1992年9月16日、英国の通貨ポンドが外国為替市場で大暴落し、ERM(欧州為替相場メカニズム)を離脱するという出来事があった。「暗黒の水曜日」、あるいは「ポンド危機」とも呼ばれる出来事だ。当時、英国経済が低迷していたにもかかわらず「ポンドが過大評価されている」と考えた著名投資家のジョージ・ソロス氏率いるヘッジファンドは、ポンドの大量空売りで10億〜20億ドルの利益 を得たとされている。一方のイングランド銀行(英国中央銀行)はポンド買いの市場介入に加えて、公定歩合の大幅な引き上げに動いたが、それでもポンドの大暴落を止めることができなかった。この出来事でソロス氏は 「イングランド銀行を潰した男」として広く知られるようになった。
さて、今年で「ポンド危機」から30年目を迎える。注目されるのは、ここにきて再びポンドの下値不安が広がっていることだ。ポンドは、2022年4月下旬から下げ足を速め 、5月6日には対米ドルで1.2276ドルの安値を記録。4月21日の高値1.3090ドルから2週間ほどで6.2%下落した。
後段で述べる通り、IMF(国際通貨基金)は英国経済について「G7(先進7カ国)で最も深刻なインフレリスクに直面している国」「2023年のGDP成長率はG7中最下位となる」との見解を示しており、今後ポンドがさらなる売り圧力を受けると予想する声も聞かれる。今回は英国経済とポンドの話題をお届けしよう。