この記事は2022年6月10日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「原油増産拡大も、9月まで1バレル=95~130ドルで推移か」を一部編集し、転載したものです。


原油増産拡大も、9月まで1バレル=95~130ドルで推移か
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2022年4月の国際通貨基金(IMF)世界経済見通しによれば、対ロシア制裁が強化された場合の世界の実質GDP成長率は、2022年に2.7%、2023年に2.4%と減速が予想されている。商品市況は、全般的に価格が高止まり、コストプッシュによる経済への悪影響が懸念されている。

一方、2022年5月下旬に発表された米2022年4月個人消費支出(PCE)では、コロナ危機以降初めて物価上昇率の鈍化が見られた。今後は米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに向かうなか、エネルギーが一段高とならなければ、インフレは徐々に前年比ベースで落ち着くだろう。

足元のWTI原油先物価格は1バレル=120ドル台に達し、およそ3カ月ぶりの高値水準をつけた。米国のガソリン小売価格も一時1ガロン=4.8ドル台と、過去最高値だ(図表)。

背景には、「脱ロシア」の潮流から、2022年4月にロシア産原油が日量約100万バレル消失したことが挙げられる。2022年5月末に欧州連合(EU)は、年末までにロシア産原油の9割を禁輸とすることを決定した。G7は石油輸出国機構(OPEC)に増産を促し、2022年6月2日に行われたOPECプラス閣僚級会合では、2022年7~8月増産幅を従来の日量43.2万バレルから同64.8万バレルに拡大することで合意した。ロシアと米国の動向をうかがいつつ、増産幅を小幅にとどめたとみられる。

今後、EUがロシア産の天然ガスを制裁対象に加えれば、天然ガス市場は、再度の争奪戦から原油の代替需要増につながる可能性もある。中国・上海市も2022年6月からロックダウンを解除しており、経済活動の再開からエネルギー需要が増すだろう。

OPECの公表によれば、2022年の世界原油需要は右肩上がりとなる見通しであり、2022年10~12月期には1億264万バレルに達すると想定される。すでに北半球ではドライブシーズンが到来しており、ガソリン需要は加速するだろう。

一方、足元の米原油、ガソリン、留出油等の在庫は、過去5年平均を大幅に下回る。米バイデン政権はシェールガスの採掘許可や開発投資を促進し、原油高抑制のために増産を促しているものの、依然として米原油生産量はコロナ危機前水準に届いていない。その上、足元で減少した戦略備蓄の補填も必要となっている。

ただ、今後の原油市場は一段の上値に慎重な見方も必要だ。市場の非商業筋のネット建玉はウクライナ侵攻前から減少傾向にあり、価格動向から大きく乖離している。足元の原油高はEUのロシア産原油の段階的な禁輸を織り込んでいるとみられ、需給の歪みが反映されているようだ。

次回のOPECプラス会合は2022年6月30日に行われる。引き続き、産油国は原油高を維持したい思惑と、ロシアや米欧等の緊張関係を巡って、慎重な供給ペースを保ちそうだ。当面は需要回復のなか、ロシアや中東産油国、EUの動向に振らされる展開が予想される。

以上から、2022年9月までの想定レンジを1バレル=95~130ドルと予想する。

原油増産拡大も、9月まで1バレル=95~130ドルで推移か
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みずほ証券 マーケットストラテジスト/中島 三養子
週刊金融財政事情 2022年6月14日号