低下に対する懸念が高まったことで最高の流動性を誇るドルも買われやすくなって円高圧力が相殺されたうえ、ウクライナ情勢の緊迫化が原油高を通じて実需の円売りもたらす面があるためとみられる。

  3. 今後、円安ドル高基調が再開するためには、FRBの金融引き締めペースの予見性が高まり、「金融引き締めが続く中でも(オーバーキルが回避されて)米国の景気回復は続く」という市場の期待が台頭する必要がある。現状では、FRBの金融引き締めを左右する米国の景気や物価の不透明感が強いうえ、ウクライナ情勢がその不透明感をさらに強めている。不透明感の緩和にはしばらく時間がかかるとみられるため、ドル円はしばらく横ばい圏に留まるだろう。その後、ウクライナ情勢が鎮静化すれば、米景気・物価の不透明感が次第に緩和、金融引き締めの予見性が高まり、米景気回復期待が持ち直すことで夏場頃から円安ドル高基調が再開すると見ている。ただし、その後も米景気減速懸念がたびたび台頭することなどから、円安ドル高は緩やかなペースに留まると見ている。

金融,ドル円
(画像=ニッセイ基礎研究所)