ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資家にとっても大手企業にとっても、投資先や取引先を選択するうえで、企業の持続的成長を見る重要視点になってきている。各企業のESG部門担当者に、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が質問。本特集では、ESGにより未来を拓こうとする企業の活動や目標、現状の課題などを、専門家である坂本氏の視点を交えて紹介する。

株式会社Looopは、発電から供給までを一貫して行う、再エネに特化した電力会社だ。同社の財務戦略本部 本部長 兼 CFOである藤田総一郎氏(=写真)から、同社が持つ強みと目標、今後の可能性などを聞いた。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

株式会社Looop ―― 再エネ特化企業が持つ強みと目標、可能性とは
(写真=株式会社Looop)
藤田 総一郎(ふじた そういちろう)
―― 株式会社Looop 財務戦略本部 本部長 兼 CFO

1985年10月25日生まれ。神奈川県出身。公認会計士を取得後、金融監査に従事、その後M&Aアドバイザリー、事業再生コンサタントを経て、株式会社Looop入社。

株式会社Looop

発電から供給までを一貫して行う、再エネに特化した電力会社。2011年4月設立。本社は東京都台東区。事業内容は、電力小売、屋根置きの太陽光発電システムの販売、発電所の設計、建設、保守など。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役

1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都にて就職し、24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳の時、株式会社アクシスの事業継承のため家族と共に東京から鳥取にIターン。

株式会社アクシス

エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird」運営など多岐にわたる。

目次

  1. 株式会社Looop設立のきっかけと、これまでの事業の変遷
  2. 株式会社Looopの強み「一気通貫」
  3. 株式会社Looopが目標に掲げる「エネルギーフリー社会」の実現
  4. 株式会社Looopが取り組むスマートシティ創造
  5. 消費エネルギーの「見える化」の意義と取り組み
  6. 株式会社Looopの可能性と、応援する上での魅力とは

株式会社Looop設立のきっかけと、これまでの事業の変遷

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):株式会社Looopを設立したきっかけは、どのようなことだったのでしょうか。設立当初から現在までの、事業の変化についてもお聞かせください。

Looop 藤田氏(以下、社名、敬称略):2011年の東日本大震災で被害を受けて、電力が行き届かなくなった地区に、独立型のソーラー発電セットを無償で設置したことがきっかけです。そのとき、とても多くの人に喜ばれ、再エネを全国に広めることにしました。

設立当初は、DIY型発電所セットの販売や発電所の設置をしていました。2016年に電力小売が自由化され、その流れに乗って小売に参入しました。現在では、再生可能エネルギー(以下 再エネ)の発電、電力のコントロール、エンドユーザーへの提供まで、一気通貫して行っています。再エネを最大普及するために「コントロールのしにくさ」や「発電時間の制約」といった課題の解決に力を入れています。

電力小売を始めた当時は「どれくらい電気代が安くなるか」というニーズがほとんどでした。しかし、社会的に脱炭素が求められるようになったことで、再エネの需要が高まっています。エンドユーザーにも浸透して、太陽光発電設備が0円で設置できる「未来発電」などの新サービスが展開できるようになりました。

▽「未来発電」の仕組み

株式会社Looop ―― 再エネ特化企業が持つ強みと目標、可能性とは
(画像=Looop)

株式会社Looopの強み「一気通貫」

坂本:Looopを表すキーワードには「再生可能エネルギー特化」「一気通貫」「エネルギーテック」「地域脱炭素への貢献」などがあります。この中で、コアとなる強みはどれでしょうか。

藤田:「一気通貫」です。電気を作り、コントロールして、エンドユーザーに届ける流れを一気通貫して手がけていることがLooopの強みです。

たとえば、2022年4月に開始したFIP/FIT変換サービス「Looop FITプレミアム」というものがあります。これは、FIP発電所の電力を、基準価格や従来のFIT認定価格よりも高値で買い取るものです。

固定価格買取制度(FIT)からFIP制度(再エネを自立した電源としていくことを目的とする制度)への移行の対応に悩んでいる方のためのサービスで、再エネ事業を一貫して手がけている企業でないと展開することは難しいでしょう。

▽「Looop FITプレミアム」の固定価格買取のイメージ

株式会社Looop ―― 再エネ特化企業が持つ強みと目標、可能性とは
(画像=Looop)

坂本:このように全ての流れを一気通貫している競合他社はあるのでしょうか。あるとすれば、今後、どのような会社が伸びていくと考えられますか。

藤田:競合他社は、いないわけではありませんが、非常に少ないですね。

一気通貫だからこそ可能なことを、付加価値に変換していけるかどうか。それを事業化できれば、その企業は伸びていくと思います。

株式会社Looopが目標に掲げる「エネルギーフリー社会」の実現

坂本:Looop様は「エネルギーフリー社会」の実現を目標として掲げていらっしゃいます。エネルギーフリー社会が実現しても、Looop様は収益を得られるのでしょうか。また、企業のスケールアップはできるとお考えでしょうか。

藤田:エネルギーフリー=無料なので、「エネルギーフリー社会」の実現は、収益と相反するように思うかもしれません。しかし、Looopの事業は、エネルギー提供だけではなく、その周辺にまで展開しているので、収益を得る手段はいくらでもあります。

エネルギーにしばられない文化や社会を醸成する事業に、社会、投資家、取引先、会社のメンバーが価値を感じていることが非常に重要です。共感するビジョンや会社のストーリーがあれば、メンバーのモチベーションは上がり、社会的に提供できる価値と評価が高まり、結果としてスケールアップにつながると考えています。

