ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資家にとっても大手企業にとっても、投資先や取引先を選択するため、企業の持続的成長を見る重要視点になってきている。各企業のESG部門担当者に、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施した。ESGに積極的に取り組み、未来を拓こうとする企業の活動や目標、現状の課題などを紹介する。
静岡県富士宮市に拠点を構える、株式会社エンビプロ・ホールディングス。グループ企業を通じて金属やプラスチック、リチウムイオン電池などのリサイクル事業、リマニュファクチャリング事業を中核とするサーキュラーエコノミー事業を展開している。現在は資源の枯渇、温暖化による気候変動に関する社会課題を解決するため、資源循環の構築に取り組み、社会の持続可能性を高めることを目指している。ここでは、同社のESG戦略について、環境事業を推進する中作憲展氏(=写真)に話を聞いた。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
機械メーカーを経て、監査法人トーマツ(Deloitte)の環境・CSRコンサルティング部門にて環境経営および新規事業コンサルティング業務等に従事した後、リサイクル会社の執行役員として経営に参画したのち、株式会社ブライトイノベーションを設立。現在、親会社である株式会社エンビプロ・ホールディングスの新規事業開発部門の執行役員も兼任しながら、環境コンサルティング事業とサーキュラーエコノミーの新規事業開発の両軸で環境事業を推進。
株式会社エンビプロ・ホールディングス
グループ企業を通じて金属やプラスチック、リチウムイオン電池などのリサイクル事業、リユース事業を中核に事業を展開。2010年5月設立。本社は静岡県富士宮市。
1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都にて就職し、24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳の時、株式会社アクシスの事業継承のため家族と共に東京から鳥取にIターン。
株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird」運営など多岐にわたる。
目次
株式会社エンビプロ・ホールディングスの事業内容
アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):エンビプロ・ホールディングス様の事業内容についてお聞かせください。
エンビプロ・ホールディングス 中作氏(以下、社名、敬称略):リサイクルなど資源循環事業をメインに、グローバルトレーディング事業、リチウムイオン電池リサイクル事業、環境経営コンサルティング事業、障がい福祉サービス事業などを、エンビプロ グループとして展開しています。
エンビプロ・ホールディングスは、資源循環事業を手掛ける会社なので、ESGの「E」は本業そのものです。意識的に何かをするのではなく、事業を本質的に追及していくことで、持続可能社会実現の一翼を担いたいと考えています。
特長は、資源の循環を推し進めている点です。リサイクルをすると再生原料(リサイクル材)が製造されますが、メーカーが再び再生原材料として使用するには、品質が十分とは言えません。そこで、エンビプロ・ホールディングスでは、リサイクル技術を一歩進め、廃棄物やスクラップなどからメーカーで使用できる品質の再生原材料を製造する「リマニュファクチャリング(再生産)」に注力しています。
坂本:リマニュファクチャリングとは、どのようなことをするのですか。
中作:まず、携帯電話やパソコン、コピー機やプラスチック、リチウムイオン電池などの廃棄物を物理的に破砕・選別を行います。そこから、鉄や銅、アルミ、ステンレス、金銀滓、プラスチック等に選別し、再生原料を製造します。更に、選別の高度化による異物の除去やプラスチックであればコンパウンド等を通してより品質の高い再生原材料を製造しメーカーに使用してもらえるグリーンマテリアルとして世の中に戻していくのです。現在、リチウムイオン電池のリサイクルにおいては、化学的な処理による技術の高度化にも挑戦しています。このようなリマニュファクチャリング技術の高度化でサーキュラーエコノミーモデルの実現を目指しています。
坂本:再生原材料が流通すると、何か物を作るときに新しい素材を買う必要がなくなり、とてもエコですね。
株式会社エンビプロ・ホールディングスの再生可能エネルギーの使用状況
坂本:エンビプロ・ホールディングス様は、2018年に事業運営を100%再生可能エネルギー(以下、再エネ)で行う「RE100」を宣言されていますが、この宣言について詳しく教えていただけますか。
中作:RE100とは、「Renewable Electricity 100%」の略語で、事業全体で使う電力を全て再生可能エネルギーで賄う、ということです。2018年に宣言し、現在では、グループ全体の電力の95%をすでに再エネ化しています。
▽エンビプロ・ホールディングスの電力消費量/再エネ比率の実績と目標
