近年、長引くコロナ禍により、暮らしや働き方が大きく変化した。そして、都市部から地方へ生活拠点を移す人も増えた。移住やワーケーションの場として注目を集めている自治体はどこで、どのような魅力や可能性を持っているのだろうか。
人気移住地域ランキング
株式会社カヤックは、運営する移住・関係人口促進サービス「SMOUT」のユーザーが、地域の発信情報に「ファボ(興味ある)」した総数を集計し、ランキングを発表した。(調査期間は2021年4月1日~2022年3月31日)
対象となった520地域のうち、市区町村部門では山口県萩市、都道府県部門では長野県がそれぞれ首位となった。両部門の上位10自治体は以下のとおりだ。
ベスト3の自治体の魅力は?
市町村部門の上位3市は、順位こそ変わったものの昨年度もベスト3を占めていた(2020年度の調査では1位豊岡市、2位伊那市、3位萩市)。移住やワーケーションの魅力をコンスタントに発信していると言えるだろう。3市におけるそれぞれの取り組みを探ってみる。
吉田松陰や高杉晋作らを輩出、歴史を最大限に活用した萩市
首位となった山口県萩市は、世界遺産である「明治日本の産業革命遺産」や「萩ジオパーク」などがある。移住やワーケーションの促進には、自然や温泉、古民家などに加え、歴史や文化といった地域の潜在的な魅力を活かしている。
吉田松陰や高杉晋作などの偉人を輩出した歴史的背景や、伝統的建造物群保存地区を含む町並みがアピールポイントだ。松陰神社など文化財施設でのワーケーションの提案や、古民家をリノベーションした店舗の開店に伴うスタッフの募集などが注目を集めた。
2022年4月には、定住相談や地域情報の発信拠点「はぎポルト-暮らしの案内所-」が市中心部にオープンし、移住や関係人口のさらなる増加が期待できそうだ。
自然環境に加えて教育やアートとの“掛け算”も
次点の長野県伊那市は、自然環境を活かした農業や林業に加え、教育移住でも注目されている。「森に関わる仕事をつくる」をキーワードに多様な業種を扱った実践型スクールや、キャリア教育コーディネーターの募集などだ。豊かな自然と教育、双方を掛け合わせることで、さらに大きな魅力となっている。
3位の兵庫県豊岡市は、「飛んでるローカル豊岡」をキャッチフレーズに、移住促進に力を入れている。伝統工芸の担い手募集や、地元猟師とともに狩猟を体験できる企画などがあり、個性的だ。また、映画や演劇による町づくりを行うことでアートに関わる人々の移住も促す。
移住・ワーケーション促進の秘訣やトレンドは?
ランキング上位の自治体における官民の取り組みからは、地域の潜在資源の発掘や活用に加え、国の制度の効果的な利用の重要性も見えてくる。
上位自治体に共通している点のひとつに、「地域おこし協力隊」の活躍が挙げられる。地域おこし協力隊とは、都市部から地方へ移り住んだ「隊員」が、地場産業に従事したり地域のPRをしたりして地域協力活動を行う。各地域への定住を図る取り組みだ。
「隊員」は各自治体から委託を受け、一般的に1~3年の任期を務める。任期後は、起業希望者に向けた研修や補助制度もある。総務省の調査によると、2009年度から始まった地域おこし協力隊は年々増加し、2021年度は6,000人を超えた。同年度に任期を終えた隊員のうち、定住したのは約65%だった。
協力隊の活躍や定住率の上昇のためには、隊員と自治体とのミスマッチを防ぐことが重要になる。そのため、「おためし移住」や「移住体験ツアー」といった企画の需要も高い。
副業前提で多様なライフスタイルを
昨今注目を集めているのは「マルチワーカー(季節ごとの労働需要等に応じて複数の事業者の事業に従事)」など、複数の仕事を持ちながら地域と関わることができる場だ。総務省が2020年6月に「特定地域づくり事業協同組合制度」を設置し、マルチワーカーの働き方や雇用を後押ししている。
都道府県ランキング首位の長野県では、伊那市が週24時間勤務で副業も可とした地域おこし協力隊を募集した。駒ヶ根市では「イチゴ園での半農生活」が注目を集めた。町おこしや地場産業に従事して収入を確保しつつ、ワークライフバランスを重視した生活を送ったり、夢を実現したりするスタイルが魅力だ。
地域資源を活かして新たな可能性を
ビジネスの拠点も暮らしの空間も、今まで以上に柔軟に考えることが主流になっている。自然環境や歴史、伝統といった地域の資源を活かしながら、多様なライフスタイルへの需要を満たすことで、ビジネスにも生活にも新たな可能性を見出せるかもしれない。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)