株式会社Looopが取り組むスマートシティ創造

坂本:脱炭素社会を目指して、世界が大きく動き始めています。脱炭素に向かって変化していく社会の中で、Looop様は何に取り組み、どのような価値を生み出していくのか、未来像をお聞かせください。

藤田:「再エネ事業を一貫して手掛ける私たちだからこそできる」ということをしたいですね。その1つが、スマートシティの創造です。すでに、埼玉県さいたま市と共同で、町の中でエネルギーを循環させる「脱炭素循環型コミュニティ」をつくりました。この事例を第1弾として、全国各地に広げることが直近の目標です。

スマートシティでは、単なる脱炭素ではなく「住民の生活の質を上げる脱炭素」を目指しています。エンドユーザーが、火力や石炭といった従来のエネルギーと変わらない、むしろより良い使い方ができる付加価値が高いシステムを作っていくべきだと考えています。

坂本:さいたま市の事例では、再エネの利用率はどのくらいになるのでしょうか。

藤田:冬季は少し自給率が下がりますが……。年間で見ると6割はまかなえています。

坂本:再エネは「価格の高さ」や「供給量の確保の難しさ」が課題になっています。今後、この課題はクリアされるとお考えでしょうか。

藤田:人類がエネルギーを使い始めてから、長い間、私たちは石炭や火力に頼った生活をしてきました。現在は、風力や太陽光などの再エネにシフトしていく重要な過渡期です。だからこそ、課題は多く出てくるでしょう。

テクノロジーの発達により、再エネのコストはとても下がりました。いずれ、料金や供給量の問題は解決されると思います。

▽質問に答える藤田氏

Looop
(画像=Looop)

消費エネルギーの「見える化」の意義と取り組み

坂本:アクシスでは、消費しているエネルギーが、どれくらいの量で、どのように作られたものなのか確認できるようにする、いわゆる「見える化」が重要だと考えています。Looop様は「見える化」の意義をどのように捉えていらっしゃいますか。

藤田:Looopも、消費しているエネルギーの「見える化」は、脱炭素社会の実現のためにはとても重要で、意義あることだと考えています。

太陽光パネルを設置した人が、自分たちの屋根でどれだけ電気が作られているか把握する。購入したなら、それが再エネかどうか知ることができる。それらを把握できることが、すべてのバリューチェーンに入る条件となるでしょう。消費エネルギーの「見える化」をして、データを外部に公開しないと取引ができない、というケースも出てくるかもしれません。

坂本:Looop様では、「見える化」に対して、具体的な取り組みをしているのでしょうか。

藤田:弊社では、「見える化」の仕組みを活用して、「節電大作戦」と呼ばれるキャンペーンを開催しています※。このキャンペーンは、消費している電力の量を見ながら節電をしてもらい、多く節電できたお客様にギフト券をプレゼントする、というものです。自分がどれだけ消費して、どれだけCO2を出しているか分かれば、環境への意識が大きく変わると思います。(※今後の開催は未定)

藤田:アクシス様が提供している、電力のトレーサビリティシステム「ecoln」についてお聞きしたいのですが、このサービスはどこまで「見える化」しているのでしょうか。また、どのように進化させていくつもりなのか、教えていただけますか。

坂本:使用している電力が「再エネかどうか」や「消費量」は分かるようになっています。しかし、「どの発電所から、どれだけの量を仕入れているのか」については、まだ曖昧ですね。

いずれはP2P(ピアツーピア)での電力の融通、個人対個人で電力を売買できる社会が来るのではないかと考えています。日本では法整備されていないため、まだ難しい領域ですが、今のうちにシステムは準備しておき、その時代が来たらすぐに展開できるよう、仕込みをしている段階です。

▽アクシス・坂本氏

株式会社Looop ―― 再エネ特化企業が持つ強みと目標、可能性とは
(画像=アクシス)

株式会社Looopの可能性と、応援する上での魅力とは

坂本:ESG分野は投資家からも注目されています。Looop様の成長の可能性や、応援する上での魅力を教えてください。

藤田:資金については、グリーンボンドで大手銀行から調達したり、エクイティで入手したりしています。この分野に対する期待を感じ、世界の将来にとって重要な企業だと評価されている手応えがあります。

世界中で環境問題が注目されており、各種メディアでは連日、再エネの話題が出ています。強力な追い風が吹いており、市場規模は右肩上がりです。業界の伸びが確実な中、一貫したサービスや技術が評価されているLooopの強みを生かせば、より大きな事業拡大が可能だと考えています。

そして何より、単なる投資対象ではなく、投資したら将来の地球のため、環境問題解決のため貢献できることに魅力を感じて、価値を見出してくださる人が増えています。

坂本:株式会社Looopに期待している人たち、また、この記事で株式会社Looopを知った人々に向けて伝えたいことはありますか。

藤田:私たちが掲げる「エネルギーフリー社会の実現」というビジョンの達成には、多種のパートナーとの協業が必要不可欠です。その協業のために、多くの方がLooopと契約することに付加価値を感じるサービスを展開・提供していかなくてはならないと考えています。

「エネルギーフリー社会」が実現すれば、電気代がハードルになって生まれてこなかったイノベーションを、新たに起こすことができます。また、移動時のエネルギーコストが削減されれば、人のコミュニケーションや物流に大きく寄与することができます。エネルギーの制約条件が解けるということは、大きな革命なのです。

「エネルギーフリー社会」は経済的側面だけでなく、人類の文化的にも影響力を発揮します。実現のために、国内外の多くの企業や自治体方、さらに個人の皆様と協力をしていきたいと思っています。