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(画像=PIXTA)

新型コロナウイルスの感染拡大から2年が経ちました。不動産賃貸の市場も大きく変化をしています。3回目のワクチン接種も進む2022年春、繁忙期を迎えた賃貸市場の「今」にスポットを当て、業況や家賃動向、不動産店の声なども紹介しながら解説します。賃貸物件への投資にあたり、最新の家賃動向や空室対策の参考としてください。

目次

  1. 賃貸の業況は回復に足踏み感。シングル向き物件の需要減が影響か
  2. コロナ禍以降の家賃はシングルが下落、ファミリーは上昇
  3. コロナを機に生活スタイルが変わったのは首都圏だけ?
  4. まとめ:首都圏のシングル需要減は継続か。大学のオンライン授業導入状況に注目

賃貸の業況は回復に足踏み感。シングル向き物件の需要減が影響か

まずは、全国60,000店以上(2022年4月1日現在)の不動産会社が加盟・利用しているアットホームの「地場の不動産仲介業における景況感調査」(2022年2月発表)から、賃貸仲介の業況推移を見てみましょう。

この「地場の不動産仲介業における景況感調査」は、アットホーム加盟店を対象に四半期ごとに実施している居住用不動産市場についての景気動向アンケートで、都道府県知事免許を持ち、5年を超えて仲介業に携わる店舗の経営層にインターネットで調査し、前年並みを50 とする「業況DI」で数値化したものです。

DI=50を境に、それよりも上なら「良い」、下なら「悪い」を意味します。実際の不動産仲介店舗の景況感がわかるわけです。なお、この調査は2014年開始となっています。

▽首都圏・近畿圏の業況判断指数(業況DI(前年同期比)の推移)

業況判断指数(DI)は20年Ⅱ期(4~6月期)、初めての緊急事態宣言を受けて調査開始以来最低値を記録しました。その後は、経済活動の再開とともに徐々に回復したものの、直近の21年Ⅳ期(10~12月期)の時点では持ち直しの動きに足踏み感があり、コロナ前の業況水準までには戻せていません。

その一因として、単身者の動きが鈍く、シングル向き物件への新規入居が少なかったことが挙げられ、こうした傾向は特に東京23区で強く表れています。

シングル向き物件不振の背景には、テレワークやオンライン授業の定着により、ひとり暮らしをする人が減ったことがあります。不動産店からも「通勤や通学の機会が減ったのでひとり暮らしをやめて実家に帰る人が増えた」などの声があがっており、メイン客層である単身者の住まい探しが活発ではないことが痛手となっています。

コロナ禍以降の家賃はシングルが下落、ファミリーは上昇

家賃動向にも変化が表れています。市場規模が最も大きい東京23区では、シングル向きマンションの募集家賃がコロナ禍以降下落基調にあり、2022年2月は87,787円と、過去最高だった2020年3月の92,184円から2年足らずで 4.8%(4,397円)下がっています。

23区内の不動産店からは「シングル向きは近隣にも空室が増え、賃料を下げてようやく埋めている状態」といった声もありました。

対照的にコロナ禍以降も高い家賃水準を保っているのが50㎡~70㎡のファミリー向きや70㎡超の大型ファミリー向きの物件です。

21年秋ごろからは上昇傾向も見られ、その背景について不動産店からは「おうち時間を充実させるため住まいのグレードを上げるファミリー層が多い」という声があがっています。

さらに、「テレワーク用に2DK以上を探す単身者が増えた」といったコロナ禍ならではのニーズも加わっており、おうち時間が長くなったことで広い物件の需要が増したことが家賃上昇の一因となっていることがうかがえます。

▽マンション:面積帯別平均家賃(2022年2月)

▽マンション:平均家賃指数の推移(2015年1 月=100)

コロナを機に生活スタイルが変わったのは首都圏だけ?

「おうち時間の充実」はコロナ禍以降よく目にするキーワードですが、こうした消費者ニーズの変化についても不動産店に調査してみたところ、エリアによる差が見られました。前出「地場の不動産仲介業における景況感調査」の対象不動産店に「通勤利便性よりもおうち時間の充実を重視した住まいを希望する消費者の傾向」について「増えた」「変わらない」「減った」の3択形式で質問したもので、2021年12月調査のデータとなります。

この調査データによると「おうち時間の充実を重視した住まい探し」は、首都圏では約半数の不動産店が「増えた」と感じているのに対し、近畿圏やその他のエリアでは「増えた」は約3割に過ぎず、6割以上の不動産店が「変わらない」と回答しています。

▽アンケート比較「おうち時間の充実を重視した住まいを希望」(単一回答)n=1,980

この地域差が生まれた背景には、首都圏の通勤事情が関係しています。国土交通省の「令和2年度テレワーク人口実態調査」(下段記載)によると、首都圏は近畿圏に比べて全体的に通勤時間が長いことがわかります(棒グラフ)。また、テレワークの実施率(折れ線グラフ)は通勤時間が長いほど高くなる傾向が確認できます。

つまり首都圏では、長い通勤時間に代わって在宅時間が増えたことで「おうち時間の充実」を重視する傾向が他のエリアよりも強く表れました。反対に、首都圏以外ではもともと通勤時間が短かったため、コロナによる生活スタイルの変化が起きにくかったと言えます。

▽通勤時間の割合(左軸)とテレワーク実施率(右率)

家賃相場に変化あり。賃貸マンション需要は、シングル向きとファミリー向きで二極化へ
出典:国土交通省「令和2年度 テレワーク人口実態調査」を元にアットホームラボ作成

まとめ:首都圏のシングル需要減は継続か。大学のオンライン授業導入状況に注目

さて、今年の賃貸繁忙期も間もなく一区切りを迎えます。社会人を中心に前年よりも来店が増えたとの声が多く聞かれるものの、学生のひとり暮らしについては、大学がオンライン授業をどの程度取り入れるかを見極めつつ慎重に判断しているようです。こうした動向が、空室率や家賃につながっていくので、今後も注視しレポートしていきたいと思います。

磐前淳子(いわさきじゅんこ)
磐前淳子(いわさきじゅんこ)
アットホームラボ株式会社 データマーケティング部 部長。神奈川県出身。横浜市立大卒。不動産情報サービスのアットホームに入社後、営業職・企画職などに従事。2019年5月、アットホームのAI開発・データ分析部門より独立発足したアットホームラボの設立に伴い、現職。不動産市場動向や業況の分析などを担当し、各種レポートの公表のほか、講演・執筆、メディア対応などを行う。最近の主な講演・執筆テーマに「コロナ禍がもたらした不動産市況の変化」「人気設備と入居者ニーズ」「どうなる2022年の不動産市場」など。