脱炭素もここ2年くらいで聞かれるようになった言葉ですが、「RE100」も2018年時点ではあまり知られていませんでした。当社は、再生原材料を製造していますが、当プロセス自体から出るCO2最小化すれば、そこで生産されるモノは、低炭素で作られた再生原材料、つまり、「グリーンマテリアル」(*)と言う事になります。当社は、これを実現するために、早期にRE100への取組を宣言したのです。
*:エンビプロ・ホールディングスでは、「温室効果ガスの発生がない、もしくは、発生量が極めて少ない方法で、地上資源(廃棄物)から作られる素材(再生原料、再生材料)」と定義している
坂本:再エネはコストがかかるので、導入をためらう企業が少なくありません。エンビプロ・ホールディングス様でも、コストは増加したのでしょうか。
中作:コストにあまり影響はありませんでした。地道に太陽光を屋根に設置するなど、複数の手法を組み合わせて取り組み、その時々で最適なものを選択する事で導入コストを抑える努力を致しました。
坂本:エンビプロ・ホールディングス様が、なぜ95%もの再エネ導入を達成できたのか、理由をお教えください。
中作:経営トップの意思が明確であることが、最も大きな要因です。また、グループ会社同士の連携が密で、各グループ会社社長とコンセンサスを取りやすいのも大きな要因です。
さらに、グループ内には、脱炭素化を支援する環境専門のコンサルティング会社があります。そこで得たノウハウや情報を、グループ内にフィードバックできることも関係しています。これにより、最新の情報を基に、先行して取り組むことができ、最適なタイミングで最適な投資ができることも一因かと考えています。
坂本:使用電力の95%が再エネというのは、日本企業の中でも先駆的だと思います。現状の調達割合はどうなっていますか。
中作:基本的には、電力の切替によるグリーン電力の調達が主な取組ですが、工場の屋根うえの自家消費型太陽光発電にも取り組んでいます。各施設での自家消費の比率は10%に達していませんが、新設の工場には、常に太陽光発電を設置する方針で取り組んでいます。
▽太陽光パネルが設置された静岡県富士宮市の工場屋根
坂本:今後、自家消費の割合は増やしていく予定でしょうか。
中作:地道に進めていく予定です。あえて、大きな投資をする考えはありません。現状を踏まえ、ケースバイケースで判断しています。「再エネ比率を、直近で無理して100%にする」という方針ではありません。
その時々で、新しいサービスが展開されていくので、性急になりすぎないようにしています。時代とともに技術は進歩し、参入する会社は増えていきます。5年前に再生可能エネルギーを供給できる会社は、ほとんどありませんでした。
株式会社エンビプロ・ホールディングスのDX化について
坂本:DX化の状況はいかがでしょうか。
中作:リサイクル業界は、非常に遅れていると思います。エンビプロ・ホールディングスでは、生産プロセスを自動化していますが、生産データはエクセルで入力しているだけで、分析することはなく、センサーも設置していませんでした。
現在、廃棄物の破砕機にセンサーを設置することから始めています。装置のオペレーティングは、人により差があり、生産量が変化してしまいます。電圧や電流値などのデータをチェックして、どのようなオペレーションが最適なのかを分析し、DXを活用して自動化する事で生産の効率化を進めていきたいと考えています。
▽質問に答える中作氏
株式会社エンビプロ・ホールディングスの「見える化」への取り組み
坂本:脱炭素を進めてくために、消費するエネルギーやCO2排出量の「見える化」は必須だと思います。エンビプロ・ホールディングス様では「見える化」にどのように取り組んでいますか。
中作:エンビプロ・ホールディングスでは、CO2排出量の「見える化」システムの開発を進めています。再生原材料が使われている比率や循環率の可視化も、進めていく必要があるでしょう。
坂本:CO2排出量は、どれくらい正確に把握できているのでしょうか。
中作:エンビプログループは海外子会社を含めて14社あります。グループ全体のCO2排出量について、スコープ1~3を把握して、情報を開示しています。
精度の向上が課題です。スコープ1と2はかなり正確ですが、スコープ3は、多くの企業でも国際的な温室効果ガス排出量の算定・報告基準の「GHG(温室効果ガス)プロトコル」で示されている係数を使い、ざっくりと把握している状況かと思います。エンビプロ・ホールディングスも、そのレベルであることは否めません。より詳しく、具体的に把握できるよう、改善に取り組んでいるところです。
株式会社エンビプロ・ホールディングスが取り組む地域循環の資源モデル
坂本:アクシスは地方である鳥取県に本社を置きながら、顧客の9割が首都圏を中心とした企業です。これまでの経験をいかし、地域の日々の生活を支えるプラットフォーム「バード」をスタートしています。その先で目指しているのが、地域循環型経済の創出なのですが、エンビプロ・ホールディングス様が行っている、地域循環の取り組みがあればご紹介ください。
中作:エンビプロ・ホールディングスのグループ会社には、長野県松本市を中心に事業を展開する「株式会社しんえこ」というリサイクル会社があります。
「株式会社しんえこ」では、金属くずや古紙、古着など資源ごみを24時間いつでも持ち込むことができる「もったいないBOX」を町なかに設置し運営しており、利便性の高さから、年間約6,000トンの不用品となった資源物を回収しています。
通常のリサイクル工場は、高い壁で囲まれ、入りづらいイメージかと思いますが、サービス拠点の「しんえこプラザあづみ野」は、誰もが気軽に立ち寄れるよう壁を排除し市民に開かれたリサイクル施設にしています。対面窓口では家電4品目の回収も受け付けています。
▽「しんえこプラザあづみ野」の外観
ここで得た収益の一部は、JリーグのJ3サッカークラブ「松本山雅FC」に還元したり、市内の子ども病院にも寄付したりしています。お金の地域への還元、スポーツや地域医療と連携するという、地域循環の資源モデルを構築しています。
坂本:アクシスでも、スタジアムのネーミングライツやユニフォームのスポンサーなど、J3の「ガイナーレ鳥取」をサポートしています。いつか対戦する日が来るかもしれませんね。
アクシスでは、トリスト(ネットスーパー)やトリメシ(フードデリバリー)、トリメディ(処方箋の配送)を手掛ける地域密着型生活プラットフォーム「Bird」のサービスを、2021年6月から始めています。Birdy(バードの配送員)が、不用品を回収するなど、地域での資源循環に貢献できることに気が付きました。エンビプロ・ホールディングス様では、不用品の回収のサービスを展開されているのでしょうか。
▽アクシス・坂本氏
中作:自動車が運転できない人や、高齢者の方は「もったいないBOX」まで持ち込むことができないので、引き取りに来て欲しいとの要望がありました。そこで、不用品の回収や撤去を行う「かたづけ隊」のサービスも同時にご提供するようになっています。
見積もりと撤去・回収で2回訪問することは非効率ですから、現在はITベンダーと提携して、見積りを自動化するシステムの導入を図っているところです。実現すると撤去の件数を増やすことができ、コストが下がれば料金にも反映することができるかもしれません。
株式会社エンビプロ・ホールディングスの目標と課題
坂本:今後、世界はますます「脱炭素化」に突き進むと思われます。どのような社会になり、その中でエンビプロ・ホールディングス様は、どのような企業になっていたいとお考えでしょうか。また、そこを目指す上での課題も教えてください。
中作:2030年から2050年の間で、脱炭素は劇的に進んでいくでしょう。脱炭素はインフラというか、ビジネス上の前提条件になると思います。そういう社会において、より品質の高い再生原材料を世の中に提供することが重要になってくるだろうと考えています。資源循環(サーキュラーエコノミー)の事例を多く実現していくことが、中長期の目標となります。
廃プラスチックを再生すると品質が劣化するので、新品の容器などに戻すことは難しいのですが、そこをコーディネートしながら、あるいは、技術を高めながら進めていきたいですね。
課題は技術の高度化です。再生原材料の品質が良くなければ、メーカーに使っていただけません。プラスチックでいえば、リサイクル技術の高度化は必須です。それにより一定の役割が果たせると理解しています。
株式会社エンビプロ・ホールディングスの戦略と魅力とは
坂本:エンビプロ・ホールディングス様のESGへの取り組みを社会に認知してもらうために、どのようなことをしているのか、その戦略を教えてください。
中作:当社は、まだまだ、認知度は高くありませんが、機関投資家等からのアンケートやIRインタビューの依頼は増えています。広告費を使ってまで、「ESGに力を入れている会社だ」と宣伝しているわけではありませんが、地道にESGの取組を実行した結果、少しずつ自社の存在が市場から認知され始めているのではないかと感じています。
足元で何もしていないとグリーンウォッシュ(環境に配慮したように見せかけ、ごまかすこと)になりますが、本業である資源循環事業を核としたサーキュラーエコノミーと脱炭素、つまり、カーボンニュートラルを融合した戦略を整理し事業を進めていることが評価されている結果ではないでしょうか。
カーボンニュートラルへの取り組みやサーキュラーエコノミーは、これからの環境の事業領域において、世界的な潮流の2大テーマだと認識しています。この2つに同時に対応できることが差別化に繋がります。そこを徹底的にストーリー立てて、戦略性を持って進めていきます。
▽エンビプロ グループのサーキュラーエコノミーモデル
坂本:ESGは注目度が上がっていて、投資分野においても過熱しています。ESG投資の観点で、エンビプロ・ホールディングス様に期待している投資家は多いと思います。投資家が、エンビプロ・ホールディングス様を応援している魅力は、どこにあるとお考えでしょうか。
中作:脱炭素を推進する上で、グリーンウォッシュではなく「本業として事業化ができているかどうか」が、問われていると思っています。エンビプロ・ホールディングスは、廃棄物からグリーンマテリアルを提供するメーカーになることを目標に事業を展開しています。そこに魅力を感じていただけるのではないかと思っています。
社会的背景が醸成され始め、欧州ではサーキュラーエコノミーの制度化が進んでいます。グローバルな視点はそこに向いていて、日本国内で当テーマに関連する会社があるのか調べると、エンビプロ・ホールディングスの名前が挙がるようになってきているのではないかと推察しています。